人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2009年9月3日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2009】第4ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

5時間43分05秒もの長く苦しい戦いを終えてフィニッシュラインにたどり着いた選手たちは、文字通り頭の先から足の先までびしょ濡れだった。疲れた表情は一様に泥で覆われ、ジャージの白い部分は黒く色が変わってしまったほど。擦り傷を負った選手があちこちに見られる。辺りには救急車のサイレンが何度も鳴り響く。

アルデンヌクラシック風ステージの主役は雨だった。アムステル・ゴールドレースのゴール地カウベルク峠でも、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュのサンニコラ峠でもなかった。土砂降りの雨のせいで路面はすべりやすくなり、この日も幾度となく落車が発生した。バランスを崩したヤコブ・フグルサング(チーム サクソバンク)が路肩に駐車していたトラックに激突したり、ホセアンヘル・ゴメスマルチャンテ(サーヴェロ テストチーム)が走行中のチームカーのすぐ脇で滑って転んだりと、ひとつ間違えれば大事故につながりかねない危険なアクシデントもあった。

そしてゴール直前のロータリー出口で、信じられないような大落車が起きる。落車の被害を免れたのは先頭のわずか7選手だけ!30人ほどが地面に叩きつけられ、その他の選手たちも落車を避けるために脚をついたり、減速せざるをえなかったりした。不幸中の幸いは落車発生箇所がゴール前2km地点だったこと。「ゴール3km以内の落車・メカトラブル等で遅れた選手は、アクシデント発生時に属していた集団と同じゴールタイムが与えられる」という自転車ルールに則って、プロトン全員に同ゴールタイムが与えられた(ボーナスタイムは通常通りに適用された)。もちろん停止を余儀なくされたファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)も、マイヨ・オロのままブエルタ本国のスペイン入りを果たす。

ただしこの落車のせいでスペイン入国が不可能になってしまった選手も存在する。クリストファー・ホーナー(アスタナ)は左手掌骨折と臀部負傷のため、水曜日にアメリカへと帰国する。リタイアか続行か、不安視されているのは昨大会総合4位のエセキエル・モスケーラ(シャコベオ・ガリシア)。左臀部と足首を痛めたせいで自力で自転車が漕げず、チームメイトに助けられてゴールした直後に救急病院へ運ばれている。また大会医師団の発表によればロベルト・キセルロウスキー(フジ・セルヴェット)も右鎖骨骨折の可能性があり、ダヴィデ・ヴィガノ(フジ・セルヴェット)は複数の外傷を抱え、グスタボ・ドミンゲスレモス(シャコベオ・ガリシア)は深い切り傷を負ったという。アレクサンドル・ヴィノクロフ(アスタナ)も左もも擦過傷に加えて左ヒジを5針縫っているが、レース続行を断言している。

スタート地点は晴れていた。憎らしい雨が空から落ち始めたのは、この日のエスケープ集団が形成された後だったのだ。アタック合戦を制して20km地点で逃げ始めたのはハビエル・ラミーレス(アンダルシア・カハスール)、セルゲイ・ラグティン(ヴァカンソレイル プロサイクリングチーム)、第2ステージにも逃げたドミニック・ローエルス(チーム ミルラム)、さらに2日連続の逃げとなるラルス・ブーム(ラボバンク)の4人。降り始めた強い雨にも負けず黙々と逃げ続け、カウベルク峠=アムステル・ゴールドレース最終峠の第1回目通過の際には、後続に14分ものタイム差をつけた。

はるか後方のプロトンは、濡れたカウベルクをそろりそろりと注意深く登った。少しずつ加速を重ねて、少しずつ逃げ集団との距離を縮めていった。3つの峠を先頭通過したブームが山岳ジャージを獲得し、ゴール前32km地点のソリダリオポイントでラミーレスが「赤ゼッケン」を勝ち取り、2つ目のスプリントポイント=1回目のゴールラインを通過した後にようやく、集団はひとつになった。ここからは誰もが攻撃的に走った。アルデンヌクラシックの1つラ・フレーシュ・ワロンヌをかつて制したキム・キルシェン(チーム コロンビア・HTC)がアタックを打ち、フランドルセミクラシックのパンヌ3日間で区間勝利の経験があるエンリーコ・ガスパロット(ランプレ・N.G.C)の独走も見られた。スプリンター集団が高速でポジション争いを繰り広げ、全ては秩序にしたがって華々しいゴール勝負へと持ち込まれるはずだった。

ただしゴールへと続く道は、7人の前にしか開かれなかった。しかもチーム コロンビア・HTC4人、クイックステップ3人のみ。すかさずクイックステップ勢が全力疾走を始めた。リーダーのトム・ボーネンは後方へ取り残されたが、「地元」ベルギーで絶対に勝たなくてはならなかったのだ。マッテーオ・トザットが強烈に引き、マルコ・ヴェーロがリレーを引き継ぎ、そして勝負は昨ブエルタで区間1勝しているワウテル・ウェイラントに託された。……ただしたった1人で、ゴール直前まで残っていたコロンビア3人にかなうわけがない。そして前日はアシストに勝利を持っていかれたアンドレ・グライペル(チーム コロンビア・HTC)が、チームのエーススプリンターとしてきっちり勝利を手に入れた。2008年ジロ第17ステージに続くグランツール区間2勝目。

辛い一日を終えた選手たちは、暖かいシャワーを浴びてから、リエージュ空港でチェックイン。19時45分と20時15分の2つのフライトに分かれて、スペイン・タラゴナへと飛びたった。9月2日は地中海岸でゆっくりと休養日を満喫して欲しいものだ。一方でチームスタッフや大会関係者、メディアにとっては長く疲れる移動日となる。開催委員会の指示に従ってチームカーはゴール後一気に680km南下してフランス・リヨンで宿泊、休養日にはさらに730km南下してタラゴナへとたどり着く予定となっている。


●アンドレ・グライペル(チーム コロンビア・HTC)
ステージ優勝、ポイント賞リーダー

落車に巻き込まれた選手にひどい怪我がないことを祈っている。誰もがしっかり回復して、この先もレースを続けられるよう願っているよ。コース設定は特に危険なものではなかった。ただ路面は濡れていたし、ロータリーだった。レース最終盤でプロトンはひどくナーバスになっていた。スプリントに向けて激しいポジション取りが起こっていた。そして落車が発生したんだ。ボクは幸いにもいいポジションにつけていたし、チームメイトと共に先を続けられた。チームメイトには本当に感謝しているよ。

ポイント賞でリーダーに立ったけれど、この先も1日1日様子を見ながら走っていくだけ。今大会には区間勝利を目標にして乗り込んで、その目標はすでに果たすことができた。確かにボクはシーズンを通して調子が良いけれど、今の時点ではこのジャージのままマドリードまでたどり着けるとは思えないんだ。とにかく1日1日の出来を見ていくだけ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