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大会2日目の休養日には、選手たちは家族と水入らずのときを楽しんだり、軽いトレーニングを積んだり、記者会見を開いたりとそれぞれの休日を過ごしたはずだ。そして休養日翌日の第16ステージ、勝利をつかんだのは「家族が来なくてちょっとさびしかったけれど、その代わり1日中部屋でマッサージを受けていたよ」と語ったシリル・デッセル(アージェードゥゼール)だった。
真夏の太陽が照りつけたイタリア−フランス国境越えアルプスステージを最初にわかせたのは、その休養日当日に27歳の誕生日を迎えたステファン・シューマッハー(ゲロルシュタイナー)。第4ステージ個人TTを制し、マイヨ・ジョーヌを2日間着用したシューマッハーは、35km過ぎに5人の逃げ集団を作り上げると、超級ロンバルド峠の登りでたったひとり先頭に立つ。最初の峠で逃げを打つのは「チームメイトのベルンハート・コールの山岳賞ジャージ固めを助けるためのチームオーダーだった」そうだが、さらには続く超級ボネット峠でも単独登頂へと挑戦を始めた。
ただし後方では、30人程度の“クネゴ集団”——追走集団内での総合最上位(第15ステージ終了時で15位)ダミアーノ・クネゴ(ランプレ)の名前を取って、ステージ中盤は長い間こう呼ばれ続けた——が形成されていた。しかもヨーロッパ大陸において“車で通過できる最標高ルート”である標高2802mのボネット山頂へ向かって、この集団が恐ろしい勢いで加速・分断を始めていた。最終的に肝心のクネゴは途中で千切れてしまったが、山頂まで6kmを残した地点で、向かい風に苦しめられていたシューマッハーはこの追走集団に先頭を奪われてしまう。そしてジョンリー・オーガスティン(バルロワールド)が山頂をトップ通過すると、4選手がすぐ後に続いた。
このオーガスティンが、下りで姿を消した。カーブを曲がりきれずに縁石を乗り越えて、視界の外へと派手なダイビング。一歩間違えば大事故というシーンだったが、幸いにも落ちた先は砂地だった。「瞬間的にショックを受けたけど、体のどこも痛めていないことに気がついてすぐに落ち着いた」とゴール後に笑顔で述べたように、一見する限りでは、膝に小指程度の小さな擦り傷が出来ているだけ。もちろん四つんばいで這い上がったため、体全体は砂まみれ。「沿道のファンがボクを道路まで押し上げてくれたし、この人が自転車も運んでくれたよ」。
こうしてステージ優勝争いには、4選手だけが生き残った。残り1kmを示すフラムルージュ直前でヤロスラフ・ポポヴィッチ(サイレンス・ロット)がアタックを仕掛け、続けて下りの間は最後尾につけてライバルたちの様子を警戒していたサンディ・カザール(フランセーズデジュー)がカウンターアタックを打ち、さらにダビ・アローヨ(ケースデパーニュ)がスピードアップして追い抜いたが、最後は「ゴール前150mの幅の狭いカーブをゴール地点だと思って加速した」デッセルが前に出た。そして件のカーブに先頭で突入すると、「カーブ後に前の選手を追い抜くことは不可能」と予想していた通り、誰にも追い越されることなくゴールラインを猛スピードで通過した。33歳にして初めてのツール区間優勝で、デッセルには「カメラマンには悪いけど」勝利のジェスチャーをする余裕などなかったそうだ。
一方、後方のメインプロトンでは、ここ数日同様のチーム CSCトレインが炸裂していた。前エスケープ集団にイェンス・フォイクトとクルトアスル・アルヴェセンを送り込んでタイム差を上手にコントロールしつつ、ニキ・セレンセンやファビアン・カンチェッラーラがいつも通りに猛ペースを強いて集団を分裂させると、登りではまたしてもシュレク兄弟&サストレがライバルたちを苦しめる作戦にでた。
