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「ボクはビーチにいた」などと、もちろんリカルド・リッコ(サウニエルドゥバル)は言わない。確かにアルベルト・コンタドール(アスタナ)が本来ジロに参加する予定ではなかったように、リッコも本来ツールに出場するはずではなかった。そしてジロ総合優勝を果たしたコンタドールは緊急招集時にビーチバカンスを楽しんでいたそうなのだが、6月末のリッコは普段通りに自転車トレーニングを積んでいたそうだ(一応ジロ直後から1週間ビーチバカンスを取った)。そして「トレーニングしていても調子が非常にいいから、ステージ優勝を目指すためにツール出場を決めた」と、自らの野望を隠すことなく宣言してフランスに乗り込んできた。もちろんリッコ最大の目標は、自らの英雄マルコ・パンターニがジロ、ツール両大会優勝という“ダブルツール”を果たしてからちょうど10年目の今ツールで、難関山岳を制することだった。
2008年ツール最初の本格ピレネー山岳ステージ。前日に大雨の中ゴールを迎え入れたトゥールーズは、この日のスタート時には穏やかに晴れていた。おかげで選手たちは雨粒におびえることなく、“ばら色の街”で一番美しいといわれるキャピトル広場で平和なスタート前の時間を過ごす。また難関山岳ステージとはいえ、前半は緩やかな丘陵が続くだけ。そして比較的静かにステージを滑り出した総合本命や本格ヒルクライマーを尻目に、22km地点で3選手がプロトンから飛び出していった。
アレクサンドル・クチンスキー(リクイガス)、ニコラ・ジャラベール(アグリチュベル)、そしてセバスティアン・ラング(ゲロルシュタイナー)の3人は、この日のステージに登場した7峠のうち第1峠から第5峠アレス(3級)まで順調に先頭を走り続けた。後続には一時14分半近い大差もつける。しかしプロトン前方でエウスカルエルが隊列を組んでスピードアップを図ると、徐々にリードは縮まっていった。そして第6峠の1級ペイルスルドでジャラベールが2人から遅れ、最終第7峠——しかし山頂ゴールではない——のアスパン峠の登りが開始すると、先頭はラングひとりだけになってしまった。
そのラングも、アスパン山頂までわずか1kmというところで先頭から引きずりおろされた。後続メイン集団は登り開始時点からすでに幾多のアタックや加速に見舞われていたが、山頂まで5km地点で、リッコがたった一打のアタックで飛び出していったのだ。しかも1日中逃げを続けたラングにあっさりと追いつくと、極めてクールに追い抜いて行ってしまった。
「下りはまるでミニ個人タイムトライアルだった」と語ったように、リッコは細い体からエネルギーを最大限に搾り出してゴール地へと急いだ。その下りでは集団からウラディミール・エフィムキン(アージェードゥゼール)が“リッコに追いつく目的”で飛び出した。ただし途中で現実を悟って“2位狙い”に切り替えたんだとか。なにしろリッコの走りはそれほどまでに凄まじく、最終的に1分04秒差をつけて今大会2度目の区間優勝を果たしている。
第6ステージに続き、またしても嬉しい衝撃を与えてくれたリッコは、2分35秒遅れの総合21位に上昇。表彰式後には、当然「ツール総合は狙う?」との質問が集中した。囲みインタビューでは一瞬にやりとしながらも、「1日1日を走るだけさ」とはぐらかす。記者会見では「総合のことは考えたくもない。今考えているのは明日のステージだけ。オタカム山頂でピエポリの優勝をアシストしたい」と述べている。
また2位狙いに方向修正したエフィムキンは無事2位ゴール。メイン集団ではシリル・デッセルがゴール前に加速して区間3位をもぎ取ったため、アージェードゥゼールは区間2・3位で終了。そのエフィムキンは満面の笑みで、しかも覚えたてのフランス語で「誰も行かないからボクがチャンスを探しにいった。今日のボクは勝てるレベルに達していなかった。でも次はチームで1〜3位を独占できるくらい、調子をトップレベルに持っていくよ!!」と語ってくれた。またアンディ・シュレク(チーム CSC)がマイヨ・ブランを獲得。
表彰台争いにリッコが参入するかどうかはまだまだ今後のお楽しみだが、総合優勝を狙うためにしっかり準備をしてきた本命選手に、この日もまた不運が襲った。先日のアレハンドロ・バルベルデ(ケースデパーニュ)の落車負傷に続き、今ステージ第5番目の3級アレス峠へ向かう道中でカデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)が地面に転落。左ひじは流血し、ジャージ背中上部がぱっくりと切れ、ヘルメットもひび割れた。怪我の具合がどの程度なのか、未だ総合優勝を狙える体力があるのかは、第10ステージ・オタカムへの登りで見えてくるだろう。
●リカルド・リッコ(サウニエルドゥバル・スコット)
ステージ優勝
最初の区間優勝よりもっと嬉しい!だって今日は難関山岳ステージだったからね。チームメイト全員に感謝の気持ちを捧げたい。特にピエポリはアスパン峠への上り口でプロトンを強烈に引いてくれた。そしてボクがアタックを仕掛けたんだけれど、タイム差はあっという間に開いたし、他のリーダーたちが牽制しあっているのが見て取れた。アスパン峠を越えてからは、ゴールまでの下りは長かったね。
ボクは2つ目の区間優勝を手に入れたけれど、総合順位のことは全く考えたくない。ツールには経験を積むためにやってきたから、総合順位に気をとられたくないんだ。今ツールは確かに、コンタドールという強豪クライマーが欠けている。でも1人だけだよ。他の強豪は全員揃っている。今日に関しては、バルベルデやエヴァンスはお互いを警戒しあってボクの動きにすばやい反応が出来ないだろうと読んでいたから、(彼らが動かなかったのは)予想通りだった。ボクにとってはありがたい出来事だった。
明日は、今日とは正反対のシナリオが成功するよう期待している。つまり最後の峠でピエポリがアタックできるよう、彼の牽引役を務めたいんだ。今日勝てたのは、大部分はピエポリのおかげだから。
●アンディ・シュレク(チーム CSC サクソバンク)
マイヨ・ブラン
マイヨ・ブランで、いい思い出がよみがえってきた(2007年ジロ総合2位&新人賞)。本当の山岳が始まったと同時に獲得することが出来たね。出来ればパリまで守って行きたいな。
今日チームはあえて動かなかったんだ。山岳初日で色々とプレッシャーもあったし、何より最後の山頂からゴールまで30km近い下りだっただろう?。つまりライバルたちから奪えるとしても数秒単位だから、チーム監督のほうから「動くな」と指示されていたんだ。明日はきっと大切な日になるよ。チームは3枚の切り札を持っている。3人のうち誰が一番強いのかは、これから見えてくるのさ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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