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サイクル ロードレース コラム 2010年5月16日

【ジロ・デ・イタリア2010】第7ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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キリスト教の世界の人々は、第7ステージで繰り広げられたような光景を「黙示録風」とか「ダンテ風」などと表現する。簡単に言いかえれば、つまり、地獄だ——。「古き良き時代の自転車レースを見ているようでした」「厳しく、美しいステージだとは思いませんでしたか?」とテレビリポーターに声を掛けられたアレクサンドル・ヴィノクロフは、一瞬あきれたように沈黙したあと、「まさか。パリ〜ルーベよりも酷かったよ」と吐き捨てたほど。北の地獄という異名をほしいままにする春クラシック以上に、トスカーナの白い道「ストラーデ・ビアンケ」は選手たちの心身を痛めつけた。いや、そもそも白いダートコースは単なる灰色の泥んこ道と化していた。

雨と寒さを吹き飛ばすように、スタート直後からプロトンは猛スピードで走り出した。なんと序盤1時間の平均時速は超高速の52.5km!一旦は新城幸也を含む16人が逃げを試みたものの、前日まで総合3位につけていたバレリオ・アニョーリが滑り込んでいたため、早々にプロトンに回収された。ようやくこの日のエスケープが形成されたのは85km地点を過ぎてから。すでに第2ステージで185kmの大逃げを見せたリック・フレンスと、前日が35歳の誕生日だったニキ・セレンセンが、一時は後続に9分半もの大差をつけて逃げ急いだ。しかし、220km超えの長くて難しいステージを最後まで逃げ切ることなど、所詮無理な話だった。ステージ2つ目の峠りに差し掛かったところで、2人は追ってきたプロトンに先頭の座を明け渡さざるを得なかった。この山の向こう側を下れば、春先の新名物レース「モンテパスキ・ストラーデビアンケ」、通称エロイカでおなじみのダートコースはすぐそこだった。

地獄突入の前に、悪夢が下りで両手を広げて待ち構えていた。昨季2区間を制し、今年は展開次第では総合上位も狙えると囁かれるミケーレ・スカルポーニが、ゴール前35km地点で自転車を滑らせてしまったのだ。それにつられて3日間プロトンの先頭でコントロールに務めてきたリクイガス・ドイモから、マリア・ローザのヴィンチェンツォ・ニバリ、マリア・ビアンカのアニョーリ、そしてリーダーのイヴァン・バッソの3人が自転車から放り出された。またオランダで2度の落車分断(1度は本人も落車)の犠牲となったカルロス・サストレが、なんと、またしても……。前夜のニバリは「第7ステージも難しいけれど、最も大切なテストは第8ステージ。今大会最初の山頂フィニッシュ、テルミニッロだ。誰が最強なのか見えてくるだろう」と語っており、すでに気持ちはマリア・ローザで迎えられるはずだった山岳決戦へと飛んでいた。現実には、雨と泥にまみれながら、バッソと2人で遅れを取り戻すための必死の追走を行わなければならなかった。

一切落車の影響をうけず、幸運にもすんなり前へ行くことを許されたのは当初わずかに6選手だけ。その中の2人、ヴィノクロフとステファノ・ガルゼッリは後ろの様子を気にして、少しスピードダウンをすることも考えたそうだ。でも「ミルラムの選手が加速を始めて、結局、そのまま戦いが続行した」とヴィノクロフ。2人残っていたミルラムのうち、エロイカで2008年3位・2009年5位に入った経験を持つリーナス・ゲルデマンにとって、減速する選択肢などなかったのかもしれない。結局、ヴィノクロフを含む前方の選手たちは、そのまま最初のストラーデ・ビアンケへ区間と勢いよく飛び込んでいった。ただし滑りやすい泥の道で小さな化かし合いを続けすぎたせいか、途中でカデル・エヴァンスとマルコ・ピノッティ、さらにはアスファルトの道路に出たところで20人ほどの集団に吸収されてしまうのだが。

舗装路のキツイ上りでは数度の加速合戦が見られたが、再び降り出した雨の中、やはり2つ目の未舗装路で戦いは加速度的に激化していく。泥の急勾配ではヴィノクロフ、エヴァンス、ガルゼッリ、ピノッティ、ダミアーノ・クネゴ、ジョン・ガドレ、ダビ・アローヨの実力者7人が先頭集団を形成した。その後もヴィノクロフがアタックすればエヴァンスが応え、エヴァンスが加速すればヴィノクロフが付いていく。両者は共通の目的——リクイガス軍団とサストレから出来るだけタイムを突き放すこと——を持っていたが、当然ながらライバルを絶対に先には行かせたくない。そして2人のバトルがさらに先頭を絞り込んで行く。最終的に両者の間に割って入れたのはクネゴだけ(ゴール順位も両者の間)。ちなみにそのクネゴが最後の下りで飛び出して、ゴールまで1kmを示すアーチを越えた直後には……まさに地獄めぐりのゴールにふさわしい石畳まで登場した!

