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重い雲がツールの上に立ち込めた。誰もが期待したスペインの乾いた大地と青い空の代わりに、肌寒い空気と、時々空から落ちてくる冷たい雨がプロトンを襲った。それでも100%スペインステージのスタート地ジローナには、たくさんのファンがつめかけ——間違いなくブエルタよりも沿道の観客の数は多かった——、数々の有名人がお祝いに駆けつけた。特に今からちょうど50年前にスペイン人として初めてツール・ド・フランス総合優勝を果たした「トレドの鷲」フェドリコ・バアモンテス(ちょうどこの日が81歳のお誕生日だった!健在!)や、トータルフットボールでサッカー界に革命を起こしたヨハン・クライフの登場に、観客やメディアはざわめきたった。しかもオランダ人のクライフは、オランダのチームであるスキル・シマノのバスにも遊びに来たから大変だ!
この日はいわゆるクライマーでも総合狙いでもない選手にとっては、大会1週目でステージ優勝を狙える最後のチャンス。また「普通」の選手にとっては山岳ジャージ獲得の最後の機会でもあった。なにしろ翌日からはピレネー3連戦。リモージュでの休養日までは、とにかく耐え忍ぶべき3日間が待っているのだから。それゆえスタートからかなりの高速アタックが相次ぎ、最初1時間の時速は46.8kmまで上がったほど。そしてこの日最初の峠(32km)の下りで、デーヴィット・ミラー(ガーミン・スリップストリーム)、ステファヌ・オジェ(コフィディス・ル クレディ アン リーニュ)、シルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)の3選手が飛び出しを成功させた。
実力者の3人、特にグランツールの大逃げではおなじみのオジェとシャヴァネルだが、しかし思うように後続とのタイム差を開くことはできない。わずか4分ほどのリードを得た以外は、降ったり止んだりする雨と、滑りやすくなった道と、後ろから淡々と追いかけてくるプロトンの脅威を常に背中に感じて走ることになる。それでもオジェは3つの峠で1位通過してコツコツ山岳ポイントを収集して、総合14ポイントで見事に山岳賞ジャージを手に入れた。ただし残念なことに明日のゴール地で先頭通過した選手には一挙に40pが与えられるため、オジェが第7ステージ後に赤玉ジャージを着ている可能性は極めて少ないのだが。
オジェが目標を果たした後、今度はミラーが自らの目標である区間優勝を達成するために先頭集団からひとり飛び出した。それ以前に逃げに合流したアメッツ・チュルーカ(エウスカルテル・エウスカディ)と、最終盤でプロトンから飛び出してきたレミ・ポリオル(コフィディス・ル クレディ アン リーニュ)が2人で必死に追いかけるシーンも見られたが……、最終的には追う2人も、ミラーも、アップダウンを利用してどんどんスピードを上げてくるプロトンに逆らうことなどできなかった。特にミラーはゴール地へと向かう最後の登りで、恐ろしい獣と化した一団に飲み込まれていった。
1992年バルセロナ五輪のメイン会場となったオリンピックスタジアムへの上り坂は、噂されていたよりもはるかに緩やかだったかもしれない。ただし勝負を振り分けるのには十分だった。ラストには少々の登りならびくともしないスプリンターたちが、パワフルに自らの実力を思う存分競い合った。そして世界戦3勝男のオスカル・フレイレ(ラボバンク)を振り切って、トル・フースホフト(サーヴェロ テストチーム)が力強く両腕を天に突き上げた。フラットな地でこそ力を最大限に発揮するマーク・カベンディッシュ(チーム コロンビア・ハイロード)は16位。マイヨ・ヴェールはかろうじてカベンディッシュが死守したが、フースホフトは緑ジャージまであとわずか1ポイントにまで迫っている。
難コンディションのせいで、この日はさまざまなアクシデントも発生した。ゴール前9km地点では、日本の新城幸也(Bbox ブイグテレコム)が濡れた道路で大きく転落。ケガは擦り傷程度で済んだものの、タイムは大幅に失った。その直後には、トム・ボーネン(クイックステップ)が激しく地面にたたきつけられた。「何もないところで転んでしまった。前の選手がブレーキをかけて、別の選手の後輪がボクの自転車に触れたんだ。ブレーキかける暇さえなかった。太ももが痛い」と、突然の災難をゴール後に振り返った。また別府史之(スキル・シマノ)も悪天候と体調不良に苦しめられ、10分14秒遅れで戦いを終えている。
さらに多くの自転車ファンを失望させたのは、デニス・メンショフ(ラボバンク)の優勝争い脱落がさらに色濃くなってしまったこと。スタート前から不安の前兆はあった。山岳アシストとして期待されていたロベルト・ヘーシンクが、前日の落車で故障し、ツールから戦線離脱してしまったのだ。しかも2ヶ月前のジロ王者本人は、前日までですでに首位から(=同タイムのランス・アームストロングから)3分52分も遅れていたというのに、この日もライバルたちから軒並み1分2秒も失ってしまった。ツールは未だ15ステージも残っているだけに、逆転優勝の可能性はもちろん捨てきれないが……。普通に考えれば、念願のマイヨ・ジョーヌ取りの可能性は「ほぼ」消えたことになる。
肝心のマイヨ・ジョーヌは、ピレネー突入を前にファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)が0.22秒差で守っている。おそらく翌日、今ツール初の難関頂上ゴールが終了した後には、違う人間がこの栄光のジャージを身にまとっていることだろう。その選手の名前は、もしかしたら、ランス・アームストロング(アスタナ)であるかもしれない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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