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1998年7月8日に端を発したフェスティナ事件から10年目のツール・ド・フランスに、またしてもドーピング禍が襲い掛かった。バイオロジカルパスポートの採用で、厳しい取り締まりが行われている自転車界にとっては大きな衝撃だ。
大粒の雨が天から落ちてきたスタート地では、リクイガスのチームバス周辺にメディアがつめかけ、他チームの監督や選手からは怒りや悲しみの声があちこちで聞かれた。ツール開催委員会会長P・クレール氏は「事件が起こったことは悲しいが、検査システムが機能していることには満足だ」と冷静なコメント。また第3ステージにマイヨ・ジョーヌを獲得した24歳のロメイン・フェイーリュ(アグリチュベル)は、「今回は特別なケース。自転車界は確実にクリーンな方向に進んでいるとボクは信じている」と自転車界の未来について前向きな言葉を残してくれた。
そして第8ステージが行われた2008年7月12日は、10年前にサッカーフランス代表がワールドカップ優勝を果たした日。母国の栄光を祝うために、当然(?)のように35km地点でフランス人のローラン・ルフェーヴル(ブイグテレコム)が飛び出した。さらに単独で先頭を走り続けるチームメイトを追いかけて、元サッカー小僧のジェローム・ピノー(ブイグテレコム)が2人の友——クリストフ・リブロン(アージェドゥーゼール)とアメッツ・チュルーカ(エウスカルテル)——を引き連れてアタックをかけた。
ところがルフェーヴルはピノーを待たずにひとりでどんどん先を行ってしまい、合流に少々手間取ってしまう。「実はエスケープ中、ボクの無線がしっかり機能していなかったんだ」とゴール後に本人が語ったように、ルフェーヴルは3人が後ろから追いかけてきていることを知らなかったようだ。しかも前日終了時点で4分32秒差で総合30位につけていたピノーは、ルフェーヴルにとっては決して理想的な“助っ人”ではなかった。「彼が来たからには、逃げ切り勝利は難しいだろうとすぐに理解した」と言うように、たとえ豪雨の中でも、総合リーダーを擁するチーム コロンビアがピノーの逃げ切りを許さないだろうと考えたのだ。そして32歳ベテランの読み通り、一時は後続に5分以上の差をつけ“暫定マイヨ・ジョーヌ”集団となった4人はゴールまで逃げ切ることは出来なかった。ピノーとチュルーカだけは最後まで抵抗し続けたが、残り3.5km地点でプロトンに飲み込まれた。
水しぶきを上げながら道路を進むプロトン。第6ステージを制したリカルド・リッコ(サウニエルドゥバル)が濡れた路面で落車し、15分ほど集団を追いかけるシーンが見られた。またゴール前1.2km地点に位置する急カーブでは、前線に集結していたスプリント集団が極めて慎重にカーブを曲がる姿も。しかし最終ストレートでは多くのスプリンターたちが危険を冒してスピードアップ。チーム コロンビアとクイックステップのトレインが熾烈なポジション争いを行った。
最初にスプリントを切ったのは、ヘルト・ステーグマン(クイックステップ)だった。ベルギー生まれで風雨には慣れているよと常々語っているが、タイミングが早すぎたせいかトップスピードは長続きしない。2006年第1ステージを制したジミー・カスペール(アグリチュベル)が次に前に出かけたが、それよりも先にゲラルド・チオレック(チーム コロンビア)の背後から弾丸のようにマーク・カベンディッシュが飛び出した。
第5ステージにツール初優勝を飾ったばかりの22歳が、自分より年上の大ベテランスプリンターたちを軒並みノックアウト。ボーネンやペタッキ、ベンナーティという現役屈指のスプリンターの不在を感じさせない敏捷な走りで、早くもツール2度目の勝利を手に入れた。
1日中プロトン前線でタイムコントロールに勤しんだチーム コロンビアにとっては、チオレックも区間2位に入り見事なワンツーフィニッシュ。しかも区間勝利、マイヨ・ジョーヌ(キム・キルシェン)、マイヨ・ブラン(トーマス・ロヴクヴィスト)という3種類の表彰台に登っている。
●マーク・カベンディッシュ(チーム コロンビア)
ステージ優勝
もちろん第5ステージの勝利のほうが感動は強かった。だってボクにとってのツール初優勝なんだから。それにプレッシャーもあったんだ。でも今後は、いかなることが起ころうとも心から満足して「ボクのツールは成功した」と断言できる。
最終1kmに突入する前の最後のカーブで、少しポジションを失ったんだ。落車が怖かったからね。でもボクはパニックに陥らなかったし、チオレックが最高の形で引き上げてくれた。スプリントが切られた瞬間、ボクはいいポジションにつけていたから、自分の加速力があれば行けるだろうと確信した。それにしてもチオレックが2位でマイヨ・ジョーヌも守れたなんて、チームにとって最高の1日になったね。
マイヨ・ヴェールは狙っていない。今ツールには学び、区間優勝を上げるために乗り込んだ。マイヨ・ヴェールを獲得するには3週間肉体をトップの状態に保たなければならない。ボクにはまだその準備が出来ていない。
●オスカル・フレイレ(ラボバンク)
マイヨ・ヴェール
スプリントでは数メートル失ってしまった。脚がもうついていかなかった。ツール序盤は体調が良くなかったけれど、日々調子が戻ってきていることを感じている。個人的な目標としては区間勝利を上げることと、パリまでマイヨ・ヴェールを持ち帰ること。でもチームレベルの目標は、もちろんメンショフと共に総合優勝を果たすこと。メンショフはここまで好調ぶりを発揮しているよ。
●トル・フースホフト(クレディアグリコル)
道路は非常に滑りやすくなっていたし、最終盤は非常にスピードが上がっていたから、競り合いがものすごかった。ステージ中は体調が良かったんだけれど、スプリントを切ることが出来なかった。自分の思い通りのことが出来なかった。まあこんな日もあるよね。最後のカーブを曲がったあと、レンショーが引いてくれた。でも飛び出そうと思ったときにカベンディッシュが、スーッとミスなく前に入ってきた。だからボクは逆側に飛び出そうと思ったんだけれど、もはやパワーが足りなかったんだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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