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サイクル ロードレース コラム 2010年5月11日

【ジロ・デ・イタリア2010】第2ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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2010年ジロ一行が、再び前日と同じミュージアム広場に集結した。選手がひとりずつ孤独な戦いを繰り広げた第1ステージとは違い、この日は198人の全選手がスタートラインに並ぶ。いよいよ本格的な戦いの始まりだ。そしてプロトンはアムステルダムの市街地を抜け出すと、牧歌的な春の田園地帯へと走り出していった。

気温は10度程度と低く、空には相変わらず重い雲が垂れ込めたが、レースの周辺には5月の日曜日の静かな雰囲気が漂っていた。草木の濃い緑と、咲き誇る菜の花の黄色。草の上では動物の親子がのんびりと草を食み、道に沿って流れる運河では水鳥が滑るように進んでいく。伝統的な巨大風車があちこちでプロトンを見守りし、自転車でかけつけたたくさんのファンが熱狂的な声援を送る。しかし平和なのは周囲の風景だけ。レース自体は何度も緊張を強いられる場面に直面した。そもそもオランダの車道=プロトンが通過する道は、全体的に道幅が非常に狭い。車道の両脇に幅の広い自転車専用レーンが設置されているせいであり、もちろん、一般の自転車愛好者にとっては天国のような環境だ。ただし自転車レースにとっては極めて難しい環境となる。しかもそのただでさえ幅の狭い車道に、中央分離帯やら減速帯やらが無数に姿を現すのだ。この道路が細かい落車を何度も引き起こし、ゴール前42km地点ではマリア・ローザ姿のブラドレー・ウイギンズさえも尻もちをついた。

ゴール前10kmに突入すると、さらに状況はひどくなった。大集団スプリントを目指すプロトンは猛烈にスピードを上げていき、夕方の空には少しずつ風が吹き始めていた。集団の空気は極度に張り詰めり、残り7km地点でついにひどい集団落車が発生してしまった。イタリアチャンピオンジャージを身にまとうフィリッポ・ポッツァートが地面に強烈に叩きつけられたのを筆頭に、多くの選手が自転車から放り出された。しかもこの落車がプロトンをずたずたに分断してしまう。

運よく前線に残ることができたのは、わずか60人あまり。つまり3分の2近い選手たちが、無残にも後方へ取り残され、必死の追走を繰り広げるはめとなった。しかも犠牲者の中には前日のTT勝者ウイギンズと、総合優勝候補のカルロス・サストレ、さらにランプレが誇る2人の元ジロ覇者ジルベルト・シモーニ&ダミアーノ・クネゴの姿があった。一方で集団ゴールに備えていたおかげで前線に留まった強豪スプリンターたちとならんで、世界チャンピオンのカデル・エヴァンス、アレクサンドル・ヴィノクロフ、イヴァン・バッソは前にいた。するとバッソを含む7選手を先頭集団に送り込んだリクイガス・ドイモが激しい加速を開始。後方のライバルたちを完全に引き剥がし、少しでもタイム差を広げようと猛烈に前線を引き続けた。最終的にエヴァンス、ヴィノクロフ、バッソの3人は区間勝者から3秒遅れでフィニッシュラインを越え、サストレ他の遅刻組から34秒ものタイムを奪うことに成功している。

中でも最も嬉しい思いを味わったのは、世界チャンピオンのエヴァンスだった。この朝のスタート地ではBMCチームマネージャーのジョン・ルラングが「我々の目的は今日マリア・ローザを取ることではない。最終日にそれを着ていることなんだ。確かにチームの2人——ブレント・ブックウォーターとカデル・エヴァンス——にジャージ獲得のチャンスあるけれど、我々には関係ないのないこと。無理に逃げを送り込んだり、集団コントロールしたりするつもりはまったくない」と語っていたが、ふたを開けてみれば展開の妙でマリア・ローザが手に入ってしまった!なんでも昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでオランダスタートを経験していたことが、この日のステージで悪いサプライズを避けるのに役立ったとのこと。確かにエヴァンス(昨ブエルタ3位)、バッソ(同4位)、ヴィノクロフ(途中リタイア)は、近年でもまれに見る大落車(@リエージュ)が発生したブエルタのオランダ・ベルギーステージを経験している(クネゴもいたのだが)。エヴァンスは生まれて初めてジロに参加した2002年に1日だけこのリーダージャージを着用しており、人生2度目のピンクジャージ表彰台では感動の涙……よりもむしろ大きな笑顔がふりまかれた。

