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雨と、低温、そして風。ついでに石畳とくれば、まさに北のクラシックの世界。前日の優勝記者会見でファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)が「地元出身のカールステン・クローンに連れられてこの地域をトレーニングしてみたけれど、第2ステージのコースはある意味、パリ〜ルーベみたいなんだ!」と語っていた通り。コース上の市街地には綺麗なパヴェが点在し、さらにゴール前28kmには距離は短いけれど本格的な石畳道も組み込まれた。
スタートラインに勢ぞろいした選手にバケツのそこをひっくり返したような大雨が襲ったため、アクシデントを恐れた大会委員会は、「路面状態が悪ければ石畳中止。並行した舗装道路を走る」とラジオブエルタで通達したほど。ただし幸いにも真っ黒な雨雲が戻ってくることはなかったし、北名物の石畳通過も敢行されたのだった。
2009年ブエルタ最初の一斉スタートステージは、5選手のエスケープから始まった。地元オランダからトム・レーゼル(ラボバンク)とリューウェ・ウェストラ(ヴァカンソレイル プロサイクリングチーム)が、「ブエルタの本国」スペインからフランシスコホセ・マルティネス(アンダルシア・カハスール)とダビ・ガルシア(シャコベオ・ガリシア)、さらに隣国ドイツからドミニック・ローエルス(チーム ミルラム)が滑り込み、それぞれのお国の自転車ファンをたっぷり喜ばせた。特にレーゼルは山岳ポイントの一切付かない標高15m「名ばかり」の4級峠を先頭通過。ゴール地に詰め掛けた大勢の祖国のファンの前で、山岳ジャージを着用する栄光を手に入れた。またもう片方のオランダ人ウェストラは、終盤、たった1人でさらなる飛び出しを見せた。先週父親が亡くなり、金曜日チームプレゼンテーションの直前に葬儀に出席してきたというウェストラは、魂をこめて最後の力を振り絞る。……ただし後方集団は大会初の集団スプリントへ向けて猛スピードをあげており、渾身の逃げは無慈悲にも終わりを告げてしまう。
プロトンがひとつとなったラスト10km地点からは、スプリンターによる激しいポジション争いが繰り広げられた。しかも数々の俊足自慢の中には、ステージ優勝とマイロ・オロ同時獲得の可能性を追い求める選手も存在した。9秒差で総合2位につけたトム・ボーネン擁するクイックステップと、12秒差3位のタイラー・ファラーを支えるガーミン・スリップストリームの両チームが、ファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)からジャージを奪い取ろうと前方で厳しい加速を強いる。リーダージャージ争いには関係ないけれど、チーム コロンビア・HTCはアンドレ・グライペルの区間勝利のために隊列を作り上げた。今年のジロとツールでマーク・カベンディッシュ大量勝利のために何度も繰り返されてきた作業が、ここオランダでも再現された。
しかしこの日の勝利を手に入れたのは、去年2008年ツール第8ステージでそのカベンディッシュを勝たせ、自らも区間2位に入ったゲラルド・チオレック(チーム ミルラム)だった。少々早すぎるスプリントを切ったボーネンの脇をすり抜け、ファビオ・サバティーニ(リクイガス)の追い上げをゴールラインギリギリでかわすと、自らのためのスプリントで生まれて初めてのグランツール区間勝利を手に入れた。区間8位に終わったボーネンや5位ファラーがどうしても欲しかったボーナスタイム20秒も懐に入れ、全プロトンで最もカンチェッラーラに近い男へと昇格した。総合首位との差はわずかに8秒!
正直「ダメかもしれないと考えていた」とゴール後に語ったカンチェッラーラは、マイヨ・オロを着て新たな1日を過ごすことになる。第3ステージは標高95mの峠(山岳ポイントはつかない)が1つだけ登場するが、残りはフラットな道程が続く。ゴール地点では再びスプリンターたちの総攻撃を受けることになるのだろう。
●ゲラルド・チオレック(チーム ミルラム)
ステージ優勝
ツールのときから脚の調子がいいと感じていたから、今日は自信を持って勝ちを獲りにいったんだ。でも最終ストレートは左側から軽い風が吹き付けていて、前線でのポジション取りに大いに力を使った。それにスプリントはいつもよりも少し早めに切る必要があったんだよ。でもゴールラインギリギリまで争うことなく、勝利を手に入れることができた。総合リーダージャージに関しては、今日の時点では届かないことはわかっていた。また明日も勝利とジャージのために戦うさ。
今日はたくさんの観客が沿道に詰め掛けていたけれど、その状況を十分に楽しむことはできなかった。だって常に風に注意を払っていなければならなかったから。ひどくナーバスなステージだったよ。
●ファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)
総合リーダー
ジャージを守り切れるなんて、実は期待していなかった。だってボーネンとファラーが絶好調なのは間違いない、2人がボーナスタイムを取りに行く可能性もあったからね。でもスプリントは宝くじみたいなもの。どんな展開になるかはその時にならなければ分からない。それにチーム全体で働いて、常にプロトン前方に留まらなければならない。今大会にはたくさんのスプリンターが出場しているから、もちろん彼ら2人が勝つ確証はない。でもやっぱり彼ら2人が現時点のベスト選手だと思っていたんだ。だから幸運がボクを味方してくれた。
今日は難しい1日だったね。天候が変わりやすかったし、気温も低かった。石畳、風、雨で少し特別なステージだったよね。でも観客の多さにはすごく驚いた。いい意味で驚いたんだよ。だってこれはオランダのレースじゃなくて、つまりクラシックレースやエネコツアーじゃなくて、スペインのレースなのに。オランダの人々は心からブエルタを大歓迎しているね。それが見て取れる。沿道にはスペインカラー、赤や黄色がたくさん見られる。小さな町でも何千もの人が応援にきてくれていた。素晴らしいことだね。
明日はまた新たにジャージを着て走ることができる。我々チームにとっては素晴らしいことだ。モチベーションも上がるし、スポンサーにとってもいいこと。あらゆる面においてプラスだよ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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