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長い一日だった。カラリと晴れ上がった青空の下で、ゴールまで退屈なほど何もない荒野を延々と走る。しかもレースは前半から全く動きという動きが見られなかった。
前日はスタート直後から時速50kmの超高速アタックが繰り返されたのに対して、この日は1級峠を越えるまで誰ひとりとして飛び出そうとはしなかった。ステージ最初のアタックが見られたのは、ようやく24km地点を過ぎたころ。峠からの下りを利用して、ヘスス・ロセンド(アンダルシア・カハスール)が飛び出すと、あっさり逃げは許された。さらにウォルター・フェルナンド・ペドラサ(ティンコフ クレジット システムズ)が後を追うと、至極簡単に2人の逃げ集団が出来上がる。そして今大会最初の山岳ジャージを獲得したロセンドと、自らヒルクライムが得意と語るペドラサは、まるで平坦な大地で後続に最大8分のタイム差をつけた。
思わずあくびが出てしまいそうなレース展開。ノンビリしすぎたプロトン内では、観客の応援旗を奪い取って退屈しのぎをする選手が出現したほどだ。だからといってプロトンは、前日のような大逃げを許すつもりはなかった。スプリンターにとっては——特に世界選手権代表が次々と発表され、最後まで大会に残り続るつもりのない一部スプリンターにとっては——、この日は大会最終週の大事なステージ優勝のチャンス。だからこそ世界選手権に照準を定める世界2連覇王者パオロ・ベッティーニ(クイックステップ)が、チームメイトのスプリンター、トム・ボーネンのために55km過ぎからなんと15km近くにも渡ってプロトン先方で激しい引きを行ったのだ。そして世界チャンピオンの献身的な働きのおかげで、プロトンとエスケープ集団との差は一気に3分半程度まで縮んだ。
この後はクイックステップと共に、チーム ミルラム、サイレンス・ロット、ゲロルシュタイナーなどが協力して追走を続けた。何もない荒野の長い一本道には強風が吹きつけたが、あせらず、急がず、ゆっくり、しかし確実に前方の2選手を追い上げる。そして残り15kmでタイム差が54秒に縮まったところで、まるで堰を切ったように後方プロトンは急加速。緩やかな下り坂を利用したスピードアップで、時に時速は70kmを超えることも。そしてラスト7kmを示すアーチの手前で、ロセンドとペドラサは手を振りながら後続集団に吸収されていった。
突然スピードの塊と化したプロトンの前方では、飛び出しを狙う選手が相次いだ。後方では分断に恐れる選手達が必死に追いすがる。しかし残り4km地点でクイックステップトレインが集団の前に出ると、プロトンの動きを完全に掌握。猛スピードながらも、統制の取れたゴールスプリントへと集団は向かっていった。
ラスト1km地点を示す赤い三角旗の直前でベッティーニが先頭から降りたが、未だクイックステップトレインはボーネン+3人。そして各アシスト選手が持てる力を全て出し切ってペダルを漕ぎ、最後にボーネンをゴールラインへと送り出した。チームメイトたちの完璧な仕事を無駄にすることなく、ボーネンは今大会2勝目を勝ち取った。世界選手権のベルギー代表チームに選出され、第17ステージ終了後に大会を去ることをすでに公表していたボーネンは、自信に満ち溢れたままスペインの地を去ることができるだろう。
ゴール時刻18時48分。走行時間5時間21分16秒。平均時速34.794km。予定時刻を1時間以上もオーバーしての記録的なスローレースが終わると、すでに晩夏の空には夕闇が迫り始めていた。
●トム・ボーネン(クイックステップ)
ステージ優勝
ボクはすでに大会3日目に勝利を上げている。そしてまた今、再び勝利を手に入れた。大会を立ち去る予定の前日にね!だから世界選手権に向けて調子は非常にいい。今現在、自分を非常に力強く感じているよ。だって山岳地帯を2日前に抜けたばかりなのに、すでにスプリントで勝つことが出来たんだからね。
世界戦に向けてレースを去る時期としては最適ではないかもしれない。3日間のアンドラステージを戦って、その後また2日間の山岳ステージも戦った。でもボクは体調がいいんだ。筋肉の調子がいい。ヒザを少し痛めたけれど、それほどシリアスな問題でもない。全てが上手くいっている。今後は数日間、リカバリーに費やすつもりだよ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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