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2008年ツールの上空に、ようやく夏の太陽が顔を出した。「ロワール川より北はいつでも悪天。ロワール川より南はいつでも好天」とフランス人はよく口にするが、確かに今ツール最長232kmの第5ステージは、今ツール初めて最初から最後までロワール川より南で行われた。気温は34度まで上がり、あまりに強い日差しに、観客たちはスポンサーが無料で配る帽子を奪い合ったほど。
連日のフランス人大逃げも、沿道でレースを待つ観客のヒートアップに一役買った。スタートから11km地点で飛び出した3人は、全てがフランス人。しかも初日にすでに大逃げ敢闘賞を獲得したリリアン・ジェグー(フランセーズデジュー)のアタックに付いていったのは、この日のコースから50km程度の町で生まれたニコラ・ヴォゴンディ(アグリテュベル)と、さらに近づいて30km程度の町で生まれたフローラン・ブラール(コフィディス)。2人の“レジョナル(=地元選手)”はまた、前者は現役フランスチャンピオン、後者は2年前のフランスチャンピオンと、フランス国内でも非常に知名度の高い選手でもある。観客たちの大きな声援に後押しされた3人は、一時8分15分まで後続とのタイム差を開くことに成功した。
しかし中央山塊突入を翌日に控えて、数少ないスプリントチャンスを逃したくない男たちが後続集団にはひしめいていた。ステージ最終盤に差し掛かると、実力派スプリンターを抱えるチームが強烈にプロトンを引き始める。しかもタイム差が1分を切ったラスト15kmから、後続はさらに加速。そして極限までスピードを上げた集団は、今ツール最も長いステージの、今ツール最も長い最終ストレート1600mに突入した。
タイム差がわずか5秒程度まで縮まり、誰もがエスケープの終わりを信じたとき、先頭集団からヴォゴンディがひとり飛び出した。青白赤トリコロールカラーのジャージを身にまとい、渾身の力を振り絞って最後の1kmを示すフラム・ルージュのアーチを先頭でくぐっていく。ツール1週間前のフランス選手権で優勝へのアタックを打ったときは、決して後ろを振り向かずに、ひたすら前だけを見て走り続けたヴォゴンディ。ただしこの日は後ろから迫りくる集団のプレッシャーを感じてか、何度も何度も後ろを振り返ってしまった。そして最後は力尽き、ゴールまでわずか100m足らずで大きな波に飲み込まれていった。
大集団で流れ込んだゴールで、最初にスプリントを仕掛けたのはトル・フースホフト(クレディアグリコル)。しかしノルウェーの雷神が完全に先頭に立つ前に、マーク・カベンディッシュ(チーム・コロンビア)も加速を始めた。今年のジロでライバル争いを繰り広げたダニエーレ・ベンナーティ(リクイガス)に「ゴール前50mの加速なら世界1、2を争うね」と絶賛されたが、この日のスプリントは少々長め。本人も「あんなに長いスプリントなんて、本当はボク向きではなかったのに」と語ったが、結局誰一人としてライバルに先行を許さず、カベンディッシュが生まれて初めてのツール区間勝利を獲得した。2位オスカル・フレイレ(ラボバンク)、3位エリック・ツァベル(ミルラム)を自転車一台分も引き離して。
スタート前から「今日は絶対守る」と断言していたマイヨ・ジョーヌのステファン・シューマッハー(ゲロルシュタイナー)は、問題なく総合首位の座を守り切った。ステージ4位に入ったフースホフトがマイヨ・ヴェールを獲得。また第1ステージで落者し、両手首を傷めたフアンマウリシオ・ソレル(バルロワールド)が今ステージ途中棄権。昨大会の山岳王は、難関山岳が始まる前に自転車を降りてしまった。
●マーク・カベンディッシュ(チーム・コロンビア)
ステージ優勝
最終盤は全てを尽くしたし、脚の調子も良かった。グランデパールから精一杯努力してきた。ブレストから積み重ねてきた努力の成果なんだ。最低でも1回は上位3位以内に入りたいと考えていたけれど、優勝することが出来た。最高の気分だよ。チームもステージ勝利のためにボクを助けてくれた。チームメイト全員がボクのために働いてくれた。あらゆる瞬間で働いてくれた彼らに感謝している。特に最終盤の彼らの仕事には大感謝。
自転車競技をしている全ての子供がツールを夢見ている。ボクだって子供の頃はトラック競技など見たことはなくて、ツールしか見たことなかったからね!だからとても大切な勝利だよ。去年11勝を上げて、ジロでも勝って、あと足りないのはツールの勝利だけだったから。素敵だね。もう家に帰ってしまってもいい気分だよ。でも出来る限りパリまで走るつもり。ボクを選んでくれたチームのためにも、新しく付いてくれたスポンサーのためにも、最後までがんばりたい。もちろん山でどれだけ走れるかにもよるけど・・・。
●ニコラ・ヴォゴンディ(アグリテュベル)
最後の100mまで逃げたのに、ほんの少し足りなかったね。でもボクらのチームは再び存在を見せ付けることができた。今日は地元ステージだったから、沿道のファンが大きな声で励ましてくれた。一番近くの村を通ったときは、やっぱり鳥肌がたったよ。フラム・ルージュを一人で先頭通過したときは、プロトンもまだ遠かったし、自分のエネルギータンクもまだ空っぽではなった。だから行けるかもしれない、と信じたんだ。でもこういうタイプのステージ、スプリンターチームが追い上げてくるときは、プロトンにはかなわないんだ。
●トル・フースホフト(クレディアグリコル)
マイヨ・ヴェール
やっと手に入れた!ここ数日、なかなか手に入れることが出来なくて少し失望していたんだ。2005年にマイヨ・ヴェールを手に入れて以降、ボクの最大の目標は再びジャージを手に入れることだった。ステージはもう1つ勝っているから、今後は気分的に楽だね。ジャージのポイント確保のことだけに集中できるから。もちろん今後もステージ勝利は狙っていくよ!
山のトレーニングは通年行っている。山で勝つためのトレーニングではなくて、山で遅れすぎてしまわないためのもの。しっかり山を越えるためのトレーニングさ。とにかく今年はキム・キルシェンがマイヨ・ヴェール争いで上位につけているから、本当に山岳でもうかうかしていられないね。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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