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サイクル ロードレース コラム 2010年5月17日

【ジロ・デ・イタリア2010】第8ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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プロトンは前日の泥んこ道のせいで、体の芯から疲弊しきっていたようだ。アレッサンドロ・ペタッキは持病の喘息を起こして昨夜よく眠れず、ステージ前半で自転車を降りた。またジョン・マーフィーがBMCレーシングから今大会2人目の途中棄権選手となり、総合優勝を目指すカデル・エヴァンスはまた1人アシストを失った。そして彼らを含む8選手がこの日だけで大会を去った。2010年ジロはいまだ2週目に突入したばかりだというのに、アムステルダムをスタートしたプロトンは198人から183人にまで減ってしまった。

「脚が疲れていたんだ。きっとみんなも同じだった」とマリア・ローザのアレクサンドル・ヴィノクロフがゴール後に語ったように、総合本命たちも無理はしたくなかった。今大会最初の山頂フィニッシュで勇猛果敢に区間勝利を狙いに行くよりも、総合争いを脅かさない選手たちを早めに逃がして、あとは後方でおとなしく互いをコントロールしあう方を選んだようだ。最初の山岳ポイントで緑ジャージのマシュー・ロイドがポイント固めを行った後、下りの70km地点で17選手の大エスケープを先に走らせた。「総合本命たちは逃げ集団にはまるでお構いなしだったね。ボクらチームは1日中逃げ集団の追走を行ったけれど、他のチームはまるで協力してくれなかった」とダミアーノ・クネゴが悔しがった通り、後方集団を引っ張ったのはもっぱらランプレ・ファルネーゼヴィーニだった。ヴィノクロフ擁するアスタナや、前日散々な目にあったリクイガス勢は、せっせと働くランプレの背後で静かに舵取りを行うだけだった。

17人の先頭集団は、延々と1分半から2分半程度という曖昧なタイム差で逃げ続けた。そんな彼らの中から、逃げ切れる確証を得るために、ゴール前45km地点でさらなる加速を繰り出す選手があらわれた。中でもスピードアップに力を尽くしたのはトマ・ヴォクレールと、最後に勝利の女神が微笑むことになるクリス・セレンセン。新城のチームメイトは山岳得意のヨハン・チョップのため、最終峠まで出来るだけ時間を稼ぐようチーム監督から指令が下されていた。2004年ツール・ド・フランスで10日間マイヨ・ジョーヌを着用したフランスの人気者は、自己の成績を犠牲にして何度となく無茶な加速を繰り返した。おかげで後続とのタイム差は3分半にまで広がり、先頭集団の選手の中に逃げ切りの可能性が膨らんだ……。ただしチャンスをつかんだのは肝心のチョップではなく、ヴォクレールと共に加速を繰り返したセレンセンだった。

テルミニッロへの最終登坂口で、最初に飛び出したのはやはりセレンセンだった。一旦はライバルたちに吸収され、さらに逃げの友シモーネ・ストルトーニに先を行かれたこともあったが、ゴール前8kmで再び先頭に並んだ。そしてラスト5.8kmで全てを振り払うと、たった1人で山頂へ向かってペダルをこぎ進めていった。3月のカタルーニャ一周で鎖骨骨折を負っていたセレンセンは、当初はジロ出場さえも危ぶまれていたというのに……。「でもゴール前300mまで勝てるかどうか確証はなかったよ!」と語ったように、一寸先さえ見えない深い霧のせいで、果たしてストルトーニをはじめ逃げ集団やプロトンからの飛び出し組みがどの程度離れていたのか誰も分からなかったのだ……。もちろんフィニッシュラインへ先頭で飛び込んだのは、紛れもなくセレンセンだった!昨年10月に日本の自転車ファンの前でジャパンカップを制した25歳は、標高1668mの山頂で見事なグランツール初勝利を飾ってみせた。

後方では1日中働いてくれたチームメイトの期待に応えようと、クネゴが何度もアタックを仕掛けた。さらには前日落車の影響で遅れながらも、単独でタイムを取り戻した好調ミケーレ・スカルポーニも飛び出しを試みた。ただし総合本命たちは区間争いのためのスピードアップにはまるで興味を持たない代わりに、調子に乗らせると後が怖いクネゴとスカルポーニを絶対に先には行かせなかった。またマリア・ローザ集団からそれほど危険視されていないジョン・ガドレ——しかしこのフランス人は2006年ジロの山岳3区間で上位入賞を果たしたあと、無念にも落車骨折でリタイアしているのだ——のアタックは幾度も見逃したにも関わらず、2000年ジロ総合勝者のステファノ・ガルゼッリの加速は全て即座に潰しにかかった。最終的には現時点で総合候補者と呼ばれる選手たち、つまりヴィノクロフ、エヴァンス、イヴァン・バッソ、ヴィンツェンツォ・ニバリ、さらにはガルゼッリ、クネゴ、スカルポーニ等々はみな56秒遅れで仲良くゴールへ到着。ヴィノクロフのマリア・ローザを筆頭に、もちろん彼ら同士の総合タイム差に全く変化はなかった。

ところでオランダや白い道で大幅な遅れを食らってきたカルロス・サストレは、得意の山でさえ、上記選手たちと一緒に走ることができなかった。総合ではヴィノクロフからすでに8分10秒遅れ。「比較的平坦な今後2日間を利用して、これまでのケガや疲労を十分に回復したい」と2008年ツール総合勝者は語りながらも、同時にマリア・ローザ獲りを断念するときっぱり宣言した。この先はテルミネッロの上りを利用して区間3位を取りに行ったシャビエル・トンドに総合上位入賞の期待を託し、サストレ自身は大会終盤の難関山岳ステージでの区間勝利狙いに切り替える。

新城幸也は17分55秒遅れの大集団と共に山頂にたどり着いた。翌日は「逃げに挑戦したい」と以前から語っていたステージのひとつ。再び世界にセンセーションを巻き起こしてくれることを、大いに期待しよう。


■クリス・セレンセン(チーム・サクソバンク)
ステージ優勝

すごく嬉しいよ。だって7週間前にボクは鎖骨を骨折して、まるで何も出来ない日々を過ごしてきたんだ。ジロに出場できるかさえも不確かだった。だからボクにとってはジロ出場だけでもすでに奇跡的だというのに、今大会初の山岳ステージで信じられないような勝利を手に入れてしまった。素晴らしい復活劇となった。本当に、本当に嬉しいよ。

エスケープ集団が最後まで逃げ切れるかどうか確証はなかった。特にランプレが背後から追走をかけて来ていた。でも幸いにも逃げ集団のスピードは落ちることがなかったし、十分なタイム差をキープしたまま最後の峠へと突入することが出来た。それに有力選手たちは昨日のステージできっと疲れていたんだろうね。ボクはまったく疲れていなかったんだ。だって昨日は無理せず走って、24分遅れでゴールにたどり着いていたからね!

キャリア最大の勝利だよ。この山にはこれまで登ったことはなかったけれど、ロードブックを読んで地形の研究をしっかりしていたんだ。ストルトーニが最初にアタックを仕掛けたとき、ボクはあくまでも自分のリズムで上ろうと心がけた。それからボクが苦しんでいる姿を、と彼にわざと見せ付けようとも考えたんだ。こうして彼に仕事を散々させたあと、ボクは決定的な飛び出しを仕掛けたというわけさ。思い通りにことが運んだよ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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