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地元出身のオスカル・フレイレ(ラボバンク)が「ゴール地形はバルベルデやベッティーニ向き」と分析していた今ステージ。皮肉なことに、両者の運命は大きく分かれてしまった。
大会2回目の休養日を直前にして、ブエルタ一行を再び雨と寒さが襲う。特にゴール前60kmに位置する2級カラコル峠の山頂では、気温が8度まで下がっていた。しかも雨脚が強くなったため、アレハンドロ・バルベルデ(ケースデパーニュ)は下り突入前に「雨具を取るためにチームカーの位置まで下がった」という。その後、下りでプロトン分断が発生。バルベルデは後方集団に取り残されてしまった。
しかも表彰台候補に挙げられる選手たちのなかで、後れたのはバルベルデひとりだった。前方のメイン集団の有力選手たちは「共通の利益=バルベルデからタイムを奪う」のために、全員一致してスピード加速に尽くす。特にアルベルト・コンタドール擁するアスタナは集団を激しく牽引し続ける。スタート後10km地点から逃げ続けたサンディ・カザール(フランセーズデジュー)、セバスティアン・イノー(クレディアグリコル)、マヌエル・クインツィアート(リクイガス)も、ラスト35km地点でメイン集団に呑み込まれた。
バルベルデもただ指をくわえて前を見ているだけではなかった。後方集団を自ら先頭で引っぱったり、同じく後ろに取り残されたフィリップ・ジルベール(フランセーズデジュー)やシルヴァン・シャヴァネル(コフィディス・ル クレディ パール テレフォン)と3人で飛び出して追走を試みたり。ようやく最後にチームメイトたちと隊列を組んで走り始めたころには、事態は取り返しのつかないところまで来ていたようだ。努力むなしく、バルベルデは区間首位選手から3分23秒差でゴールラインを越えている。
メイン集団内では、ゴール前2kmの狭い下り急カーブ直後から、ステージ勝利に向けての動きが始まった。特にここ2日間トム・ボーネンのためにトレインを作ってきたクイックステップが、またしても集団前方にポジションを取る。しかしこの日はボーネンのためではなく、現役世界チャンピオンのパオロ・ベッティーニのためのトレインだった。途中、コンタドールのアタックに驚かされた場面も見られたが、「大会前から今ステージを狙っていた」と語るベッティーニはゴール前500mで大きく加速。あっという間に他選手を突き放すと、2位以下を1秒以上突き放して圧倒的な勝利を手に入れた。
ベッティーニは第6ステージに続く今ブエルタ2つ目のステージ勝利。またベッティーニ以下、2位ダヴィデ・レベッリン(ゲロルシュタイナー)、3位ダミアーノ・クネゴ(ランプレ)、4位アレッサンドロ・バッラン(ランプレ)と、ステージトップをイタリア勢が独占した。イタリア・ヴァレーゼで開催される世界選手権に向けて、地元イタリア勢は仕上がりの好調さをアピールした。
ところで1年前、シュトゥットガルトでの世界選手権で、ベッティーニは様々な言いがかりをつけられてあわや出場禁止を喰らいそうになった。そんな“怒り”をパワーに変えて世界選手権2連覇をもぎ取った。そしてこの第12ステージも、やはり勝利の源は怒り。実は今季限りの引退・・・、の前言を撤回して来季も走る気満々のベッティーニだが、クイックステップとの契約更新は難航している。そしてこの朝、ステファン・シューマッハー(ゲロルシュタイナー)のクイックステップ移籍が発表されてしまった!「侮辱された」と、ベッティーニは今の心境を語っている。
総合首位は変わらずエゴイ・マルチネスデエステバン(エウスカルテル・エウスカディ)。またアスタナからは2位11秒差にリーヴァイ・ライプハイマー、3位29秒差にコンタドールがつけている。カルロス・サストレ(チーム CSC サクソバンク)はコンタドールから1分9秒差の総合4位。バルベルデは4分19秒遅れの総合11位に陥落し、事実上、表彰台争いから脱落してしまった。また総合10位ホアキン・ロドリゲス以外、ケースデパーニュは全員バルベルデのアシストに回りタイムを失ったため、チーム総合順位も首位から2位へとひとつ後退している。
●パオロ・ベッティーニ(クイックステップ)
ステージ勝利
ブエルタ序盤に、ボクは2ステージに狙いをつけた。トレドとこのステージだ。そして2つとも勝つことが出来た。今日のステージは雨と寒さのせいですごく難しかった。でもボクの脚はしっかり応えてくれたよ。それにチームメイト全員が非常に素晴らしい仕事を成し遂げてくれた。
チーム関係者からは、ボクと契約更新するほどの予算がないと伝えられていた。でもまだ扉は開いていたんだ。でも今日、彼らはシューマッハーと契約した。ボクは侮辱された。他のチームを探す。
●アレハンドロ・バルベルデ(ケースデパーニュ)
当然、今日起こったことには全く満足していない。でも残りステージで何かに挑戦していかなきゃならないね。最後の峠を登っている最中に、雨具を受け取るためにボクはチーム監督カーの位置まで下がった。そのせいで下りで分断が起こったとき、ボクは後方集団に取り残されてしまったんだ。その時点から、前方に追いつくために全力で走った。でも前方の選手たちも同じように全力で走ったんだね。ボクらは出来るだけタイムを失わないよう戦い続けた。
●カルロス・サストレ(チーム CSC サクソバンク)
ボクはこれまで何度も繰り返してきた。ブエルタは1日では勝てないけれど、でも1日で失ってしまうことはあるのだ、と。今日のステージは一見すると、論理的には、集団ゴールかエスケープ向きだと思われていた。でも今日のステージはとんでもなくスピードが上がった。すごくピリピリした雰囲気だったし、さらに非常に危険だった。だから少しでも気を緩めたり、少しでも調子が悪かったりすれば、何が起こってもおかしくなかった。それが今日、バルベルデの身にふりかかったことなんだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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