人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2010年5月20日

【ジロ・デ・イタリア2010】第11ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

2010年ジロは大会前にはまるで予測もできなかったようなシナリオで進んでいる。奇抜なコース作りが信条の開催委員会も、さすがにここまでのカオスは想像していなかったはずだ。「とにかく長くて、とにかく寒くて、とにかく雨がすごくて」とゴール地点にたどり着いた誰もが繰り返したこの第11ステージでは、開幕から10日間かけて作り上げられてきたある種の秩序が、ガラガラと音を立てて崩れてしまった。残る10ステージにはどんな衝撃のストーリーが待ち受けているのか。マリア・ローザ争いは、全く先が読めなくなった。

混乱状態は、スタートから34km地点で56人の大集団が飛び出したことから始まった。前日までの総合11位ダビ・アローヨを含むケースデパーニュから5選手、初日マリア・ローザのブラドレー・ウイギンズを含むスカイ・プロフェッショナルサイクリングチームが4選手、山岳ジャージを着るマシュー・ロイドを含むオメガファルマ・ロットが4選手。さらには度重なる不運のせいですでに総合で9分59秒も後れていた「元」優勝候補カルロス・サストレを含むサーヴェロ・テストチームも4選手を前に送り込んだ。マリア・ビアンカの総合6位リッチー・ポートもチームメイト2人と共に逃げている。早い話が全てのチームから最低1選手ずつが滑り込んだこの巨大なエスケープ集団は、最大で17分50秒ものタイム差をつけた。

そう、マリア・ローザ姿のアレクサンドル・ヴィノクロフ擁するアスタナからは2選手が逃げ集団に入っていた。総合2位につけていたカデル・エヴァンスのBMC レーシングはわずか1人しか前に行けなかったが、イヴァン・バッソとヴィンチェンツォ・ニバリと好調2人を抱えるリクイガス・ドイモは4選手を送り込んでいた。ミケーレ・スカルポーニが好調なアンドローニ ジョカットーリ・ディクイジョバンニもやはり4選手。しかし前線に滑り込んだアシストたちは、スカイとサーヴェロ、そしてケースデパーニュがハイスピードで率いる逃げ集団に対して何も出来ることはなかった。100kmほど逃げに付き合ったあと、アスタナ2人・BMC1人・リクイガス1人・アンドローニ ジョカットーリ3人は前方から脱落して後方支援にまわっている。

しかし後ろに残された総合トップ10選手のうち9人——ヴィノクロフ、エヴァンス、ニバリ、バッソ、マルコ・ピノッティ、ウラディミール・カルペツ、ステファノ・ガルゼッリ、ダミアーノ・クネゴ、スカルポーニ——これが最終日の総合トップ10だと言ってもまるで不思議ではないメンバーだが——は、一体何をしていたのだろうか?

まず明らかに初動体勢にミスがあった。アンドローニ ジョカットーリのサヴィオ監督によれば「前方に誰がいるのか最初の頃は全く情報がなかった」とのこと。おそらく人数が多すぎたせいで、公式レース無線による逃げメンバー情報がすぐには入らなかったのだろう。さらにリクイガスとアンドローニ ジョカットーリは大人数を送り込んでいたため、「動くべきはアスタナ」と決め込んでいたようだ。「ほかの選手はみんなボクらのほうを見て、アスタナが動き始めるのをただただ待っていた」とヴィノクロフも証言する。

そのアスタナには上手く動けない事情があった。今ステージの最中になんとエンリーコ・ガスパロットとヴァランタン・イグリンスキー、さらにアレキサンド・ディアチェンコの3選手が一気にリタイア。すでにパオロ・ティーラロンゴは大会を去っており、しかも前線に2選手がもぐりこんでいたわけで……、後方集団内でヴィノクロフと共に働ける選手はわずか2人しかいなかった!だからこそ前の2人は呼び戻されたのだが、タイム差はもはや手の付けられないほど広がっていた。ちなみにBMCもこの日だけで2人の大会脱落者を出している。つまりヴィノクロフとエヴァンスは、残り10日を、それぞれたった4人のアシストと共に乗り切らなければならない。

