【ツール・ド・フランス2008】第2ステージレースレポート

大西洋岸のブルターニュ地方は、強い海風と変わりやすい天気で有名だ。いっとき強いにわか雨が襲ったかと思うと、次の瞬間には明るい陽光が差し込んでくる。気難しい空模様のせいで多くの選手たちがエネルギーを消耗せざるを得なかったが、「ノルウェーの天気と似ているかもね」と語った選手だけは絶好調でゴールを迎えた。

スタート地では観客と関係者を分ける鉄柵の周りを、ブルターニュの熱狂的なファンたちが幾重にも取り囲んだ。一方、関係者ゾーンの内部では、マイヨ・ジョーヌを写真や映像に収めようと、カメラマンたちがアレハンドロ・バルベルデ（ケースデパーニュ）の周りで一触即発に近い場所取り合戦を繰り広げていた。ただし輪の中心にいる本人は周りの喧騒などなんのその、「本当に素敵な1日を過ごせた」そうである。

フランスの自転車愛好者たちにとっても、今ステージは興奮の1日となった。ステージ最初の峠で、現フランス自転車界を代表する2人の選手、トマ・ヴォクレール（ブイグテレコム）とシルヴァン・シャヴァネル（コフィディス）が飛び出したのだ。一方は2004年に10日間マイヨ・ジョーヌの日々を過ごし、つい昨日も大逃げにトライして山岳賞ジャージを獲得したばかりのヴォクレール。対するシャヴァネルは春先のパリ〜ニースやベルギークラシックで勝利を積み重ね、今季「ついに大化けか？」と期待されている。1979年6月生まれの2人、しかも2001年から2004年まで同じチームで過ごした2人は、後続に6分程度のタイム差をつけた。

さらには強いにわか雨の降るミュール・ド・ブルターニュ、いわゆる“ブルターニュの壁”で、新たなフランス選手2人がカウンターアタックをかける。やはり1979年生まれのダヴィ・ルレイと、大ベテラン37歳クリストフ・モロー。2人のアグリテュベル所属選手だ。ルレイはブルターニュ生まれで、地元の天候や地形を知り尽くしている上に、今季地元レースを3つ制している。昨季ドフィネ・リベレと国内選手権を制した（まさにバルベルデ同様だ）実力者モローと共に、前を行く2人に合流成功。そしてこのフランス選手4人のエスケープ走行は、区間優勝を夢見て最後の最後まで粘り続けた。・・・ただし猛スピードで追い上げてきたプロトンに、結局、目標達成まであと残り1.5kmというところであえなく飲み込まれていった。

アップダウンは多いものの、前日の激坂に比べれば、最終1kmはそれほど斜度は急ではない。そしてちょうど斜度が緩み始める瞬間を狙って、まずはファビアン・カンチェッラーラ（チーム CSC）が飛び出した。さらに2004年、同じサン・ブリューゴールのステージを勝ち取ったフィリッポ・ポッツァート（リクイガス）も執拗についていく。しかし世界個人TT王者得意の十八番を成功させてはならない、とあらゆる選手がペダルを押す脚を強め、2人の賭けはやがて失敗する。そして合流の瞬間、力強く飛び出したのが「ブルターニュ大好き」と言い放った先のノルウェー人だ。

ゴールラインで手を上げることさえ出来ないほど、最後まで激しく踏み込んだトル・フースホフト（クレディアグリコル）のスプリント勝利。2006年ツールでは初日プロローグを制し、「今大会プロローグがないのは非常に残念だ」と常々口にしてきたが、早くも第2ステージ目の勝利で本人は「結局勝つことが出来れば満足なのさ！」と大きな笑顔を見せた。ツールは通算区間6勝目。

またバルベルデは首位と同タイムの12位に入り、“1秒差”で人生2回目のマイヨ・ジョーヌ表彰式に臨むことに成功。前日も激坂で奮闘したキム・キルシェン（チーム コロンビア）は区間2位に入る俊足ぶりを見せて、マイヨ・ヴェールを勝ち取った。もちろん2日連続で大逃げを打ったヴォクレールは山岳賞をさらに確かなものとし、今ジロ新人賞マリア・ビアンカのリカルド・リッコ（サウニエルデュバル）が再び白いジャージに袖を通した。また前日の落車で両手首を傷めたフアンマウリシオ・ソレル（バルロワールド）は、7分18秒遅れの集団最下位で完走している。

●アレハンドロ・バルベルデ（ケースデパーニュ）
マイヨ・ジョーヌ

今日は少し難しいステージだった。風があったし、時々雨も降った。しかもエスケープを追いかける必要もあったからね。それでもマイヨ・ジョーヌを着て過ごす1日というのは、信じられないほど素敵なものだね。ボクにとってもチームにとっても本当に素晴らしい1日だった。ヴィラージュでは誰もがボクに注目して、ボクの名前を叫んでくれた。本当にとんでもないことだよ。

今日のステージはスプリンター向けのゴールだったね。確かにステージ全体は非常に難しかったけれど、最後の登りはゴール地点から少し遠かった。だから前線に残っている選手数が多すぎて、アタックは不可能だったんだ。

●トル・フースホフト（クレディアグリコル）
ステージ優勝

昨日は非常に難しい1日だった。リズムを取り戻せていなかったし、病気のせいで長期間走れなかったんだ。だから昨日の15位という成績ですでに満足していたのに、今日はさらにいい成績を取れた。でも今日、さらに調子よく勝利が取れるとは思ってもいなかった。

今朝から自分に勝機があることは分かっていた。でも実際のステージはきわめてテンポが速かったし、エスケープとのタイム差をコントロールするのは非常に難しかった。ただゴール前4kmからのプロファイルが非常に複雑だと分かっていたから、きっとエスケープを吸収できるだろうと思っていた。カンチェッラーラのような選手の飛び出しを見送るのは危険だった。だからチームメイトのレンショーに「準備万端だ」と合図して、彼が力強くスプリントへの先陣を切ってくれた。

●トマ・ヴォクレール（ブイグテレコム）

ボクが飛び出したそのとき、シャヴァネルも付いてきた。彼と2人で協力し合って最後まで逃げ切ろうと努力したけれど、最終数キロでプロトンのリズムは恐ろしいほど上がっていた。区間優勝を獲りたいうという幻想を抱く暇さえなかったよ。

でも自分の走りには満足しているし、マイヨ・ア・ポワを守ることが出来た。今後もエネルギーの温存なんてしないつもりだよ。この2年は、あらかじめ逃げるステージを選んで行動に移してきたけれど、結果が付いてこなかった。だから今後はあらゆる機会を狙っていく。だからといって、昨日と今日は大逃げを打った。だからさすがに明日は静かに走ろうと思うんだ。