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2009年7月14日、休養日明けのツール・ド・フランスは、2つの話題で盛り上がるはずだった。1つはご存知、地元フランスでは「キャトーズジュイエ(7月14日)」と呼ばれるフランス革命記念日。フランス人選手にとっては特に思い入れの強い1日であり、誰もが母国に栄光をもたらしたいと願っている。シルヴァン・シャヴァネルとジェローム・ピノー(共にクイックステップ)は、わざわざ7月14日のために用意されたトリコロールカラーの自転車で登場。青白赤のペイントが施されたスペシャルバイクには、なんとフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」の全歌詞さえもしたためられていた。「母国の子供たちよ、いざ行かん!栄光の日は来たれり……」
2つ目の話題は、ノー無線デー。今ツール2日間だけに限って、選手とチームカーを結ぶコミュニケーション手段を排除してみよう……という試みだ。やはり無線の使われなかったフランス選手権が面白いレース展開となったため、開催委員会もメディアも、ファンたちも「きっと動きのあるステージになるだろう」と予想していたのだ。しかし残念なことにフランス人も、無線なしの試みも、散々話題を振りまいた挙句に大した結果は生み出さなかった。
スタート直後から飛び出した4人の逃げ集団には、フランス人選手が3人滑り込んだ。ブノワ・ヴォグルナール(フランセーズデジュー)、ティエーリー・ウポン(スキル・シマノ)、そしてサミュエル・ドゥムラン(コフィディス・ル クレディ アン リーニュ)のフレンチトリコロール3戦士に、割り入ったのがミハイル・イグナチェフ(チーム カチューシャ)。ところが、この白青赤の横縞トリコロール国旗を持つロシア人は、フランス人たちの先頭交代にはまったく加わろうとはしない。TV画面に映し出されるリレー参加率は時に0%を示したことさえあったほど!そう、普段ならば大逃げ大好きなイグナチェフだが、この日の彼は走らないために逃げに滑り込んだのだった。
実はツール参加20チーム中、14チームが「無線なしに異議あり」署名に参加していた。選手の安全面への不安、金銭やスポンサー問題、独断した開催委員会への不満……。どうやらイグナチェフはチームから任務を帯びていたようなのだ。「逃げに滑り込んで、走らないこと」。おかげでフランスの3選手は、精神的に辛い逃げを続けることになる。なにしろ後続につけられたタイム差は最大でもわずか3分50秒。あとは1分半から2分半くらいのタイム差が延々と繰り返されるだけ。無線からの情報を得られないプロトンは、常に逃げ集団を視線の端に入れることを好んだのだ。しかもアスタナやチーム コロンビア・ハイ ロードがプロトン前方に蓋を閉めてしまったため、その他のアタックの動きもない。最悪の事態=ストライキこそ避けられたものの——今年のジロ・デ・イタリアでのミラノ・ショーの悪夢は繰り返されなかったが——、ステージ序盤3時間は時速37.7kmという「サイクリングペース」で進んだ。
さすがに最終盤はチーム コロンビア・ハイ ロードを筆頭とするスプリンターチームが勝利に向かって強烈な追い上げを始め、スピードは急激に上がっていく。逃げ集団は必死に吸収を拒み、最後の加速を続けるが、望みは徐々に絶たれていく。まるで走ってこなかったイグナチェフが、突如アタックを試みる場面さえも見られた。しかし所詮無駄な努力だった。最後まで抵抗し続けたウポンも、ラスト1.5km地点で大波に飲まれていってしまった。革命記念日に、フランス人選手が手に入れられたのは、ウポンの敢闘賞だけであった。
あとはマーク・カベンディッシュ(チーム コロンビア・ハイ ロード)の独擅場。ゴール前350m地点の最終カーブでひとたびトップに躍り出ると、軽い登り坂で決して誰にも追い抜かれることなく、そのまま先頭でゴールラインを駆け抜けた。今ツール早くも3勝目。他の強力スプリンターたちの自信をことごとく粉砕し続けている24歳は、ゴール直後には緑色のフレームをしたサングラスをひらひらと見せびらかしていた……。「パリまでにポイントを逆転して、このサングラスのフレームにお似合いのジャージを手に入れられると確信しているよ」と。現在6ポイント差で緑色のジャージ=マイヨ・ヴェールを着用しているのは、区間2位に終わったトル・フースホフト(サーヴェロ テストチーム)である。
3日後の第13ステージも無線使用は禁止されている。その前にUCI国際自転車連盟から何らかの通達が下される予定だ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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