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開幕前夜は稲光が真っ暗な空を切り裂き、冷たい雨が大地を濡らした。29日も朝から晴れていたかと思ったら、急に大雨が振り出したり。こんな変わりやすい空模様にもかかわらず、アッセンのTTサーキットは5万人近い観客で埋め尽くされた。
さすが自転車大国オランダ。前日のチームプレゼンテーションでは、会場周りに特設駐車場ならぬ特設「駐輪場」が作られたほど、自転車が市民の生活になじんでいる。サーキット周辺にもぐるりと自転車専用レーンが設けられており、たくさんのサイクリストたちがスポーツ自転車やママチャリ(ヨーロッパでは「オランダ風自転車」と呼ばれる)で会場に乗り付けた。このところ人気不足に悩まされてきたスペイン一周ブエルタ・ア・エスパーニャにとって、オランダスタートは大成功だと断言できるだろう。残念ながらスペインように、明るい太陽が1日中照り付けていたわけではなかったけれど。
そう、気まぐれな天候がこの日のレースを左右した。2009年ブエルタの記念すべき第1走者アルベルト・フェルナンデスサインス(シャコベオ・ガリシア)が、4.8kmの個人タイムトライアルへと飛び出していった現地時間15時21分は、日差しがサーキットを照らしつけていた。わずかに雨粒が落ちた後に広がった小さな青空の下、63番という早い出走順のロマン・クルイジガー(リクイガス)は5分37秒で暫定首位に立つ。ところが約30分後に出走順が回ってきたデーヴィット・ミラー(ガーミン・スリップストリーム)は、横殴りの大雨の中で走った。結果は4秒遅れの暫定3位。もしも雨さえ降っていなければ……、そんな想いも周囲に起こったに違いない。
「でもお天気を変えることなんかできないのさ!変えなきゃならないのはメンタリティー」と言ってのけたのは、区間優勝を果たしたファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)だった。北京五輪個人タイムトライアル金メダリストがスタート台に上った18時33分、幸運にも雨はとっくに上がり、すでに路面もほぼ乾いていた。そしてオールフラットのバイクサーキットで、5分20秒という高速トップタイムを叩き出した。ツール・ド・フランスでは初日タイムトライアルを3度制したことがあるが、ブエルタでは初めての区間勝利。生まれて初めてのマイヨ・オロに袖を通した。ちなみに昨大会後に総合リーダージャージの色は赤に変更されると発表されていたが、蓋を開けてみれば結局「金色」のまま。なんでもカラーチェンジは来年に持ち越されたんだとか。
区間2位にはトム・ボーネン(クイックステップ)、3位にはタイラー・ファラー(ガーミン・スリップストリーム)が入った。ブエルタ直前のエネコ・ツアーで大活躍した2人のスプリンターは、やはり最終盤の乾いた路面で、4.8kmの全力疾走スプリント。「スピードが出る短距離コースだったから、好成績が出せると分かっていたんだ」とゴール後のボーネン。首位カンチェッラーラとのタイム差はわずか9秒しかないため、第2ステージの成績次第では総合リーダージャージも夢ではない。なにしろブエルタには中間スプリントで最高6秒、ゴールで最高20秒のボーナスタイムが与えられる。もちろん12秒差のファラー、16秒差のダニエーレ・ベンナーティ(リクイガス)等々も、スプリント勝利とマイヨ・オロ同時獲得の可能性を持っている。
総合優勝を狙う選手たちの中では、イヴァン・バッソ(リクイガス)とアレハンドロ・バルベルデ(ケースデパーニュ)が首位からわずか18秒遅れと好スタートを切った。また2週目までの出来によってブエルタ総合を狙うか世界選手権へ全力投球するか選択したい、とコメントしているカデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)は19秒遅れ。一方、チーム サクソバンクのシュレク兄弟は苦手なフラットコースでほんの少々ながら出遅れた。兄フランクは35秒、弟アンディは38秒遅れだった。
また2年間の出場停止処分から復活を果たしたばかりのアレクサンドル・ヴィノクロフ(アスタナ)は、見事にシェイプされた肢体を披露しただけでなく、わずか18秒遅れで高いレベルを取り戻していることを証明した。今大会では総合よりもまず、「タイムトライアルか山岳ステージで区間優勝を狙う」と語っていたが、この先にも期待が持てそうだ。
■ファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)
ステージ優勝、総合リーダー
実はレース前、どれくらい走れるのか分からなかった。自分の調子がどこまで上がっているのか分からなかったんだ。だってヴァッテンフォール・サイクラシックス以降、ボクはひとりで練習してきたから、他選手と比べて自分がどの程度できるか見えなかった。それに4km半という短距離で、いい走りをするのは簡単なことではない。だから最後の瞬間まで、ボクが100%の力を発揮できるように監督が励まし続けてくれた。でも結局は単純なことだった。だって今日はいわゆるプロローグだし、ボクはスペシャリストなんだから。
明日はピリピリしたステージになるだろう。風が強いはずだし、一種、パリ〜ルーベのような感じだよ。ボクらチームはプロトン前方に位置取りする必要がある。区間勝利やジャージを狙う大勢の選手が、攻撃的な走りをしてくるだろう。スプリンターチームは大いに働くだろうね。とにかくチームはジャージを守りに行く。確かにボクがブエルタ参加を決めたのは別の目的(世界選手権への調整)のためなんだけど、でもリーダージャージを獲得したからには、やっぱり守りたい。サクソバンクはツールや他レースでしばしばリーダージャージを守ってきているから、仕事のやり方を知っているはずだ。
ボクは世界選手権調整のためにブエルタに来た。でもリタイアするとか、いつスペインを離れるとか、具体的な計画はなにも決めていない。今はこの先の天候が良いことと、いいレースができることだけを願っている。それに世界選手権はボクの母国で開催されるから、最高の結果を導き出すためならこのブエルタで何だってやるつもり。ここ数年、ほぼ全ての世界チャンピオンが、ブエルタに参加してから世界選手権へ向かっている。ボクだって数年前にブエルタに出場したとき、素晴らしい走りで世界選手権タイムトライアルを勝っている。だから今は、地元でアルカンシェルジャージを手に入れるために、できる限りの準備をつみたい。タイムトライアルに的を絞るのか、それともロードを狙うのか、それはこの先の様子を見ていこう。ボクがこのブエルタでどんな風に調子を上げていけるか、全てはそこにかかっている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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