長く苦しい戦いを真っ先に終える権利を手に入れたのは、虹色ジャージを身にまとうエヴァンスだった。区間優勝はもちろんながら、ジロの総合大本命は区間1位のボーナスタイム20秒も欲しかった。だからこそゴール前200mの最終カーブを抜けたあとは、全力でスプリントを切った。ところでツール2位2回・ブエルタ3位1回・世界チャンピオンと輝かしい戦歴を持つエヴァンスだが、実はグランツールの「ステージ優勝者」として表彰台に上がるのはこの日が始めて。2007年ツール・ド・フランス第13ステージのタイムトライアルで、勝者がドーピングで失格となったために、後に1位の記録をもらったことはある。そのときに失格となった選手がヴィノクロフであり、この日は2秒遅れの区間3位(ボーナスタイム8秒)。第3ステージに続く今大会2度目のマリア・ローザを手に入れた。またエヴァンスはヴィノクロフ=総合首位とのタイム差をわずかながら14秒縮め、総合16位から2位へと一気に上昇している。

土色に汚れたマリア・ローザで勇ましく追走を続けたニバリは、区間首位とのタイムを2分差に食い止めた。総合では1分33秒遅れの5位。また一緒に助け合いながら走ったバッソも1分51秒遅れの総合8位と踏みとどまり、「ギブアップはしない。闘いに挑む(ニバリ)」、「ジロはまだオープンだし、まだまだ長いよ(バッソ)」とリクイガス勢は何も諦めてはいない。単独で前を追い続けたスカルポーニは1分01秒遅れと悪くないタイムで苦行を終了。一方でこの日だけで5分20秒も失い、総合では7分06秒も後れを取ったサストレにとっては、もはや総合表彰台を願うのは難しいだろうか。日本の新城幸也は25分29秒遅れでゴールした。


■カデル・エヴァンス(BMC レーシング)
ステージ優勝

非常に難しいステージだったね。ものすごく見ごたえのあるレースだったと思うけれど、こんな言葉では表現できないくらい信じられないようなステージだった。チームやメカニックはしっかりと最終盤のダートコースのために特別な準備をつんできた。だからチームのためにも非常に満足な結果だね。それにボクはマウンテンバイクのレースを7年間やってきたから、その経験も役立ったのかな。ゴール直前のボクは自信に満ち溢れていたんだ。スプリントのタイミングに関しても恐れたりしなかった。ただ勝ちたかった。これでマリア・ローザ獲りに大きく一歩近づけたと思う。今後ジロの戦いがどう進んでいくかは分からないけれど、今日は、総合争いにおいて重要な1日になったのは間違いない。

■アレクサンドル・ヴィノクロフ(アスタナ)
マリア・ローザ

ゴール前40kmはパリ〜ルーベよりもはるかに難しかった。ダートコースは信じられなかったね。まるで石畳のないパリ〜ルーベだったね。さらに雨が降ったから、本当に厳しかったよ。ボクは最後の20kmは泥が目に入って、よく見えない状態だった。本当に危険だったよ。ボクだけでなくて、選手全員にとって危険なコースだった。見る側にとっては面白いかもしれないけれど、選手にとってはそうではない。ワンデーレースならこういうコース設定もいいけれど、ジロのようなグランツールでこんなステージはあり得ないね。

今日の目標はマリア・ローザを取り戻すことではなかった。積極的に攻めていこうと思っていただけ。ニバリにとっては残念だったね。こんな形でジャージを失うなんて……。ボクはガルゼッリと合図しあって、少しスピードダウンしたんだ。でもミルラムの選手が加速したし、それにストラーデ・ビアンケ突入直前だった。ゴール前30kmで、そうそう待ってもいられなかった。

このジャージを守って行きたい。でも明日はまた難しいステージが待ち受けている。クライマーたちの攻撃を耐えしのがなければならない。自信はある。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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