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サイクル ロードレース コラム 2008年7月24日

【ツール・ド・フランス2008】第17ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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チーム CSCがまたいつもの作戦に出るのか、それとも作戦を変えるのか。思い切ってステージ最初の超級ガリビエ峠から飛び出し?それともラルプ・デュエズでの短距離勝負?・・・スタートの朝、マイヨ・ジョーヌのフランク・シュレク擁するCSCのチームバスの周りでは、こんな疑問が飛び交っていた。そんな雰囲気を察してか、チームバスの周りにはファンやメディアが近寄れないようにテープが張られ、チームバス内部ではリース監督が長時間の作戦会議。ようやく表に出てきたシュレク兄弟は、笑みをたたえながら無言で出走サイン台へと向かう。もうひとりのリーダー、カルロス・サストレは「今日どこでアタックするかって?さあね、脚の調子次第さ」とあいまいなセリフで立ち去った。

ガリビエ、クロワ・ド・フェール、そしてラルプ・デュエズという3つの超級峠が行く先にそびえ立つ、2008年ツールの“エタップ・レーヌ(女王ステージ)。スタートから3km地点でペーター・ヴェリトス(チーム ミルラム)、レミ・ディグレゴリオ(フランセーズデジュー)、ルーベン・ペレス(エウスカルテル)が飛び出し、さらに15km地点でステファン・シューマッハー(ゲロルシュタイナー)が加わった。チームメートのベルンハート・コールの山岳賞ジャージを安泰なものにするために、前日第16ステージでも逃げを打って敢闘賞に選ばれたシューマッハーは、この日は最初の4級峠と超級ガリビエ峠をトップ通過。

おかげで今ステージ終了後に、コールの山岳賞受賞が正式決定した。残りステージの山岳ポイントをたとえ全部獲得したとしても30ポイント。2位以下にすでに45ポイント差をつけているコールは、あとはパリまで完走するだけだ。

役目を終えたシューマッハーや逃げの友たちが脱落していく中、ヴェリトスだけは最後まで逃げを続ける。チーム ミルラム監督V・アルジェーリから「チームが絶対的リーダー(ペタッキ)を失った今、若手の逃げも積極的に許したい。特に昨季の世界選手権23歳以下部門のチャンピオンのヴェリトス」と名指しで注目候補に挙げられていた23歳は、超級クロワ・ド・フェール峠をたったひとりで越えていく。さらに下りで後ろから合流してきたジェローム・ピノー(ブイグ テレコム)と共に、最終ラルプ・デュエズの登坂口までもなんとか先頭でたどり着く。しかしツール伝統の九十九折が始まると、優勝本命たちに主役の座を譲った。

本命たちの戦いは、クロワ・ド・フェールの登りからすでに始まっていた。もちろん戦いの火蓋を切ったのは、もはや恒例となったCSCトレイン。2つの超級間の平地では、ファビアン・カンチェッラーラを含む6選手が恐るべき加速を繰り返す。そしていつも通りにプロトンは引きちぎられ、メイン集団にはいつも通りのメンバーが揃った。と、そこからがいつもとは少し違った。これまでのように登りでシュレク兄弟とサストレが断続的な加速を行いライバルの脚を痛めつけるのではなく、とんでもなく大きな一撃でライバルたちを全滅させたのだ。

その一撃を成功させたのがサストレ。ラルプ・デュエズの登りに入った瞬間に大きな加速を行うと、数百メートル後にさらに強烈なスピードアップ。あっという間にサストレは遠くへと飛び立っていった。後方ではマイヨ・ジョーヌ&マイヨ・ブランのシュレク兄弟が厳しくライバルたちを監視。複数の選手が繰り返し飛び出しを試みるも、ひとつひとつ丁寧に兄弟につぶされていった。