最終的には総合本命たちがなりふり構わず必死の追走を行うのだが、人数が多い上に実力者揃いの逃げ集団は13分近いタイム差を楽々と保ち続けた。そして前方ではゴール前の駆け引きがたっぷり10km近く繰り広げられたあと、フィニッシュラインへと続く最大11%の上り坂でエフゲニー・ペトロフが勝利の飛び出しを決めて、人生初のグランツール区間勝利を手に入れた。昨季創設されたチーム・カチューシャにとっては、初めてのジロ区間勝利となった(ツールでは2009年にイワノフが区間1勝)。

またサストレが渾身のラストスパートで区間3位に入り、ボーナスタイム8秒も獲得する。第11ステージで総合本命グループの面々とつけたタイム差はつまり12分45秒。……すると落車や分断、メカトラブルなど小さな不運の積み重ねで失った9分59秒をたった1日で取り戻したどころか、逆にライバルたちを総合で逆転してしまったことになる!現時点での総合順位は7分09秒遅れの7位につけているが、たとえば前日までのマリア・ローザ、ヴィノクロフに対しては2分49秒リードする。「ボクが逃げ集団に滑り込めた最後の選手だったんだ。すぐに何かすごいことが起こりそうな気がしたけれど、結果は予想以上だったね」と、再び総合本命に浮上したサストレは語る。またサーヴェロは山岳巧者のシャビエル・トンドも3分54秒差の総合4位に入り、難関山岳が待ち受ける大会3週目に向けて好位置につけた。

「ジロはまだ長い。総合争いは未だオープンだ」とゴール後にヴィノクロフは強がったが、その顔には失望と疲労の色が浮かんでいた。総合首位から9分58秒遅れの総合12位へ一気に陥落したのだから無理もない。エヴァンスは11分10秒遅れの総合13位、ニバリとバッソはそれぞれ総合14位、15位に順位を下げた。もちろん逆に首位に駆け上がったのは、今ステージで純白の新人賞ジャージを身にまとっていたリッチー・ポート。2010年にプロの世界に飛び込んだばかりの25歳は、ジロ直前のツール・ド・ロマンディ個人TTでプロ入り初勝利を上げ、さらには人生初めてのグランツール出場で初めてのグランツールリーダージャージに袖を通す快挙を成し遂げてみせた。

全長264kmの長くて苦しいレースを、171選手が走り終えた。トップのペトロフは6時間28分29秒の、そして171番目の選手は7時間15分にもわたる厳しい戦いだった。日本の新城幸也も、最終グルペットながら無事にフィニッシュラインまでたどり着いている。


■エフゲニー・ペトロフ(チーム・カチューシャ)
ステージ優勝

今朝からエスケープに乗って、区間勝利を取りに行こうと決めていた。ずいぶん長い間勝っていなかったからね!自分でもいつ勝ったのかさえ覚えていないほどだよ。普通、こういったエスケープは最後まで逃げ切れないものだ。でもケースデパーニュやサクソバンクなど、総合狙いのチームが紛れ込んでいたことで、タイム差が予想以上に広がった。それにこの悪天候だからね……。だからボクは逃げ切れると信じ続けたんだ。それにしても今年のジロは本当に厳しい。

この勝利は妻のアンナに捧げたい。彼女はイタリアに住んでいるんだけど、まだあまり友人がいないんだ。彼女にとっては大変なことだと思う。でも全てを捨てて、ボクのそばにいることを選んでくれた。今日は全てがうまくいって、これまでの犠牲に報いることが出来た。妻も喜んでいてくれると思う。


■リッチー・ポート(チーム・サクソバンク)
マリア・ローザ

信じられないよ!どうしてこんなことが起こったのか、まだよく理解できていないんだ。でも逃げ集団にはサストレのような強豪選手がいたし、スカイやケースデパーニュから大勢の選手が滑り込んでいた。それにボクのチームメイトも、この長くて難しいステージで、ボクのために文字通り全力を尽くしてくれたんだ。ボクらチームは非常に調子がいい。ジロのスタート時には過小評価されていたけれど、でもセレンセンだって区間を制した。すごいことだよね!チーム全員にお礼を言いたい。そしてボクはこの先、マリア・ローザを守るために努力していくよ。2位以下にタイム差を結構つけているから、1日1日状況を見ていきたい。

こんな悪天候のなか走るのは慣れているんだ。故郷のタスマニアは、こんな天気なんかしょちゅうだ。それにしても小さなタスマニアからいい選手がたくさん出てきているのは素晴らしいことだね。なによりオーストラリア勢がどんどん台頭してきている。自転車界はポジティブに変わり続けているんだ!

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