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この日も南仏の空は真っ青に晴れ渡った。空気が乾燥しているため日陰に入ればヒンヤリ涼しいのだが、強烈な陽光が照りつける日向はチリチリと暑い。そしてこんな太陽がなにより大好きなのはスペイン人たち。チーム CSCのカルロス・サストレなどはツール第1週目の悪天候にへこんでいたそうだが、暑さ到来のおかげで体と心の調子がどんどん上向きなのだという。そしてステージ優勝を飾ったのも、やはりスペイン人だった。
アルプス越え直前の最後の“移動”ステージは、序盤1時間の時速が52.5kmという超高速レースとなった。残り少なくなってきた区間勝利のチャンスを掴むために飛び出したい選手と、やはり残り少ないスプリント勝負を目指して危険人物を逃がしたくないスプリンターたちとの目くるめく激しい攻防戦が繰り広げられたのだ。ピリピリした雰囲気の中、それでもサンディ・カザール(フランセーズデジュー)、ホセイバン・グティエレス(ケースデパーニュ)、ウィリアム・ボネ(クレディアグリコル)、ブラム・タンキンク(ラボバンク)の4選手が大逃げの切符をもぎ取る。
ただしレースちょうど中間地点で、4人が後続につけたリードは7分ほど。カザールが「逃げ切りは難しそうだ」と悟ったように、レース後半に入るとスプリンターチームの追い上げが徐々に激しさを増していく。ゴール前9.5kmの4級オルム峠ではグティエレスが孤軍奮闘を続けたが、結局これが最後の踏ん張りとなってしまった。
このオルム峠では、マイヨ・ジョーヌのカデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)の脚を試しにかかる動きも見られた。1秒差で2位に甘んじているフランクの弟アンディ・シュレク(チーム CSC)や、「総合は諦めて区間狙いに転向する」と宣言したもののケガの回復と共に調子も取り戻してきたアレハンドロ・バルベルデ(ケースデパーニュ)が軽いアタックで揺さぶりをかける。文字通り“揺さぶり”程度で、最終的には翌日の難関山岳ステージを前にちょっとした挑戦状を叩きつけた形となったが、このアタックの波をきっかけにシルヴァン・シャヴァネル(コフィディス)だけは本気で飛び出していった。
ところがやはり同じオルム峠で、マーク・カベンディッシュ(チーム コロンビア)が遅れ始めていたのがシャヴァネルにとっては運の尽き。今ツールで区間4勝を上げた22歳の分断を、勝利が欲しくてうずうずしていた他のスプリンターチームが見逃すわけがない。“希望”を抱いたスプリンターたちは、標高599mの高台ゴールを集団スプリント勝負に持ち込むことに成功した。
そして少々小さくなった集団内でのスピード合戦。“スプリント王”の証マイヨ・ヴェールを着用しながら、今ツールここまで1勝も出来ていなかったオスカル・フレイレ(ラボバンク)が待望の勝利を手に入れた。世界選手権を3回制した男の、ツール区間通算4勝目。カベンディッシュは今年のツールだけで4勝を叩き出してしまったが、決して3週間のステージレース向きではないフレイレにとっては全部で5回のツール参加でようやく手に入れた4勝目だ。当然今までもマイヨ・ヴェールには縁がなかったが、この勝利でパリでの栄光がぐっと近づいた。もしもフレイレが最終的に首位を守り切ると、ツール史上初のスペイン人ポイント賞に輝くことになる。
総合上位は変わらず。ライバルたちの挑発にもかかわらずエヴァンスは静かに1日を終えた。しかし翌日の山頂フィニッシュでは、チーム CSCが「本格的にエヴァンスを攻撃する」と断言している。「攻撃力や守備力ではなく、安定性がボクの強み」と語るエヴァンスが、1秒差のマイヨ・ジョーヌを守り続けることが出来るだろうか。
●オスカル・フレイレ(ラボバンク)
ステージ優勝&マイヨ・ヴェール
今日のゴールはボク向きだった。ポジション取りが普段より簡単だったよ。それに最後の登りがプロトンを分断してくれたから、選手の人数も少なかったしね。ここ数日間のように、まずはポジション取りのためにスプリントをする、という必要がなかったんだ。調子もよかった。スプリントを切る前に調子がよいと感じることができたのは、今年初めてのことだよ。
ステージの間、カベンディッシュと話をしたんだ。彼の次なる目標がマイヨ・ヴェールかどうか質問してみた。彼ははっきりと『そうだ』と答えた。でも最後の登りで彼は遅れてしまったから、今ステージの勝利はマイヨ・ヴェール獲得に向けて好材料さ。ツールには出来る限りたくさんステージ勝利を挙げようと思って乗り込んでくる。だから今日は今大会初勝利を手に入れることができて本当に嬉しい。でも現実的にならなきゃね。カベンディッシュは4勝を挙げて、今ツール最強スプリンターだということを証明したよ。でも今後も毎日、ボクはステージ勝利を手に入れるために努力する。
●シルヴァン・シャヴァネル(コフィディス)
最後の峠でアタックがいくつか起こったから、ボクも付いて行った。それなのに結局一人になってしまった。だから難しかったよ。逃げ切り勝利を信じたけれど、背後ではスプリンターチームが迫ってきたんだ。昨日も今日もアタックしたけれど、明日もボクのアタックがお目にかかれるかもしれないよ。なにしろ月曜日は休養日だからね。
●サンディ・カザール(フランセーズデジュー)
体調がよかったからエスケープに挑戦した。このステージは前から目をつけていたんだ。最初に21人で逃げていたときは連携が上手くいっていた。協力しない選手はアイゼル(チーム コロンビア)だけだったけれど、当然のことさ。その後4人がアタックして逃げ始めたときは、スプリンターチームがどんな動きを見せるか分からなかったけれど、プロトンが7分しかタイム差を許してくれないのを見て、逃げ切りは厳しいことを悟った。もう少し人数が多ければよかったね。それにアルプス前だから、もしかしたら選手たちは体力温存に出るかもしれないと思っていた。でも結局は、後方プロトンは加速してきたんだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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