最終的にはカデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)だけが、ひとり、先頭の集団で必死にスピードアップを試み続ける。「後方でのシュレク兄弟のアシストのおかげで、安心して前進することが出来た」と後に語ったサストレと、誰一人として追走に協力してくれないエヴァンス。両者のスピードの差は明らかだ。結局、山頂で人生2度目のステージ勝利を手に入れたサストレから、エヴァンスは2分15秒遅れてゴール。そして前日まで総合4位だったサストレは人生初のマイヨ・ジョーヌに袖を通し、エヴァンスは8秒差の総合3位から1分34秒差の総合4位へと順位を落とした。

またマイヨ・ジョーヌを着用しながらサストレに好アシストを見せたフランク・シュレクは、1分24秒差の総合2位へと格下げ。ただしゴール前のミニスプリントのおかげで、エヴァンスとの差は8秒から10秒へと開いた。弟アンディは新人賞マイヨ・ブランの座を堅守。チーム CSCの大活躍——総合首位・2位、マイヨ・ブラン、チーム総合首位——にリース監督は満足でないはずはなく、「とにかく今後何が起こっても、ボクは幸せだ!」と心から笑った。

一方でサイレンス・ロット監督M・セルジャンは、「総合1分以内のタイム差は想定していた。しかし1分34秒とは、思った以上の厳しい状況だ。もちろんまだ総合優勝の可能性は残っている。でも正直に言って、心配だね……」と複雑な表情を見せた。最後の真剣勝負個人タイムトライアルの前に、まだまだ難しい2ステージが待っている。


●カルロス・サストレ(チーム CSC)
ステージ優勝&マイヨ・ジョーヌ

夢が現実になった。これまでの人生は、この瞬間が訪れることをただただ夢見てきた。チームメイトの協力なしでは夢の実現は不可能だったし、フランクとアンディが、ボクにアタックしてタイム差を取りに行く自由を与えてくれなければ、やはり不可能だった。今日スタート地で告げられた戦術は、レース序盤で加速してライバルたちに厳しい戦いを強いることだった。ガリビエ峠からトレインを始めるつもりだったけれど、向かい風が酷かった。だから少し待つことに決めて、クロワ・ド・フェール後から加速を始めたんだ。

ラルプ・デュエズの登り序盤で、アタックすることに決めた。フランクに、ボクは調子がいいと告げてあったんだ。そしたらフランクが、ボクの思い通りに走る許可を与えてくれた。ボクはアタックしたとき、ただひとつのことしか考えなかった。登りでライバルたちからタイム差を奪うこと。アンディとフランクは自らの成績を犠牲にして、ボクの逃げを守ってくれた。これはチーム哲学でもあるんだ。今日はボクのために全チームメイトが尽くしてくれた。こんなチームに所属できて最高だよ。

今日はジャージを満喫したい。それにあと2日間はマイヨを楽しめるだろうね。土曜日の個人タイムトライアルでボクがマイヨを守りきれるかどうか判明する。だから今は先のことを考えたくない。


●フランク・シュレク(チーム CSC)

ボクらが成し遂げたこと、見せ付けたことはファンタスティックだ。ボクらは本当に強かったよ・・・。全チームメイトに脱帽だ。これでタイム差が十分かどうかはわからない。でもチームはツールを勝ちたいんだ。だから戦術は一つだけ。今日ボクらが使った戦術、つまりチーム全員で仕事をすることだ。今日はその戦術を上手く実行した。今後はサストレがリーダーで、ボクは総合2位、アンディはマイヨ・ブラン。チームの大快挙だね。


●アンディ・シュレク(チーム CSC)
マイヨ・ブラン

ボクらチームが圧倒的に最強だった。チーム全体の勝利だ。サストレの勝利は本当に嬉しい。ずっと待ち望んでいた勝利だし、このためにハードなトレーニングを積んできた。今日は誰も彼の後を付いていけなかった。信じられないほど強かった。彼がアタックしたとき、誰も何も出来なかった。ボクはまだ、この場に学びに来ているだけ。強さも見せ付けたけれど、弱点も露呈した。今はとにかくラルプ・デュエズを3位で終えたことに満足しているよ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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