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サイクル ロードレース コラム 2009年7月25日

【ツール・ド・フランス2009】第19ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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美しき湖畔のアヌシーから、死の山モン・ヴァントゥーへのいわゆる「移動」ステージ。バカンス大国のフランスならでは「7月組(=7月にバカンスを取る人)」と「8月組(=8月にバカンスを取る人)」の移動日も重なって、南へと向かう高速道路は大混雑!メディアカーやチームカーが渋滞にはまっている間に、肝心のレースは高速スピードで進んだ。

温度計が一瞬40度を記録したほどの灼熱の太陽の下、スタート直後に早速19選手が逃げ始めた。このエスケープはまた、大いなる希望を抱いて3週間前のモナコに乗り込みながら、失意のまま大会終盤を迎えた選手たちの集団でもあった。3年越しの総合優勝に失敗したカデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)を筆頭に、やはりマイヨ・ジョーヌ争いに加われなかったキム・キルシェン(チーム コロンビア・ハイ ロード)、マイヨ・ヴェール争いどころか区間勝利も手にしていないダニエーレ・ベンナーティ(リクイガス)、そしてクイックステップ移籍でさらなる大化けが期待されていたシルヴァン・シャヴァネル……。

上記以外にもヤロスラフ・ポポヴィッチ(アスタナ)やルイスレオン・サンチェス(ケースデパーニュ)という強豪が滑り込んだ危険な逃げ集団を、もちろん、後続プロトンは簡単に遠くへ行かせようとはしなかった。アージェードゥゼール・ラ・モンディアルとケースデパーニュがそれぞれ3人ずつ逃げていたのも、一部のチームの気に召さなかったようだ。後方プロトンはきっちりコントロールを行い、タイム差は常に3分以内のまま。結局はゴールまで31km、今ステージ最後の山岳突入前に19人全員が吸収されてしまった。

後方で恐ろしい引きを行っていたのは、ラボバンクだった。このチームもまた、失意を抱えていた。今ジロ勝者デニス・メンショフは第4ステージで早くも総合争いから脱落し、昨マイヨ・ヴェールのオスカル・フレイレはまるで勝てず。だからこそ、この日はどうしても勝利が欲しかった。最終2級峠で数選手がアタックしたときは、メンショフ自らが集団を引いた。そしてゴール前ではフレイレが、スプリントに向けて体制を整えていく。

……ただし、喉から手が出るほど1勝が欲しい選手たちを横目に、勝利を奪い去ったのはマーク・カベンディッシュ(チーム コロンビア・ハイ ロード)!手のひらを見せて5本の指をアピールしたように、第2・3・10・11ステージに次ぐ今大会5勝目を決めた。今大会全日程の実に4分の1をカベンディッシュが制しながら、それでも念願のマイヨ・ヴェールが着られないのはグランツール七不思議のひとつ。もちろんポイント賞首位トル・フースホフト(サーヴェロ テストチーム)との25ポイント差は、データ上では追い越せない数字ではない。しかしカベンディッシュ本人は、早くもマイヨ・ヴェール敗北宣言を出した。その代わりにパリ・シャンゼリゼでの輝かしい栄光=区間6勝目に全神経を集中する。

ちなみにマイヨ・ア・ポワ・ルージュは、フランコ・ペッリツォッティ(リクイガス)の最終的な総合首位が確定した。残る2ステージを無事に乗り切ることが出来れば、2ヶ月前のローマでのジロ総合表彰台に続いて、ペッリツォッティはパリでの表彰式に臨むことになる。

また緑ジャージのフースホフトは2位、チーム一丸で優勝を狙ったフレイレは5位に終わった。さらには別府史之(スキル・シマノ)が7位に飛び込むという朗報も!第3ステージの区間8位に続く好成績に、「世界一流のスプリンターと勝負してあと一歩及ばなかったが、満足のいくいい走りは出来た。トップスプリンターとの違いは最後の伸び。あともう少しつめられるようにすれば、今後はさらにいい成績が出せると思う」とゴール後の別府は力強く語ってくれた。

