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フランス南部の灼熱の太陽が、プロトンの上に激しく照りつけた。しかし休養日明けで心身ともにリフレッシュした選手たちは、スタート序盤から元気良く飛び出しを繰り返す。なにしろクライマーでもスプリンターでもない選手が区間優勝を狙うには、ピレネーの難関を抜け、再びアルプス越えに突入するまでのこの数日間しか残っていないのだ。
アタック合戦に競り勝ち、12人がエスケープ集団を作り上げたのが35km地点。フィリッポ・ポッツァート(リクイガス)、アレッサンドロ・バッラン(ランプレ)、ファビアン・ヴェーグマン(ゲロルシュタイナー)、クルトアスル・アルヴェセン(チーム CSC)などの強豪がひしめく集団は、ハイスピードで順調に逃げを続ける。しかし後続に15分ほどのリードを奪い、協力し合っているかに見えた先頭集団の中から、1級ポルタル峠でアマエル・モワナール(コフィディス)が飛び出した。「友達が2日後に結婚式を挙げるんだ。新婦さんがあの峠の麓に住んでいるから、ちょっとしたお祝いをしてあげたくて!」と、ノルマンディー出身ながらも、現在はこの日のステージ地に程近いトゥールーズに住んでいる“準”地元選手だったのだ。
同峠では、はるか後ろのプロトン内からオスカル・ペレイロ(ケースデパーニュ)も飛び出した。アレハンドロ・バルベルデの不調で総合優勝はあきらめ、区間狙いに切り替えたとチームは声明を発表していたが、15分遅れてのエスケープ追走は果たしてどんな意味を持っていたのだろうか。もちろん総合でわずか6分01秒差のペレイロ——2006年に大逃げを成功させ、結果的にマイヨ・ジョーヌを手に入れたペレイロの逃げを、他チームが許すはずもない。チーム CSCが厳しいスピードコントロールを行い、ゴール前20kmのアーチを待たずに吸収されてしまった。
一方のモワナールは、可能性を信じてペダルを漕ぎ続ける。しかし完璧に協力し合って追いかけてきた11人とのタイム差は縮まるばかり。さらにゴール前4.5km地点でその11人が満を持してアタック合戦を始め、マルティン・エルミガー(アージェードゥゼール)とアルヴェセン(チーム CSC)の飛び出しを成功させると、無念にも先頭を奪われてしまった。ただし「集団内には強豪選手が揃っていたから、負ける覚悟で飛び出した。でもアタックしなければ何も始まらない。だから後悔はない」と語った通り、29秒遅れでのんびり12番目にゴールラインを越えた敢闘賞モワナールは顔に満面の笑みをたたえていた。
先頭となったエルミガーとアルヴェセンに、バッランも追いついた。さらにゴール前1kmでコース・ムーレンハウト(ラボバンク)も加わった。ところが後から加わった2人は、追走にひとりで力を尽くしすぎたせいか、ゴール前スプリントでは思い通りの力が出せずじまい。一方、最終カーブをトップで曲がり、最終ストレートにトップで突入したアルヴェセンは、周囲の動きに合わせてゴールスプリントを切った。ところで2005年ツール第17ステージで2位、2006年パリ〜トゥール2位という“2位男”のアルヴェセンは、「また2位になるんじゃないかと怖かった!」そうなのだ。しかしこの日ばかりはわずか数センチ差で、エルミガーとのスプリント勝負を見事に制した。
14分51秒遅れでゴールにたどり着いたプロトン内では、残りわずかのゴールポイントを巡ってミニスプリントが行われた。本日の区間勝者と同じノルウェー人トル・フースホフト(クレディアグリコル)が13番目の位置を勝ち取り、8ポイントを手に入れた。マイヨ・ヴェール争いでは1位オスカル・フレイレ(ラボバンク)、2位キム・キルシェン(チーム コロンビア)に続いて未だ3位だが、ほんの数ポイントながら2人との差を縮めている。
また朝のスタート地は、今大会2度目のドーピング禍でざわついた雰囲気に包まれた。モイセス・ドゥエナス(バルロワールド)の第4ステージ後のドーピング検体からEPO陽性反応が検出されたのだ。ホテルには警察の取り調べも入り、ドゥエナスの持ち物から禁止薬物が見つかっている(他選手・スタッフの持ち物からは何も違反物は見つかっていない)。しかもショックに陥った同チームの中から、パオロ・ロンゴボルギーニとフェリックス・カルデナスが激しいクラッシュの犠牲となり、負傷のため今ステージ半ばで自転車を降りてしまった。すでに途中リタイアしているフアンマウリシオ・ソレルを合わせて、バルロワールドは9選手中すでに4選手を失ったことになる。
●クルトアスル・アルヴェセン(チーム CSC)
ステージ優勝
今日は脚の調子がよかったし、全てがボクの思い通りにいった。最後のカーブを先頭で突入したのは頭のよいやり方ではなかったね。でも曲がったときはまだ全力ではなかった。その後ギアを切り替えて、それからスプリントに全力を尽くしたんだ。ゴールほんの直前に誰かがボクを追い抜くんだろうな、って思っていたんだけど・・・、誰も来なかったよ!
間違いなくキャリア最高の勝利だ。ジロでは2ステージ勝っているし、23歳以下の世界選手権タイトルも獲得した。でもノルウェー国内チャンピオンジャージを着てツール区間を勝ち取れるなんて。これ以上素敵な快挙は思い浮かばないよ。
ボクにとってここまでは厳しいツールだった。サストレ、シュレク兄弟のために仕事をしてきた。ボクは多くを尽くしたよ。でも今日は自分のチャンスを掴みに行った。ツールではそうたびたび訪れるものではないからね。この勝利をたっぷり味わったら、またチームメイトのための仕事に戻るよ。
●カデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)
マイヨ・ジョーヌ
マイヨ・ジョーヌで走った最初の日。ボクにとってはすばらしい時だったし、十分堪能したよ。沿道の人々はいつも以上にボクを応援してくれるように感じたし、プロトン内の選手たちは普段よりもボクに敬意を払ってくれた。レースペースは速かったけれど、ボクが苦しめられることはなかった。もちろん落車のケガから完全に立ち直るためにはもう少し時間が必要だけれど、今のところはうまく行っている。
苦しまないように、自転車の上でのポジションを変えたんだ。左側のハンドルとブレーキを少し上に持ち上げた。調子はどんどん良くなっている。ボクのチームの実力に対して疑問を抱いている人も多いようだけど、ボクは断言できるよ。チームは素晴らしいし、マイヨ・ジョーヌを守ろうというモチベーションも高い。我らがスプリンターのマキュアンでさえボクのために働いてくれるのを見て、皆さんは驚くだろうね。彼は素晴らしい指揮官だよ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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