・・・確かに前日までの総合4位クリスティアン・ヴァンデヴェルデ(チーム ガーミン)は大幅にタイムを失い、キム・キルシェン(チーム コロンビア)やデニス・メンショフ(ラボバンク)もマイヨ・ジョーヌ集団から35秒遅れを取った。49秒差に総合上位6選手がひしめく状況から、49秒差に4選手が競い合う事態に変化した。しかし最大の敵であるカデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)やコールは、マイヨ・ジョーヌのフランク・シュレクと共に無問題でステージを終えた。2人との総合タイム差は8秒、7秒のまま動かない。
「エヴァンスが今日最大の勝者」「同じ事を繰り返しても無駄」「CSCは総合優勝を決定的にするチャンスを失った」などという意見が、ツール関係者の口から漏れ出した。レース後の記者会見でもズバリ上記のようなことを指摘されたフランク・シュレクは、少々むっとした表情を見せながらこう返答している。「ツールはわずか1日で失ってしまうことがある。しかしたった1日で勝つことは出来ないんだ」。
●シリル・デッセル(アージェードゥゼール)
ステージ優勝
スタート前にロードブックでゴールプロフィールをチェックしたときに、ゴール前150mに幅の狭いカーブがあることが分かった。他の選手もボク同様にロードブックを見ていたかどうかは分からないけれど、ゴール前の詳細がわかるのはありがたいし、目を通しておくのに越したことはないね。そしてボクは例のカーブをゴール地点だと思って加速して、先頭で突入した。だって幅の狭いカーブでは、カーブ後に前の選手を追い抜くことは不可能だからね。でもゴールラインでは腕を上げなかった。後ろの選手たちの状況が全くわからなかったから。ツールの区間優勝はあまりにも大切なものだから、危険を冒したくなかったんだ。
区間勝利が出来るとは思ってもいなかった。エスケープの人数が多かったし、集団内には実力のある選手が複数いた。それにボネット峠ではヴァリャベッチのために仕事もしたんだ。でも山頂を越えて下りで4人になったとき、ステージ優勝の可能性を考えた。とにかくポポヴィッチが飛び出してしまわぬよう、極めて集中して走った。
2006年にマイヨ・ジョーヌを獲得したとき、実はゴール地点で少しがっかりしていたんだ。ボクにとって大切なのは、区間優勝、勝利だったから。あの日のボクは区間2位だった。ゴールラインを超えて、腕を天に突き上げたかった。今になって振り返ってみるとマイヨ・ジョーヌというのは、区間優勝よりも後々まで人々の記憶に残るもののようだね。それでも今年は、どうしても区間優勝したいと思っていたんだよ。
●フランク・シュレク(チーム CSC)
マイヨ・ジョーヌ
今日もいい仕事が出来た。サストレがすごくいい走りをしていたし、ボクが冷静でいられるよう助けてくれた。大人数のエスケープ集団が前を走っていたときも、『パニックに陥るな、前集団には行かせておけ。前にはフォイクトとアルヴェセンが入り込んでいる。心配ない』と言い聞かせてくれたんだ。
明日は何があってもアタックをかけて、他選手を引き離さなければならない。今日も引き離そうと努力したんだけれどね。それにサストレが山頂で飛び出そうとしたけれど、向かい風が強すぎて出来なかった。とにかく明日は行かなきゃならない。弟のアンディがマイヨ・ブランを今日取れるとは予想していなかった。彼はとんでもない実力の持ち主だ。弟を誇りに思うよ。彼は将来、ツールチャンピオンになる男さ。
●アンディ・シュレク(チーム CSC)
マイヨ・ブラン
第10ステージ・オタカムのゴール以来、ボクの使命は兄フランクを助けること。残念なことに、今日はチームメイトたちは絶好調とはいえなかった。だから他のライバルたちを蹴散らすだけの速いペースは刻めなかった。でもボク自身は非常に体調もよかったし、いいテンポで登ることが出来た。明日のステージでも今日のような走りが出来れば、パリまで新人賞ジャージを守れるだろう。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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