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【速報 ブエルタ・ア・エスパーニャ2024】逃げに乗ったカストリーリョ、ラスト10kmを独走逃げ切りプロ初勝利/第12ステージ
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つい4日前にブエルタが通過したばかりのスペイン・ハエン県は、大雨による浸水災害に襲われている。この日のプロトンの頭上にも、嫌な雨雲がついてきた。オランダスタートから記録的な大雨続きの2009年ブエルタ・ア・エスパーニャは、最後の山岳決戦さえも悪天候の中で行われることになった。心底喜んでいたのは「雨は大歓迎。濡れた路面なら、ただでさえ難しいステージの難度がさらに増すからね」と前日ステージ後に語ったサムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)だけだったかもしれない。なにしろサンチェスは雨の多いアストゥリアス出身。そしてオレンジ色のエウスカルテル・エウスカディ集団は、雨の中、メイン集団の前方で激しい攻撃を繰り返した。
もちろんスタート直後から幾多の高速アタックが巻き起こったり、3人のエスケープを追って最終峠の麓でカウンターアタックが相次いだりしたのだが、これは来るべき激戦の前哨戦でしかなかった。30km地点で出来上がったクリストフ・リブロン(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)とエドアルド・ヴォルガノフ(シャコベオ・ガリシア)、ダニエル・マーティン(ガーミン・スリプストリーム)の逃げ集団は、7分近くタイム差を開きながら、最終峠の開始と共に吸収された。吸収直前には、今大会難度も逃げを打ったジョニー・フーガーランド(ヴァカンソレイル プロサイクリングチーム)を筆頭に数人が飛び出したが、ごく短時間で見せ場は終わった。
バスク編隊は、100km過ぎから始まった1級ラ・モルクエラの登りで手ごたえを感じていたはずだ。2日前の落車で左ひざと左ひじを負傷したロベルト・ヘーシンク(ラボバンク)——前日はぐるぐる巻きの包帯姿だったが、この日は小さな絆創膏だけだった——が、短い間ながらメイン集団から脱落していた。「今ブエルタ最後の峠」1級ナバセラダ峠が始まると、エウスカルテルは一層テンポを強める。首位から31秒差の総合2位ヘーシンク、つまり総合3位サンチェスに対して39秒のリードを持つヘーシンクを振りほどき、サンチェスを総合2位へと上昇させるために。そしてオレンジ軍団の願いどおり、ヘーシンクは決定的に遅れ始めた。
ヘーシンクとのタイム差が1分半以内だったイヴァン・バッソ(リクイガス)やカデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)、エセキエル・モスケーラ(シャコベオ・ガリシア)にとっても、この展開は好都合だった。特に第18ステージ終了時点で総合4位バッソは、2006年ジロ総合優勝以来のグランツール表彰台を諦めていなかった。ヘーシンクとの57秒差を逆転しようと、リクイガス最高の山岳アシスト、シルヴェスタ・シュミットが強烈な牽引を行った。
前夜のサンチェスは「逆転優勝は諦めた」と語っていた。それでもナバセラダの山頂通過直前には、小さな可能性に賭けたのだろうか。すでに10人程度に小さくなっていたメイン集団の前方にするするっと上がると……、得意のダウンヒル特攻に打って出たのだ!もちろん、マイヨ・オロのアレハンドロ・バルベルデ(ケースデパーニュ)は、サンチェスの下り攻撃を予測していた。しかも2006年のバルベルデには、アレクサンドル・ヴィノクロフ(アスタナ)の下りアタックでマイヨ・オロを奪われた苦い思い出がある。だから2度と同じ失敗を繰り返さぬように、バルベルデは、すかさずサンチェスの後ろにぴったりと張り付いた。張り付いただけでなく、下り序盤ですかさずサンチェスを追い越すと、ライバルのさらなる加速を上手く防いだ。
一度は出し抜かれたバッソやエヴァンス、モスケーラら6選手も、約18kmの長い下りで前の2人を捕らえた。そして総合13位以内の選手だけで構成された先頭集団の中で、2番目に総合成績の低かったファンホセ・コーボ(フジ・セルヴェット)が残り2.8kmで飛び出した。2008年ツールでのドーピングスキャンダルで所属チームのサウニエル・ドゥバルが大会を追放されて以来、「レースに集中し続けるのが難しかった」と語ったコーボ。ゴールラインまで必死に駆け抜けると、これまでのフラストレーションを吹き飛ばすようなグランツール初勝利を手に入れた。もちろんチームにとっては、フジ・セルヴェットと名称を変えて以降初めてのグランツール勝利となった。
ひとまず戦術成功に終わったサンチェスは総合2位に浮上。また同時にゴールラインを超えたバッソ、エヴァンス、モスケーラも、それぞれ総合3位、4位、5位と順位を1つずつ上げている。ただし2位サンチェスとバッソのタイム差は19秒差、3位バッソとエヴァンスのタイム差は14秒差、サンチェスと4位エヴァンスのタイム差は33秒差だから、第20ステージの個人タイムトライアル27.8kmで未だ順位が入れ替わる可能性を秘めている。
マイヨ・オロのバルベルデだけは区間2位でボーナスタイム12秒……に加えて第2スプリントポイント2位通過で4秒を手に入れたおかげで、総合2位以下との差を1分26秒以上とし、ますます首位の座を確実なものとした。マドリードまであと2日。2008年ブエルタ総合勝者アルベルト・コンタドール(アスタナ)に続くスペイン人王者誕生の予感に、スペインメディアはわきたっている。ちなみにこの日、ブエルタ会場にコンタドールが訪れた。特別に開かれた記者会見では、未だ来シーズンの予定が不透明であることを、現役唯一の3大ツール全覇者は改めて口にした。
区間王者から4分44秒遅れて、ヘーシンクはゴールへとたどり着いた。総合順位は2位から6位へと転がり落ち、タイム差は31秒差から5分30秒差へと、もはや取り返しのつかないほど開いてしまった。最後まで共に走り続けたチームメイト3人は疲弊したリーダーの肩を抱き、チームバスでは監督がやさしく敗者を出迎えた。「山岳では、彼は今ブエルタ最強選手の1人だった。そのことを決して忘れてはならない」
●ファンホセ・コーボ(フジ・セルヴェット)
ステージ優勝
最終盤は他選手を出し抜こうと考えていた。最後に残った選手の中では、ボクは総合順位の低い方だった。だからアタックしていく必要があった。リスクを冒していく必要があったんだよ。ボクは最高のタイミングで飛び出したね。でも敵に回していたのはかなりの強豪選手たちだったから、最後の最後まで警戒は解かなかった。
チームの目標は区間1勝。それから総合トップ10に選手を送り込むことだった。今日で2つが両方一挙に達成できたね。チームにとっては非常に大切な勝利だった。ものすごく大きな意味を持つよ。今年ボクらのチームは、思い通りのレースカレンダーを組むことが出来なかった。ボク自身に関しても安定した体調を維持できなかったし、集中力を保ち続けることが非常に難しかった。だってどんなレースに出場できるのか、この先チームがどうなっていくのか、まったく分からなかったんだから。だからこの勝利がチームの助けとなってほしい。そして来シーズンは、もっと重要なレース出場に出場できることを願っている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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