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サイクル ロードレース コラム 2010年5月18日

【ジロ・デ・イタリア2010】第9ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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グランツールの総合優勝を勝ち取るには平地に耐え、山岳やタイムトライアルに強く、3週間走りきる頑強な体力と精神力を持ち、落車などのアクシデントを避ける幸運に恵まれ……、しかも水にも強くなければならないようだ!この日も南イタリアを走るジロ一行の頭上には雨雲が張り付き、ルート上のところどころは大浸水。巨大な水たまりと化した道を、まるで泳ぐようにプロトンはペダルを漕いだ。おかげでスタートから9km地点で逃げ始めたマイケル・バリー、ミハイル・イグナチェフ、トム・スタムスナイデル、ジャンパオロ・ケウラは、大方の予測も少しだけ長く逃げ続けることが出来た。

4人は27km地点で後続に4分リードを奪った後、タイム差は延々2分程度で進行する事になる。アンドレ・グライペル擁するチームHTC・コロンビアが、積極的にタイムコントロールに務めたせいだ。前日にジロ通算42勝のアレッサンドロ・ペタッキと、ミラノ〜サンレモ4位のサチャ・モドロが大会を去り、2003年ツールのポイント賞バーデン・クックはこの日のスタート地に姿を現さなかった。つまりスプリント強者が3人減ったことになり、残されたスプリンターたちは俄然やる気をかきたてられていた。とりわけグライペル——HTCコロンビアのスプリントリーダーの座を奪い、ツール・ド・フランス出場を熱望している——に関しては、この日は絶対に勝ちたかったはずだ。なにしろ地球の向こう側で開幕したツアー・オブ・カリフォルニアで、本来のスプリントリーダー、マーク・カベンディッシュが復活をアピールするスプリント勝利を決めた直後だったから。

しかも今大会8ステージを終えて、本当の意味での大集団スプリントはいまだ実現されていなかった。第2・第3ステージは分断による小集団スプリント。また第5ステージは大集団スプリントも可能だったはずだが、ギリギリのところでエスケープを逃がしてしまった。だから大会9日目のこの日こそは、追走・吸収の計算間違いを絶対におかしてはならなかったのだ。まあ、ゴール前58km地点から約10kmに渡って点在した水たまりのせいで、一旦40秒まで追い詰めたタイム差を再び2分程度まで広げられてしまうという小さな誤算はあったのだが。

プロトン前線を引き続けたのはなにもHTCコロンビアだけではない。浸水区間ではマリア・ローザのアレクサンドル・ヴィノクロフを守るアスタナが、慎重に集団の動きを制御した。またゴール前71km地点ではリクイガス・ドイモが全員体制で前に上がって来たこともあった。ジロ開催委員会は連日、翌ステージの危険箇所・注意事項を各関係者に書面で通知しており、ちょうどこのゾーンは「市街地で道幅狭く、石畳あり」との記載がされていたとのこと。つまり第7ステージでヴィンチェンツォ・ニバリ、バレリオ・アニョーリ、イヴァン・バッソという総合上位3人がまとめて落車し、タイムを大幅に失った失敗を2度と繰り返さないために、チーム全体で危険回避の対策に動いたのだった。一方で、またしても思いがけないミスで沈んでしまった選手がいた。ラスト25km地点でカルロス・サストレがパンクしたのだが……、集団が極度に加速しているこの時間帯に、彼を即座にサポートできるアシスト選手が周りにいなかった。すでに今ジロで多すぎるほどの不運に遭遇してきたサストレだが——第2ステージ落車、第3ステージ落車分断、第7ステージ落車分断、第8ステージ不調——、この日も先頭集団から大幅にタイムを失い、総合タイム差は9分59秒にまで開いている。

少しずつ追い詰められていく4選手の中から、残り10km、イグナチェフが最後の賭けとばかりにアタックを仕掛けた。タイム差はわずか20秒ほど。粘り強く逃げ続け、バリーの再協力も仰ぐことが出来たが……結局はゴール前5kmのアーチを越えた直後にプロトンに飲み込まれていった。そして急激な加速と雨のせいで一回り小さくなっていた集団は、ゴールスプリントへと突き進んで行った。

「総合本命たちがスプリントするなんて、全くクレイジーな光景だったよ!」とゴール後にポイント賞ジャージを取り返したタイラー・ファラーが苦笑いしながら語った通り、ラスト500m付近でマリア・ローザ姿のヴィノクロフとマリア・ロッソ・パッショーネ姿のカデル・エヴァンスがスプリントを仕掛けるとんでもない場面も見られた。「だって出来るだけエヴァンスからタイムを失いたくなかったから」というのがヴィノクロフの言い訳であり、もちろんエヴァンスは区間上位3位に与えられるボーナスタイムを狙っていたに違いない。ただしゴール前300mでスプリンターたちが無事に指揮権を取り戻し、そしてHTCコロンビアのグライペル……ではなくマシューハーレー・ゴスがフィニッシュラインを先頭で駆け抜けた。

2009年ジロでは大量区間5勝を上げたHTCコロンビアだったが、今大会は9日目にしてようやく初勝利を手に入れた。また第6ステージのマシュー・ロイド、第7ステージのカデル・エヴァンスに続く今大会3人目のオーストラリア人区間勝利。ちなみにゴスと、今大会6日間マリア・ビアンカを着用しているリッチー・ポートは、オーストラリアの中でもタスマニア島の出身だ。北海道よりも小さな島から、いっぺんに2人もジロ表彰台選手が出るなんて!淡路島ほどの大きさのマン島はカベンディッシュという神童を輩出しているし……。そのマン島よりもさらに半分以下の石垣島出身の新城幸也は、サストレと同じ1分49秒遅れの集団でゴールしている。


■マシューハーレー・ゴス(チームHTC・コロンビア)
ステージ優勝

ハードなフィニッシュだったね。最終30kmはとんでもない猛スピードだったから、本当にタフだった。今日もチームはグライペルのために走った。でもゴールの少し登りという地形はむしろボク向きだったようだ。幸いにもボクが前に出るチャンスがあったから、そのままスプリントに飛び込んだ。でもゴール前400mは、「もしアンドレが後ろにいるなら、ボクを追い越していくだろうな」と思っていたんだ。そのまま頭を下げて走り続けたけれど、結局誰にも追い越されなかったんだ。スタートしたばかりのボクのキャリアにとっては、非常に大切な勝利となったよ。正直に言うと、まだ何が起こったのかはっきりと理解できていない。

ボクはピュアスプリンターではない。確かにボクもスピードがあるけれど、ボクが勝つためには今日のような難しい地形やコンディションが必要なんだ。それにリーダーはあくまでもグライペル。今後もアシストを続けていくよ。ボクらチームは今日まで勝てずに、少しプレッシャーを感じていた。もちろんチームの目標はさらに区間勝利を手に入れること。今後2週間で再びチャンスがあれば、ボクだってまた獲りに行くよ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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