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「まるでエディ・メルクスのようだ。いや、それ以上かもしれない!」こんなセリフをフランス・レキップ紙のベテラン記者が叫んだのは、セッラ(CSF グループ ナヴィガーレ)が最終マルモラーダ峠の登坂口で勝利へのアタックを打ったときだった。プレスルームにいたイタリア記者たちも、感嘆の言葉に同調するように大きくうなずく。勝っても勝っても勝ち足りない。遠くから勝利につながるアタックを打つ。セッラが成し遂げた2日連続の“山頂フィッシュ”大逃げ勝利は、往年の大チャンピオンに比されるほど素晴らしい偉業であった。
前日第14ステージは13km地点から逃げを打ったが、スタート地点から登りが始まったこの日は、セッラはわずか2kmで逃げをスタートさせた。そして区間2連勝と同様に、山岳賞“マリア・ヴェルデ”のためにも全力を尽くした。第1峠から最終第6峠まで一つももらすことなく先頭通過し、1日で獲得したポイントはなんと55ポイント(通算117ポイント)!残念ながら今ステージで総合山岳賞を確定するには3ポイント足りなかったが、早ければ第16ステージのゴール地点でセッラのミラノでのマリア・ヴェルデが確実となる。もちろん最終日まで走り続けることが条件だ。
一方、昨ジロの山岳賞ピエポリ(サウニエルドゥバル)は、第11ステージの落車に続いて今ステージでも地面に叩きつけられた。すでに肋骨と顔面を痛めていた36歳は、「リッコを表彰台のてっぺんに導く」という使命を果たせぬまま、レースを離れた。
山岳最高のアシストを失ったリッコ(サウニエルドゥバル)は、自らの足でアタックをかけた。ゴール前5km地点で20人ほどに絞り込まれていた有力メイン集団から、最初にアタックをかけたのはペッリツォッティ(リクイガス)だったが、その後はリッコが断続的に数度の加速を断行。少しずつ集団は分断して行き、ディルーカ(LPRブレイクス)が落ち、シモーニ(ディクイジョヴァンニ)が遅れ、最後まで粘り続けたコンタドール(アスタナ)とメンショフ(ラボバンク)も若き“コブラ”の執念に振り落とされた。
そして昨季3大ツールの勝者——ジロのディルーカ、ツールのコンタドール、ブエルタのメンショフ——と、ジロ2勝のシモーニは、付いたり離れたり加速したり遅れたりしつつも、どうやっても最後までリッコに追いつくことは出来なかった。ペッリツォッティの加速を利用してそのまま飛び出していったポッツォヴィーヴォ(CSFグループ)が区間2位に入り、リッコは3位でゴールラインを超えた。またゴール前に最後の力を振り絞って加速したディルーカは、リッコから9秒遅れの4位。シモーニとコンタドールは16秒、メンショフは23秒遅れてゴールした。もちろん3位にはボーナスタイム8秒が与えられるから、リッコの獲得したリードは各選手の遅れたタイム+8秒である。
ただし24歳の若者がこの日の表彰式で袖を通したジャージの色は白。彼が欲しくてたまらないピンク色のジャージは、コンタドールの手に渡った。詰め掛けた大勢の地元観衆からは表彰式でブーイングされてしまったが、昨季ツール勝者は顔色ひとつ変えずに余裕の笑顔を見せていた。追いかけるリッコは33秒差の総合2位、ディルーカは55秒差で総合3位につける。そのあとにTT得意のブルセギン、メンショフ、シモーニがつける。
そして迎える第16ステージは、“山岳”タイムトライアル。最大斜度24%という12.9kmの登り坂が、総合順位に変化をもたらすのだろうか。現在総合2位のリッコは「もしも転ばなければ」という条件付きで、マリア・ローザ取りを宣言している。
●エマヌエーレ・セッラ(CSF グループ ナヴィガーレ)
ステージ優勝、山岳賞
なんて言ったらいいのか分からない。バリアーニに、ペレスに、そしてチームのみんなに感謝の気持ちを伝えたい。心からの感謝をね。ファンからの応援は本当に嬉しいことだし、気持ちを守り立ててくれる。粘り強くがんばろうという気持ちがもらえる。でも今日は少し危険なファンも存在したね。
これまでの不運を、こんな形で覆すことが出来るとは考えてもいなかった。ボク自身でも「新・セッラ」を発見した感じだよ。でも明日ハットトリックを成し遂げられるとは思っていない。この2ステージでものすごい体力を消耗したからね。だから明日の個人タイムトライアルで、これまでの努力の報いを受けることになっても、特に不思議なことではないよ。
●アルベルト・コンタドール(アスタナ)
マリア・ローザ
Giau峠(3番目の1級峠)の登りでは、苦しい時間帯があった。リッコ、ディルーカ、メンショフが先に行ってしまったときは、これにてマリア・ローザは彼らと共に消えてしまうんだな、とさえ考えた。でもしっかり補給を取って、体力を回復したよ。その後は非常にいい感触を持って走れた。最終峠では、後輪の問題で少しもたついてしまった。スポークが1本壊れてたんだ。でも自転車を変えるのではなく、走り続けるほうを選んだ。今は、明日のタイムトライアルを見据えて、しっかり休息を取りたいな。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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