落車の犠牲になりながらも、勝利の女神を微笑ませた男もいた。ゴール前50kmで中央分離帯にひっかかって地面に転がり落ちたタイラー・ファラーだ。スプリントリーダーの一大事を救うために4人のチームメイトが隊列を組み、ファラーの前線復帰を可能にした。また分断後の前方集団でも 4人に助けられ、スプリントへ向けての十分な準備ができていた。ゴール前500mでのクリストファー・サットンの特攻にもあわてることなく、続く300m の最終カーブで上手く加速すると、初めてのジロ区間をさらい取った。昨年は3大ツール全てに初出場を果たし(ジロ途中棄権、ツール完走、ブエルタ途中棄権)、夏の大躍進(ヴァッテンフォール・サイクラシックス優勝、エネコツアー区間3勝)にのってブエルタで初めてのグランツール区間勝利を手にしていた。今ジロでは初めてのスプリント機会を見事にものにして、強力スプリンターとしての名声を改めて確かなものとして見せた。

しかもファラーはキング・オブ・スプリンターの証、新色マリア・ロッソ・パッショーネをウイギンスから奪い取った。両者のポイントは25で並んだが、「同点の場合は(…)総合順位が上の選手にジャージが与えられる」とのルールに従って総合2位のファラーに着用の権利が与えられた。またスタート直後にアタックを打ち、2010年ジロ最初のエスケープを企てたポール・ヴォス、ステファノ・ピラッジィ、リック・フレンス、マウロ・ファッチの4人のうち、ヴォス、ピラッジィ、フレンスの3人が今大会初の——そして3日間着用が約束されている——山岳賞争いを繰り広げ、それぞれに4ポイントずつ獲得した。気になる順位付けは「1位通過の多い選手」という規則でピラッジィとヴォスがならび、「それでも同点の場合は総合順位が上の選手にジャージが与えられる」とのルールに従って、152位のヴォスが162位のピラッジィを退けている。

気になる我らが新城幸也は落車もなく、他のチームメイトと共に分断の影響を受けたスプリントリーダーのウィリアム・ボネの牽引に力を尽くし、第2集団でゴール。無事に1日を終えている。


■カデル・エヴァンス(BMC レーシング)
マリア・ローザ

2002年はジロの最終盤でマリア・ローザを取ったけれど、今年はスタート直後にジャージを取った。いずれもちょっと変わってるよね。今日スプリントのあとにマリア・ローザを手に入れられるなんて思ってもいなかったからね。だから喜びと同時に、信じられない気分もあるんだ。でも明日は無理にジャージを守りには行かない。ファラーはわずか1秒差でしかないし、彼と張り合うためにボーナスタイムを獲りにいったりはしないよ。いずれにせよ、彼がいつまでも首位にしがみついていたとしても、ゾンコランで突き放すさ(笑)。

8年前と比べて年を取ったし、経験を積んだ。なにより今年チームを変わったことがボクにとっての最大の変化だ。チーム上層部や選手たちとは非常に良い関係を築けている。仕事環境、モチベーション、そして経験が上手くミックスして、今は良いバランスが取れているんだと思う。

明日も危険な1日になるだろうね。でもなによりも今日のステージは、ボクのキャリアを通して、最もバカバカしくて危険なステージだった。ルートのせいだけじゃない。プロトン内はひどくピリピリしていたんだ。なにしろ道はどちらかといえばクラシックライダー向け。そこにグランツールの選手たちが放り込まれたんだからね。幸いにもボクは去年ブエルタのオランダスタートを経験していたから、心構えができていた。うん、本当にナーバスなステージだった。

■タイラー・ファラー(ガーミン・トランジションズ)
区間勝利

ファンタスティックだ。最高に嬉しい勝利のひとつだよ。去年はボクにとっては躍進の年で、いくつも勝利を重ねられた。そして今日の勝利は去年ボクが成し遂げてきたことの再証明となったはずだ。今大会の目標はステージ勝利。そして最初のスプリント機会で勝利を手にすることができた。おかげでこの先は強いプレッシャーを感じずにすみそうだね。

グランツールの序盤数日は常にナーバスな雰囲気が漂っているものなんだ。誰もが前線に出ようと激しく戦いを繰り広げる。時に無駄な努力を費やしたりもするのさ。それにオランダでのレースは、いつだって路上に何かが突然登場する。ピリピリした集団内では、ちょっとした注意不足が大事故を招く。ボクもゴール前50km地点で落車した。道の真ん中に中央分離帯があったんだけれど、ボクには全く見えていなくて、気がついたら地面に転がり落ちていた。幸いにも全くひどいものではなかった。軽い擦り傷を負ったけど、それ以外はどこも痛くない。確かに不運ではあったけど、最終的に問題はなかった。

チームは素晴らしい仕事を成し遂げてくれた。これ以上はないほどの出来で、ボクをフィニッシュラインまで導いてくれた。今年の最初からチームはトレイン強化に務めてきて、今日、その努力が報われたことが明らかになったね。サットンが最終盤のカーブで飛び出したけれど、ディーンがきっちりと差を縮めてくれたんだ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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