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8月最後の日、ブエルタの母国スペインから太陽がまるで出張してきたみたいに、オランダの大地に明るい日の光が降り注いだ。こんな夏の陽気に誘われた人々は、沿道に大挙して詰めかけた。とりわけプロトンが2回通過したスタート地ズトフェン周囲は、まるでどこかの山岳ステージ状態!ちなみにロベルト・ヘーシンク(ラボバンク)の故郷でもあるスタート地近郊は厳格なプロテスタント教徒が多く、なんと安息日である日曜日は自転車移動さえ控えなければならないそうだが……。ステージが行われたのは幸いにも月曜日で、自転車レースの応援は無問題だったようだ。
オランダ通過も残り2日。スタート直後からオランダ出身のラルス・ブーム(ラボバンク)とジョニー・フーガーランド(ヴァカンソレイル プロサイクリングチーム)が飛び出した。さらにブエルタ本国代表ヘスス・ロセンド(アンダルシア・カハスール)を加えた3人の逃げ集団は、スタートから20kmであっという間に9分半ものリードを開くことに成功した。もちろん、最低でもあと1日マイヨ・オロを守りたいファビアン・カンチェッラーラとチーム サクソバンクがすぐさま対応策をとり、その後は8分程度の差を上手にコントロールし続ける。
気温が30度近くまで上がり、レースも3時間目に突入すると、タイム差は徐々に縮まって行く。そして3人一緒にゴール前30km地点の「ソリダリオ」スプリントポイント(先頭通過1名にソリダリオポイントが1点授与+翌日に特別ゼッケン+総計トップはマドリードで表彰)を争ったあと、1位通過のブームはすぐにスピードダウン。続けてフーガーランドも逃げる脚を止め、最後まで残ったロセンドもゴール前14kmで追走プロトンに吸収されていった。
一塊になったプロトンは、平坦ステージの宿命ともいえる大集団ゴールスプリントへ向けてスピードをどんどん上げていく。特にトム・ボーネン率いるクイックステップは、前日果たせなかった首位獲りに燃えていた。なにしろ翌第4ステージはボーネンとチームの母国、ベルギーでゴールを迎える。ゴールデンジャージで地元に凱旋を果たすために、前線にチーム全員が上がって隊列を組み上げた。
ところがゴール前700mのカーブで全てが崩れ落ちる。「最終2kmはロータリー右、そして右、左とカーブの連続。しかも道幅が4mしかなくなる地点があるから注意しろ」なんて、一応は無線で全プロトンに連絡が行き渡っていた。しかし「地の利」があるオランダチーム、ヴァカンソレイル プロサイクリングチームの2選手がカーブを利用して特攻をかけると、前方のポジションが大きく揺らいでしまったのだ。例えばグレゴリー・ヘンダーソン(チーム コロンビア・HTC)が本来アシストすべきだったアンドレ・グライペルも、このカーブで後方へと追いやられてしまったという。
「だから最後の150mで、自分がスプリントすることに決めた」
と語ったヘンダーソンは、必死でペダルを回すヴァカンソレイル プロサイクリングチームのボルト・ボジッチをあっさりと追い越すと、人生2度目のグランツールで初めての区間勝利を手に入れた。トラック競技出身で2004年にはスクラッチで世界チャンピオンの座も手に入れているスピードマンにとっては、ロードに転向してから最大のビッグタイトルである。チームリーダーのグライペルは区間4位。
カーブで無念ポジションを失ったボーネンは、ステージ勝利と地元マイヨ・オロのチャンスも失い、最終的に区間6位。それでも緑色のポイント賞ジャージで母国ベルギーを通過することになった。また同じく総合リーダー昇格を狙っていたタイラー・ファラー(ガーミン・スリップストリーム)とゲラルド・チオレック(チーム ミルラム)は、ボーナスタイム獲得どころか、それぞれ区間11位、19位に沈んでいる。
3回目のマイヨ・オロ授与式に臨んだのはファビアン・カンチェッラーラ。ただしカンチェッラーラの好きな「北クラシック風コース(=平地+風+石畳)」はこの日で終わり。翌第4ステージは「アルデンヌクラシック風コース(=アップダウン)」で戦いが繰り広げられるため、総合ジャージの持ち主が変る可能性は大きい。
●グレゴリー・ヘンダーソン(チーム コロンビア・HTC)
ステージ優勝
ラスト1km地点ではクイックステップの2選手が強烈な仕事をしていて、ものすごくスピードが上がっていた。ボクはグライペルの牽引を務めていた。でもラスト700mのカーブでポジション取りが崩れ、後ろを振り向いたらグライペルがボクについて来れていないことに気がついたんだ。だから最終150mでボク自身が勝負にでることに決めた。かなり簡単にステージ勝利を手に入れることができた。
自分が好調なのは自覚していた。だから特にこの勝利は驚きではない。ただしブエルタ開幕の5日まで、実は出場がはっきりと決まっていなかったんだよ。最初は出場メンバー入りしていたのに、なぜか分からないけどリストから一旦はずされてしまった。モチベーションが上がったり下がったりだったよ。でも最終的にグライペルがアシストを必要としていることから、出場が決まったんだ。今日は自分で勝つことができてファンタスティックだったけど、ボクにとって今大会最大の任務はグライペルのアシスト。彼がゴールラインを一番に超えられるよう手助けすること。今後もそれは変らない。
(チームが今季大量勝利を挙げていることに対して)強さの秘密なんかないよ。とにかく他人よりも速くゴールラインを超えるだけ。チームは全体的にレベルが高いし、小さいレースでも勝ちを狙いに行っている。でも勝利数のほとんどはマーク・カベンディッシュとグライペルが稼いでいるんだけどね。我々チームはツール・ド・フランスでも完璧に組織されたトレインを作り上げていた。昨日は向かい風がきつくて隊列が崩れたり、今日はゴール前にカーブが多くて位置取りが難しかったよ。でもチームはトレイン作りのトレーニングをしっかりと積んできているから、問題はないよ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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