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その恐ろしい山の麓には「自転車競技のオリンピア、アングリルへようこそ!」という楽しげな看板が掲げられている。ただしこのスローガンの下に書かれた数字が、全てを物語る。最大斜度23.5%。グランツール最難関の山と噂のアングリルが、史上4度目の戦いを迎え入れた。
200km超という厳しいステージの、前半部分は普段通りの逃げ模様で彩られた。35kmでクリストフ・ケルヌ(クレディアグリコル)がアタックを決めると、マールテン・チャリンギ(サイレンス・ロット)とマテイ・ユルチョ(チーム ミルラム)の合流を経て3人でエスケープ集団を形成。普段と少しだけ違ったのは、なかなか追いつけなかった2選手を、ケルヌが文字通りストップして道端でおとなしく待ったことだろうか。
3選手の後ろに控えるプロトン内の総合争い選手は、コルダル登坂口まで特に大きな動きを見せなかった。ただ、2・3番目に登場した1級峠の山頂付近が近づくと、ダヴィ・モンクティエ(コフィディス・ル クレディ パール テレフォン)が小さな加速。山岳賞首位固めのために4位通過を果たした。またコルダル峠でも4位通過、アングリルゴールでもポイントを稼ぎ、「マドリードまで山岳ジャージを守りたい」という目標に一歩近づいている。
ステージ後半からプロトンコントロールに余念がなかったアスタナは、コルダルへの登りが始まるとさらなる加速を繰り返した。セルジオミグエルモレイラ・パウリーニョ、アンドレアス・クレーデン、ホセルイス・ルビエラといった強豪山岳アシストのスピードアップに、メイン集団はあっという間に小さくなって行く。このコルダル山頂からの下りでは、イゴール・アントン(エウスカルテル・エウスカディ)が落車の犠牲となった。左鎖骨と臀部を痛め、ステージ半ばで無念のリタイアを余儀なくされた。マイヨ・オロを着てこのアングリルステージを迎えたエゴイ・マルチネスデエステバンが、「ボクはこのステージでマイヨを失う。そしてアントンに手渡すんだ」と語っていたが、この計画は夢と消えてしまった。
アングリルに突入すると、最初に逃げ始め、最後まで逃げ続けていたケルヌがついに先頭から脱落。トップにたった先頭集団内では、カザフスタンカラーのアスタナがあいかわらずライバルたちに高速を強い続けた。そして比較的簡単と言われるアングリル下方部分を終え、斜度15%の坂道が始まった残り7km地点で先頭はわずか5選手に絞り込まれる。アルベルト・コンタドールとリーヴァイ・ライプハイマーのアスタナ2人と、アレハンドロ・バルベルデ、ホアキン・ロドリゲス、そしてダニエル・モレーノのケースデパーニュ3人。休養日前の“何の変哲もない”、しかし風雨にさらされた第12ステージでタイムを大幅に失ったバルベルデとチームメイトが、“今ブエルタ最難関”ステージでは意地を見せつけた。
両チームの中で最初にアタックをかけたのは、数的有利に勇気付けられたバルベルデだった。名誉と表彰台の可能性を取り戻すためのライバルの逃げを、コンタドールは決して逃がさない。逆に残り6km地点でカウンターアタックを打つと、チームメイトのライプハイマーから「世界一」と絶賛される強健クライマーはそのままひとりで飛び出していった。
最難関のアングリルの中でも最難関の23.5%ゾーンへは、コンタドールがただひとり先頭で突入した。今ジロでは最大斜度24%プラン・デ・コロネス個人タイムトライアルを4位で終えているコンタドールは、独特のリズミカルなダンシングスタイルを崩さない。追うバルベルデは蒼白な顔。チームカーが何台もエンストを起こしたほどの魔の一帯でもがき苦しめられ、タイム差は開く一方であった。また一旦は大きく遅れたカルロス・サストレ(チーム CSC サクソバンク)が、ライプハイマーと共にこのカブレスの激坂を走った。ただしコンタドールを少しでも助けたいライプハイマーは、当然サストレの手助けをするはずがない。苦痛に顔をゆがめる今ツール勝者の背後で、ライプハイマーは余力を残して軽やかにペダルをこいだ。
そのままゴールまでトップで走り抜けたコンタドールは、マイヨ・オロも手に入れた。これでジロのピンク、ツールの黄色、ブエルタの金色、3色全てのジャージに袖を通したことになる。もちろん今ブエルタで最終的なジャージを手に入れるためには、あと1週間、首位を守り抜かなくてはならない。区間4位で総合2位のライプハイマーとは1分07秒差。この日コンタドールから新たに1分32秒失ったサストレは、3分01秒差で総合3位につけている。
また42秒差で区間2位に入ったバルベルデは、またしてもボーナスタイム12秒を獲得。またここまでの2週間で通算52秒のボーナスタイムを手にしており、これは現在レースに残っている151選手の中で最も多い数字だ。総合では4分40秒差の5位とまだまだ表彰台には届かないが、今後もボーナスタイム獲得が期待できるだけに、さらなる順位挽回が可能となるかもしれない。
今ステージはアントンを含めてアングリル突入前に2人がリタイア、またルール違反で1選手(ホセアントニオ・ロペス、アンダルシア・カハスール)がレースから除外された。しかしアングリルに脚を踏み入れた151選手は、全て山頂まで無事に登りきった。
●アルベルト・コンタドール(アスタナ)
ステージ優勝、総合首位
チーム全体でアングリルで勝つための準備を積んでこの大会に乗り込んだ。このステージはシーズン序盤からチーム目標のひとつだったんだ。だからボクらの準備とレース中に尽くした努力が報われて本当に嬉しい。チームは非常に強かったし、アスタナファンやボクの地元ピントのファンが登りにたくさん詰め掛けてくれて最高に気分は良かった。この雰囲気のおかげで全てが上手く進んだ。マイヨ・オロを獲得して興奮しているけれど、まだ大会は終わっていない。マドリードまでジャージを守るためにチームは集中して走り続ける。
●アレハンドロ・バルベルデ(ケースデパーニュ)
ステージ2位、総合5位
前ステージで失敗したから、今日の自分の走り方には非常に満足している。長くて辛いステージだった。でもボクにとっては素晴らしい1日となった。アングリルはボクにぴったりの峠だ。だってパワフルに登る必要がある山だ。ステージ勝利さえも不可能ではないと感じていた。でもコンタドールのようなクライマーを前に、ボクはほとんどチャンスがなかったよ。一方で、ボクは総合順位をかなり上げられた。表彰台を再び狙いたい。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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