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前日の衝撃と疲れに打ち砕かれたプロトンは、静かに今ステージを走り出した。幸いにも空には太陽が顔を出し、選手たちの体や心を静かに癒してくれたに違いない。9km地点でリック・フレンスの、20km地点でユリー・クリフトソフとオリヴィエ・カイセンの飛び出しを見送ると、集団はおだやかにステージ序盤のときを過ごした。これはステージ序盤1時間後の走行時速を見ても明らか。なにしろ雨に打たれた前日は46.3km/hで駆け抜けたのに対して、この日は36.2km/hというのんびり走行だった。
第2ステージと第7ステージにもすでに185km、93kmという逃げを行ったフレンスは、今ステージも順調に「プレミオ・フーガ=大逃げ賞」の距離を稼いでいく。タイム差は最大9分37秒まで開き、ベルギーのフランス語圏出身のカイセンと、ウクライナ生まれながらフランスでのプロ生活も9年目に突入し、最近フランス国籍を申請中のクリフトソフと共に順調に逃げ続けた。ただし後方プロトンもいつまでものんびり過ごしてはいられなかった。リッチー・ポートのマリア・ローザを守るためにチーム・サクソバンクが集団コントロールに励み、さらにステージも折り返し地点を過ぎるとスプリント勝負に持ち込みたいガーミン・トランジションズが加速を始めた。無念にもタイム差は急速に縮まって行き、最終サーキットの、1回目のフィニッシュラインを先頭で超えたあと、3人は集団に飲み込まれていった。ちなみにフレンスのこの日の逃げは185kmを記録し、大逃げ賞では463kmで総合首位に立っている。
3人の吸収を合図に、プロトンの中から弾け飛ぶようにカウンターアタックを仕掛ける者たちが現れた。フランチェスコ・ファイッリがきっかけを作り、アレッサンドロ・ビゾルティとマルコ・ピノッティが後を追い、トマ・ヴォクレールとジェローム・ピノーも飛び出した。……と、さらにはステファノ・ガルゼッリが行き、ミケーレ・スカルポーニが行き、「2人だけを行かせてはならない、と思って必死で飛び出した」というヴィンチェンツォ・ニバリが行き、アレクサンドル・ヴィノクロフ、イヴァン・バッソ、ダミアーノ・クネゴ、フィリッポ・ポッツァートも加わった。ファイッリとビゾルティは結局すぐに後退してしまったが、それ以外の10選手は集団を突き放そうと猛スピードで逃げ続けた。特に前日12分45秒もの遅れを喰らい、総合トップ10から陥落してしまったヴィノクロフ(1→12)、ニバリ(3→14)、バッソ(4→15)、ピノッティ(5→16)、ガルゼッリ(8→19)、クネゴ(9→20)、スカルポーニ(10→21)の7人は、失ったタイムを少しでも取り戻す必要に迫られていたのだ。今ジロを代表する7人の実力者たちが必死でリレー交替を行う中、前日の巨大エスケープに加わっていたヴォクレールとピノー、イタリアチャンピオンジャージのポッツァートは、区間勝利のチャンスを虎視眈々と狙っていた。
後ろで焦ったのは、3人の逃げ吸収に力を尽くしてきたガーミンと、総合争いのライバルたちに付いていけなかったカデル・エヴァンス。特に世界チャンピオンは、前に追いつけない苛立ちをランプレ・ファルネーゼヴィーニのダニエーレ・リーギに拳ごとぶつけてしまう。「だって前にはクネゴがいたんだから、追走のリズムを遅れさせるのがチームの仕事だった。でもボクはブレーキはかけてはいないのに」とリーギは理不尽に売られた喧嘩を買ってしまった。レース後、自転車競技のイメージを損ねたとして、2選手にはそれぞれ2000スイスフラン(約16万6500円)の罰金が科せられている。そしてエヴァンスはライバルたちに対して、タイムでは10秒失った。
つまり前に出た7人は、ほんのわずか10秒ながら総合タイムを取り戻した。ヴィノクロフはゴール前で加速を仕掛けて、ボーナスタイム20秒さえも手に入れようとしたが……、他の総合ライバルたちが抜け駆けを許すはずもなかった。ゴールスプリントは純粋な区間争いの3人の手にゆだねられ、ポッツァートがチーム・カチューシャに2日連続の区間勝利をもたらした。19歳でプロ入り、21歳でティレノ〜アドリアティコ総合優勝、22歳でツール区間勝利、23歳で初クラシック制覇(HEWサイクラシックス)、24歳でミラノ〜サンレモ優勝と早熟なキャリアを歩んできた「ピッポ」だが、実はジロ区間優勝は初体験。イタリアンナショナルジャージ姿で、イタリア人にとって名誉ある勝利を手に入れた。第4ステージTTTでイタリア籍リクイガス・ドイモが区間勝利を上げているが、イタリア人個人の優勝が、今ジロ12日目にしてようやく達成された。
また区間3位に入ったピノーはスプリントの甲斐あって、赤ジャージを取り戻した。実は第11ステージの最終グルペット集団(区間首位から46分31秒遅れ)にいた41人の選手たちは「制限時間アウト=レース除外」だったところを、開催委員会の特別措置により救済されている。その代わりの処分として、41人全員のマリア・ロッソ・パッショーネのポイントから25ポイントが減点された(おかげで新城幸也のポイントもマイナス5ポイントに!)。つまり第10ステージ後に84ポイントで首位に立っていたタイラー・ファラーは、前日もかろうじてトップの座こそ守ったものの、ポイントは59に減っていた。そして48ポイントで3位につけていたピノーが、ファラーとエヴァンスの遅れに乗じて、逆転トップに踊りでたというわけだ。ところで7ポイント差の2位に沈んだファラーは、ジャージ争いの様子を見て、13ステージ後にジロを完走するかどうか決めると以前語っていた。決断のときは迫っている。
■フィリッポ・ポッツァート(チーム・カチューシャ)
ステージ優勝
イタリアチャンピオンジャージを着てジロを勝てたというのは、何かとてつもなくものすごく素晴らしいこと。ボクは小さい頃からジロを見ていたし、家の近くを通るステージは父と一緒によく観戦に行ったものだ。特に今季前半は辛いときを過ごしてきたから、ここで初勝利を上げられたのは特別な気分だよ。大いに満足している。
上りではファイッリが一番に仕掛けた。ピノーとヴォクレールがそれに続いた。ボクは少し状況を見て、それからバッソとニバリの後ろにくっついていったんだ。総合争いの選手たちと一緒に前に出られたことが、最大の勝因だね。スプリントでは、ヴォクレールが仕掛けてくるだろうとは予想していたけど、ニバリやヴィノクロフがいくとは思わなかったね!しかも彼ら2人はゴールラインギリギリまで迫った。でも幸いにもボクは追い抜くことが出来たんだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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