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3週間を戦い抜いた145人が、パリに到着するまであと1日。大部分の選手たちはヴィラージュでのんびり知り合いや家族と話に花を咲かせたり、スタート地に設置されたブティックでお土産を買い込んだりと、最終タイムトライアルのスタート前からすでにリラックスした様子を見せていた。もちろんステージ優勝を狙うスペシャリストと、総合上位陣を除いては。
午前10時半過ぎ、カデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)はたった一人でコース下見に出かけた。その後チームバスに戻ってくると、午後1時からウォーミングアップ開始時間まで、チームが特別に借り上げた民家の一部屋でゆっくり体を休める。その民家とはチームバスの真後ろにあり、エヴァンスが人目に晒されるのはわずか数十秒。前日までの総合4位・1分34秒差から大逆転総合優勝を果たすために出来る限りの努力をしたい、そんなエヴァンスとチームは真剣だった。
しかし意欲は空回り。最後から4番目にスタートしたエヴァンスは、総合1位カルロス・サストレ(チーム CSC)から思うようにタイムを奪うことが出来なかった。「計算では、第1中間計測地点で30秒から40秒は縮める必要があったんだけど」とゴール後にサイレンス・ロットのルダン助監督は語ったが、実際に18km地点でエヴァンスが縮めたタイムはわずか8秒だけ。
一方、チームバスも選手たちもゆっくりスタート入りしたチーム CSCでは、世界選手権個人タイムトライアル2連覇のファビアン・カンチェッラーラが好タイムを叩き出し暫定1位に立っていた。前日にサストレは「カンチェッラーラからあらゆる地点の情報をもらえるのは有利」と言っていたが、その通り、サストレは確実なペース配分とコース取りで決してライバルたちにリードを許さない。しかもゴール前6km付近では、3分前にスタートしたチームメイトのフランク・シュレクを追い抜くほどの快走さを見せる。
ゴールラインに駆け込んだエヴァンスは、ひとことも言葉を発することなく、ボディーガードに付き添われてドーピングコントロールゾーンへと消えていった。8位→4位→2位と年々半分ずつになっていった総合順位も、どうやら今年は計算通りには行かなかったようだ。「去年は2位で本当に嬉しかった。今年は2位でがっかりしている」とセルジャン監督も肩を落とした。
その数分後、マイヨ・ジョーヌを身にまとうサストレがゴール地へと現れた。義理の兄であり、2003年末に亡くなった元自転車選手ホセ・マリア・ ヒメネスへの祈りを天に捧げると、スタッフの腕の中に飛び込んだ。ゴール付近でうろうろそわそわと待っていたチームメイトたちやリース監督とも喜びを分かち合う。あとはパリに無事に到着しさえすれば、33歳にして生まれて初めてのグランツール総合優勝を手に入れる。史上7人目のスペイン人総合優勝、2006年オスカル・ペレイロ、2007年アルベルト・コンタドールに続く、3年連続のスペイン人マイヨ・ジョーヌの誕生である。
また山岳賞ジャージのベルンハート・コール(ゲロルシュタイナー)は好走を見せて総合3位を確定。「総合5位以内ではなく10位以内が目標」と常々語っていたクリスティアン・ヴァンデヴェルデ(チーム ガーミン)は総合6位から5位へと上昇し、自己目標を大きく上回る好成績をあげた。逆にフランク・シュレクは総合2位から6位へと陥落。弟のアンディはマイヨ・ブランを守り切り、2007年ジロに続くグランツール新人賞に王手をかけた。
区間優勝はTTスペシャリスト・カンチェッラーラのタイムを唯一上回った——しかも21秒も——ステファン・シューマッハー(ゲロルシュタイナー)がさらった。第4ステージに続く個人タイムトライアル勝利。これまではむしろクラシックハンターにカテゴライズされていた27歳だが、今後はTT強者としても注目されそうだ。本人は「いつかはツールで総合10位を狙ってみたい」と意欲的だから、今後はクライマー能力にも磨きをかけていくのだろうか。ちなみに「体重が多いからちょっと難しいかな」とのことだ。
●ステファン・シューマッハー(ゲロルシュタイナー)
ステージ優勝
パーフェクトなレースを戦った。アップダウンが多いボク向きのコース設定だった。最初から最後まで速いリズムで漕ぎ続けたけれど、エネルギーは出来るだけ温存した。そして最後の登りに最大限に集中した。だって登りではたくさんのタイムを失う可能性があるけれど、タイムをたくさん稼げる可能性もあるからね。全てが上手くいったよ。
今ツールで起こったことは信じられないね!ゲロルシュタイナーが自転車競技から撤退するのはもちろん残念だ。ただ今はチーム全員が一丸となって好成績を挙げようと努力している。我々は若いけれど可能性を秘めたチームだ。選手全員が出来る限りの走りを見せた。そしてコールが山岳賞と表彰台を勝ち取った。素晴らしい結果だね。
●カルロス・サストレ(チーム CSC)
マイヨ・ジョーヌ
マイヨ・ジョーヌを守り切った。ずっと前からの、自転車を始めた頃からの夢だった。今の気持ちを言葉で表現するのは本当に難しいね。この先もずっと好きなこと、つまり自転車を続けていく。今後も難しいときを迎えることがあるだろう、しかし食らい付いていくつもりだ。ようやく今、このマイヨ・ジョーヌを味わうことが出来る。マイヨを獲得できて誇らしい気分さ。
ボクが勝てたのは、まずなによりもチーム全体が僕を信じてくれたおかげ。彼らは常に僕を信頼してくれた。何か決定しなければならないときは、毎回、全員で話し合った。そしてチームメイトは1000%を尽くしてくれた。3週間のコース中、皆が全力を尽くしてくれた。彼らは常に僕を信頼してくれたんだ。ボクはチームメイトと話をするのが好きだけれど、彼らの話も良く聞くようにしている。これがボクの強味だね。
今年のボクは、かつてないほどのモチベーションを抱いてパリに乗り込んだ。大会前のトレーニングは本当に上手くいった。ツールを勝ち取ることはずっと夢だった。3週間、レースの難しい状況を、ミスを犯さずにコントロールすることが出来た。でもまだツールは終わっていない。総合優勝のことはまだ考えない。日曜日にゴールラインを越えた後、ようやくその事をゆっくり堪能するよ。
●アンディ・シュレク(チーム CSC)
マイヨ・ブラン
ツールには経験を積みにきたんだ。目標はあくまでもシャンゼリゼに到着することだった。だからアルプスであんなにいい走りができるとは思ってもいなかった。自分をすごく強く感じたよ。今ツールで印象に残っているのは、ルクセンブルグファンがたくさん詰め掛けたラルプ・デュエズを登ったこと。
ボクがいつかツール総合優勝を果たすだろう、と皆さんの多くは考えているようだけど、ボクも次回は表彰台に登りたい。ボクにはその実力があるし、実現可能だと思う。でもそれに向けてやるべきトレーニングは山ほどあるね。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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