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下りスペシャリストが本領発揮。2008年ツールの第7ステージでは3度ものアタックを仕掛け、最後は超高速ダウンヒルの果てにわずか6秒差で区間勝利をもぎ取った。パリ〜ニースでも2年連続で見事な下りゴールを制し、2009年は総合優勝さえも手に入れた。そして今年のツールでも、ルイスレオン・サンチェス(ケースデパーニュ)は自らの得意な地形「下りゴール」で勝負に出ることを選んだ。ただしいつもと違ったのは、下りで差をつけての単独逃げ切り優勝ではなく、少人数スプリントを制しての勝ちだったこと。
アスファルトが溶け出すほど、強烈な日差しが照りつけたピレネー2日目。スタートと同時、つまり文字通り0キロ地点から始まった1級峠への23.2kmという長い長い登りで、早くも有力スプリンターたちのグルペットが出来上がった。日本の別府史之(スキル・シマノ)も早めに集団から後退したが、マーク・カベンディッシュ(チーム コロンビア・ハイロード)やトム・ボーネン(クイックステップ)と同じ集団に滑り込み、1日中彼らと一緒にペダルを漕ぎ続けた。もちろん集団前方ではアタックが巻き起こり、サンディ・カザール(フランセーズデジュー)を含む小さな逃げ集団が形成される。
ところが長い登りでのアタック合戦は、まだ終わりではなかった。山頂が間近に迫ったころ、今年こそは総合優勝が欲しいカデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)が、なんと飛び出していったのだ! 「ボクには何も失うものなんかないからね。何かトライしたかったんだ」と、むしろ普段は「攻撃を仕掛けない男」と評されるエヴァンスがついに攻撃に転じた。ただし他の逃げ選手からは疎まれ(後続プロトンが追走を必ず仕掛けてくるから)、案の定、後方からはアスタナを含むプロトンの追い上げを受け……エヴァンスの逃げは最後までは続かなかった。「ものすごい体力の無駄遣いだった」と、本人はゴール後に反省していたのだとか。
まるでエヴァンスの衝撃的なアタックが他選手へ行動のきっかけを与えたように、その後も次々と飛び出す選手が相次いだ。最後までカザールと逃げ続けることになるミケル・アスタルロサ(エウスカルテル・エウスカディ)やウラディミール・エフィムキン(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)、そしてサンチェスもエスケープを始めた。またトル・フースホフト(サーヴェロテストチーム)もそのひとり。なにしろ彼とわずか1ポイント差でマイヨ・ヴェールを着ているカベンディッシュがはるか後方であえいでいるのだから、こんなチャンスを狙わない理由はない。1級峠から下りきったところにある2つの中間スプリントポイント目指して飛び出していくと、目標通りに1位通過6ポイント ×2を達成。総合ではカベンディッシュから11ポイントのリードを奪って、念願の山岳ジャージに袖を通している。
サンチェス、カザール、エフィムキン、アスタルロサの4人は、2分程度のギリギリなタイム差を保ちながら逃げを続ける。この日2つ目の1級峠でアンディ・シュレク(チームサクソバンク)が勝負を仕掛け、アスタナを筆頭とする総合争いの選手たちがこぞって加速を始めると、逃げ切り優勝に黄信号が点灯を始めたが……。結局はそれ以上の総合争いが勃発しなかったおかげで、1分54秒ものリードを保ったまま、4人は安心して勝利へのスプリント勝負を繰り広げることができたというわけだ。
そう、結局はエヴァンスとA・シュレクが少しだけ試みを見せたほかは、総合本命の選手たちは比較的静かにステージを終えた。ならば1級アスパン峠と超級トゥルマレ峠が控える第9ステージには、果たして何かが起こるあろうか? 肝心のトゥルマレ山頂はゴールまで70.5km地点に設置されており、結局ステージを終えてみても何も起こっていない、などということだってあるのかもしれない。ファンやメディアにとって最も気になるのは、やはり総合2位アルベルト・コンタドール(アスタナ)と3位ランス・アームストロング(アスタナ)の「2秒差」の行方。「ずばりアームストロングが崩れる。10%以上の勾配が続く山に、現在のアームストロングは耐えられない」という大胆予想を出したのは、イノーやフィニョン、レモンを育てた名将シリル・ギマール。確かにトゥルマレの中盤は、9〜10%台の勾配が数キロにわたって続く。
2日前の落車で大きなアザを作った新城幸也(Bbox ブイグテレコム)は、ステージ中盤までは比較的前方の小集団に留まるなど、落車の影響を感じさせない走りを見せた。チームドクターも監督も、口をそろえて「夜は良く眠れているようだ。確実に良くなってきている。昨日は調子が悪くて心配したが、今日の走りを見たら問題ないね」と語っている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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