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「いろいろなレースで勝ってきたし、この間のジロでも区間2位に入ったけれど……ツールでの区間初勝利は何にも比べることなどできない喜びだね!」
人生7回目のツール・ド・フランスを戦っているトマ・ヴォクレール(Bbox ブイグ テレコム)は、マイヨ・ジョーヌならすでに2004年に10日間着用している。ただしどんなに追い求めても、どんなに大逃げを打ち続けても、これまでグランツールの区間勝利を手に入れることができなかった。そして2009年7月8日、30歳にしてついに待望のツール区間初勝利を手に入れた。ラスト5kmを単独で駆け抜けたヴォクレールは、何度も後ろを振り返って勝利を確信すると、まずはまるで「信じられない」とでも言いたいかのように小さく首を振り、それからゴール前に詰め掛けた観客に手を振り、そして大きな投げキッスを飛ばして、満面の笑みでゴールラインを超えた。
スタート直後、アタックのきっかけは日本の別府史之(スキル・シマノ)だった。ヴォクレールとアントニー・ジェラン(フランセーズデジュー)、マルチン・サパ(ランプレ・N.G.C)がその企てに乗ると、さっそくこの日の長い逃げが始まった。別府は10km付近でチームメイトのアルベール・ティッメルにバトンタッチ。さらにヨーヘニ・ウタロービッチ(フランセーズデジュー)、ミハイル・イグナチェフ(チーム カチューシャ)も加わり、6人が先頭集団を作り上げた。
コース地図や断面図を軽く眺めると、第5ステージは至極単純そうに見える。「今日は楽なステージになると思っていたんですけどね」とゴール後に別府が語っていたが、実際は、かなり複雑な戦いが待ち受けていた。ルート全体を通して道幅が狭く、道は曲がりくねり、常に微妙なアップダウンが繰り返される。海岸沿いでは強い横風が選手たちの体に吹き付けた。当然のごとく、2日前の「横風→分断」作戦を思い出させる不穏な動きも。マイヨ・ジョーヌ姿のファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)が総合争いのチームメイトたちを引き連れて猛烈な加速を仕掛け、一時は集団をずたずたに引きちぎる場面も見られたほどだ。さらには最終盤10kmにはロータリーが多くポジションを失う危険性を秘めているからと、別府史之とスキル・シマノがプロトン前方でハイスピードな牽引を行ったことも。
総合有力者たちの加速駆け引き、さらにスプリンターチームたちのルーチンワークのおかげで、逃げの6人は徐々に存在を脅かされ始めていた。一時は9分あったタイム差も、ゴール前10km地点では1分15秒程度。大昔から言われているような「10キロ=1分」(つまり逃げ集団との差を1分縮めるためには10km必要ということ)の方程式が当てはまるのだとしたら、このタイム差はぎりぎりアウトになってしまうのだが……。そんな古臭い迷信を跳ね除けようと、ラスト6.5kmで先頭集団からイグナチェフがアタック。そして4.8kmを残して、ヴォクレールが渾身のカウンターアタックを決めた。
2004年は当時のスポンサー、ブリオーシュ・ラ・ブーランジェールがシーズン末に契約打ち切りを発表していた。ヴォクレールのマイヨ・ジョーヌ10日間は、チームに喜びと救いをもたらし、間違いなく新スポンサー(ブイグテレコム)との契約を促進した。2009年もヴォクレールが、ジャンルネ・ベルノドー率いる27人の選手にとっての——当然、新城幸也も含まれる——救世主となるのだろうか。現スポンサーのブイグテレコムは、2009年末に一部撤退、2010年末には自転車チームからの完全撤退を宣言している。
またひとりヴォクレールを追いかけたティッメルは、ゴール手前わずか50mほどのところでイグナチェフに出し抜かれてしまった。さらに集団ゴールスプリントの波に飲まれて、最終的には区間15位。「ステージ3位」を巡る集団スプリントは、当然のようにマーク・カベンディッシュ(チーム コロンビア・ハイロード)が制した。新城幸也は18位に飛び込んだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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