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南フランスの強烈な日差しが、沿道沿いに広がるブドウ畑に燦々と照りつける。2008年産のラングドックワインはどうやら美味しくなりそうだ・・・。こんな風にプロトン内の選手たちが考えたかどうかは知らないが、翌日からのアルプス接近を控えて、総合狙いの優勝選手たちはおとなしく体力温存に努めた。アタック合戦とスプリントチームの追走が過熱した最終盤を除いて、レース全体はかなりのスローペースで進んだ。
そんな状況を利用して、フローラン・ブラール(コフィディス)とニキ・テルプストラ(チーム ミルラム)が大逃げにトライ。あっという間に10分近いタイム差をつけると、しばらくは静かなエスケープ状態が続く。序盤のプロトンにほんの小さな動きが見られたのは、この日登場した3つの4級峠の山頂近くだけ。山岳ジャージを身にまとうセバスティアン・ラングと、チームメイトで山岳賞2位のベルンハート・コール(共にゲロルシュタイナー)が、3位通過=1ポイントを手に入れるために前に出たのだ。前者が2回、後者が1回それそれポイント獲得を成功させている。
一方、プロトンのはるか前方では、100km地点付近でキャラバン隊の車が炎上するアクシデントが発生。沿道でプロトンを長時間待ち受けるファンにとってのお楽しみが、悲劇に転じてしまった。さらに悲劇だったのは、消火活動を優先させるために大多数のキャラバンカーがコース外を大きく迂回せざるを得なくなったこと。多くのファンが待ちぼうけをくらい、失望の声を上げていた。
静かだったプロトン内にも、さすがにゴールまで50kmを切ると動きが見え始める。ゴール前42.5km地点の第1中間スプリントポイント直前では、集団からフアンアントニオ・フレチャ(ラボバンク)が飛び出した。そして約3分前に同地を通過したエスケープ2人に続いて、ポイント地点を3位通過。チームメイトでグリーンジャージを着るオスカル・フレイレのために、ポイント潰し=他の有力選手にポイントを取らせない作戦に出たようだ。続く2度目のスプリントポイントでも同様に飛び出したが、今度はステファヌ・オジェ(コフィディス)が背後から付いてきた。そしてこのオジェが3位通過を果たす。
前方の2人も、この2度目のスプリントポイントを前に協力体制を解消し、テルプストラがひとり先行を始めていた。置いていかれたブラールは、追いついてきたオジェと共に必死の追走を続ける。ただしゴール前14kmでコフィディスペアはプロトンに吸収され、テルプストラの孤軍奮闘も向かい風の厳しいゴール前10kmで終了。その後、“3人目”のコフィディス、シルヴァン・シャヴァネルが最後のチャンスを狙って飛び出していったが、無念にも残り3kmでスプリンターチームに先頭を譲っている。
これまで15度ツールを迎え入れてきたニームの街で、大集団スプリントが行われるのは戦後初めて。その記念すべき勝利を、圧倒的な強さで勝ち取ったのはマーク・カベンディッシュ(チーム コロンビア)だった。前日に続く区間2連勝、もちろん今ツール最多の4勝目。トラック出身で驚異的なトップスピードを誇る22歳のスプリンターは、ベテランスプリンターたちに全く仕事をさせなかった。ただし4勝をしてもポイント賞は未だ28ポイント差の総合2位。パリまで無事にたどり着き、シャンゼリゼ大通ゴールを制することが出来れば・・・、マイヨ・ヴェールに手が届くかもしれない。
完璧な“移動ステージ”に終わったこの日は、総合上位の順位に変更はなかった。カデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)が1秒差で、マイヨ・ジョーヌを4日間守り続けた。
●マーク・カベンディッシュ(チーム コロンビア)
ステージ優勝
風はないと聞かされていたのに、実際は最終ストレートにはかなりの風が吹いていた。だから思い描いていたスプリントは切れなかった。それでも加速することができたし、リードを守りきることが出来た。チームもしっかりボクを守ってくれた。チームメイトのおかげで勝利を手に入れられたんだよ。最終1kmでは、常に彼らはボクをパーフェクトなポジションまで引き上げてくれる。今日はブルグハートがボクを牽引してくれて、リクイガストレインの真ん中まで連れて行ってくれた。それからボクはこのトレインを利用して、ステージ優勝を掴みとったんだ。
ボクは区間4勝を挙げたというのに、まだまだマイヨ・ヴェール争いには程遠い。ジャージを獲得するためには安定した成績を出す必要があるし、ボクにはまだその経験がないんだね。ボクはステージは勝てたとしても、次の日には10位でゴールしたりするから。一方でフレイレのようなほかの選手たちは、常に2位や3位に入っているから・・・。パリまで完走するかどうかはまだ決めていない。1日1日の走りを見て考えていきたい。
●カデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)
マイヨ・ジョーヌ
ケガは少しずつだけれど、確実によくなっている。まだ痛むけれど、あと数日もすれば体の左側を下にして眠れるようになるはずさ。我々のチームには強力クライマーがいるわけではないけれど、チオーニとポポヴィッチが山での仕事を引き受けてくれるだろう。ここ数日間、この2人はただ他選手の背後に隠れて、しっかり体力を温存していた。好調なままアルプス山岳ステージに突入するためにね。アールツもここ数年では最高の仕上がりだ。これまでボクが戦ってきた全てのツールで、彼はいつもいい仲間だったけれど、これからの数日間は勇敢な同士に変身してくれるはずさ。
CSCは数的に有利だ。ラボバンクは去年よりは強くないようだ。だからメンショフはたった一人で状況をコントロールすることになるだろうね。この先パリまで、いつ決定的な事が起こってもおかしくない。だから今日のようなステージでも、ただ静かに走っているだけではダメなんだ。リラックスしすぎると、集中力を失ってしまうからね。
●オスカル・フレイレ(ラボバンク)
マイヨ・ヴェール
今日はポイントをたくさん失ってしまった。カベンディッシュには警戒しなければならないね。もしもディーニュ・レ・バン(第14ステージ)がスプリントで終わった場合、彼がマイヨ・ヴェールを獲る可能性もある。パリも同じ。パリは彼にとって完璧なステージだからね。だから今現在、マイヨ・ヴェールは未だボクのものになったとは言い切れない。今後もポイントを重ねていかなくてはならない。もしも1日で大量にポイントを失ったら、全てを失ってしまうことだってあり得る。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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