そして首位と同タイムゴールできたのは、別府を含む上位12人のみ。その12番目が、ランス・アームストロング(アスタナ)だった。総合表彰台の3番目の座を争うライバルたち——総合4位ブラドレー・ウイギンズ(ガーミン・スリップストリーム)、総合5位アンドレアス・クレーデン(アスタナ)、総合6位フランク・シュレク(チーム サクソバンク)——は、全員アームストロングから4秒ずつ失った。マイヨ・ジョーヌのアルベルト・コンタドール(アスタナ)と2位アンディ・シュレク(チーム サクソバンク)も4秒遅れてゴールしたが、2人の座はまるで安泰だ……もちろん現時点では。

天気予報によれば、第20ステージの日、モン・ヴァントゥーの山頂には風速70km/h近くのミストラルが吹きつける恐れがあるそうだ。強風にあおられて、総合順位は予想もしない方向に変動するかもしれない。そして禿山のてっぺんで出来上がった順位が、そのままパリでの総合順位になる。「戦争の準備は出来ている」と、アームストロングは4年ぶりの表彰台に向けて全てを尽くすつもりだ。


●マーク・カべンディッシュ(チーム コロンビア・ハイ ロード)
ステージ優勝

今ツールで最も美しい勝利だね。だって一番手に入れるのが難しい勝利だったから。勝てるなんて考えてもいなかった。今ツール5勝目で、まさにボクはキャリアの頂点に立っていると断言してもいいよ。今日はゴール前250mで飛び出した。ボクにとっては少々長いスプリントだった。これまでの選手人生において最も難しいスプリントのひとつだった。

チームメイトにこう言ったんだ。「もしも最後の登りでボクを助けてくれたら、ゴールでいい成績を出す。約束する」って。そしたらチームメイト3人がボクを山頂まで引っ張って行ってくれた。ハードだったけど、ボクは上手くやったさ。チームの半分が登りでボクを助けてくれたから、残りの半分はゴール前でボクのための仕事をしてくれた。でも今日は集団スプリントで終わるなんて予想していなかったんだけどな。とにかくボクは5勝を上げた。この成績をボクから奪い取ることなんて出来ないし、これだけのステージで勝てたことが本当に嬉しい。ツールの全ステージの4分の1を制したんだよ!信じられないよね。これはチームのおかげ。チームメイトはものすごい仕事を成し遂げてくれた。

フースホフトはマイヨ・ヴェールにふさわしい選手だ。ボクはチームの助けのおかげで一時マイヨ・ヴェールを着ることができた。でも2日前のフースホフトは、信じられないようなパフォーマンスを見せたよね。完璧にボクの負けだ。彼こそがパリでのマイヨ・ヴェールにふさわしいのさ。そしてボクはシャンゼリゼでのスプリントだけに集中していく。もちろん、スプリントゴールに向けてボクらチームは全力を尽くすし、僕自身は勝つために全力を尽くす。


●アルベルト・コンタドール(アスタナ)
マイヨ・ジョーヌ

難しい1日だった。序盤のエスケープは、全ての選手にとって都合がいいわけではなかった。だからすごいレーススピードだったね。最後の登りでは、カベンディッシュを千切ろうと加速を仕掛ける選手が多かったから、ものすごい速さで登る必要があった。下りでは雨が降り始めて、本当にハラハラさせられたんだよ。ゴール直前に来て、リスクを負わないことに決めたんだ。結果的に4秒遅れたけれど、大切なことは、冷静にレースを終えることだった。

ボクの最大目標はこのジャージを守ることだけど、もしも状況が許すならば、チームメイトのアシストをすることだって可能だと思う。例えばアームストロングが総合順位を上げられるよう、助けることだって問題ない。明日、攻撃的に走る必要があるのはシュレク兄弟のほうだ。ボクはマイヨを守るのに十分なタイム差をすでにつけている。だから守りの走りをするつもりだ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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