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サイクル ロードレース コラム 2010年5月28日

【ジロ・デ・イタリア2010】第18ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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蒸し暑い午後だった。午後1時50分という普段よりも遅い時間にスタートを切ったプロトンは、スタート直後の小さな峠越え以外はほぼ平坦な道を突き進んだ。ステージ距離は140kmと非常に短く、わずか3時間15分程度で走り終えた。途中、選手たちは激しいにわか雨に降られたものの、ブレシアにたどり着く頃には青空が顔を出していた。優勝候補たちは集団内でおとなしく走り、この日出走した151選手は全員問題なくゴール地へとたどり着いた。

カルドナッツォ湖への見事な眺めを楽しみながら小さな峠を越えたプロトンから、21km地点で、2人の小さなエスケープが生まれた。飛び出したのはオリヴィエ・カイセンとアラン・マランゴーニ。山岳ポイントの存在しない今ステージで、しかしスプリンターチームは「最後のチャンス」に賭けていた。なにしろ残るステージは2つの難関山頂フィニッシュと、最終第21ステージの個人タイムトライアルだけ。しかもここまで17日走ってきて、集団スプリントのチャンスはわずか5回しかなかったのだ。すでに多くのスプリンターが大会を離れたが、厳しい天候と山岳を乗り越えてきてなお大会に残り続けているスプリンターにとっては、この日の勝利こそがご褒美になるはずだった。だからこそ逃げる2人の背後では、チームHTC・コロンビアやガーミン・トランジションズ、さらにスカイ・プロフェッショナルサイクリングチームが集団を慎重にコントロールし続けた。うっかり逃げ切りを許してしまわないように、タイム差は決して3分以上には開かせなかった。

イタリア最大のガルダ湖のほとりを通って、自転車選手にとっては幸運のシンボルのような町——過去この町でジロ区間を制したパオロ・ベッティーニ(2006年)、マリオ・チポッリーニ(2002年)、ジャンニ・ブーニョ(1991年)の3選手は、奇遇にも同じ年に世界チャンピオンに輝いている——へとプロトンは突き進んだ。しかも2010年の世界選手権はアップダウンが少なく「スプリンター向け」と言われている。ならばブレシアでの区間優勝で、ぜひとも次代のアルカンシェルジャージを先行予約しておきたい。スプリンターチームは最終盤に向けて極度にスピードを上げて行き、ゴール前3.5kmでカイセンを、残り2kmで残酷にもマランゴーニを飲み込んだ。特に初日以外勝利を手にできていない漆黒のジャージのスカイ軍団が積極的に加速を仕掛け、チームリーダーのブラドレー・ウイギンズ自ら先陣を切って最終1kmへと飛び込んでいった。

ウィリアム・ボネを引く新城幸也の姿も集団前方で見られたが、フィニッシュライン間近で最前線へ飛び出してきたのはアンドレ・グライペルだった。彼は今大会前だけですでにシーズン11勝をあげ、チームメイトのマーク・カベンディッシュと覇権争いが噂されていたほど。ところが記者会見で何度も「人間は機械ではないんだ」繰り返したように、大会前半は胃腸を壊し、スプリントではまるで輝くことができなかった。さらには区間2勝のタイラー・ファラーや、第9ステージを制したチームメイトのマシューハーレー・ゴスの影に隠れ、難関山岳週間突入で存在さえ忘れられ始めていた……。しかしグライペルは自らの実力で、自らの名誉を取り戻した。「ボクはチームリーダー。大会に残り続けて、そして勝利を獲りに行く使命を帯びていた」と生真面目なドイツ人青年は語る。こうして目標を達成した今、ジロを最後まで走るかどうかは「監督と相談して決める」とのことだ。

総合争いの選手たちはマリア・ローザのダビ・アローヨを筆頭に、全員がグライペルと同タイムで1日を終えた。「静かな1日だったね。またヴェローナへ一歩近づいた」とアローヨ。そう、全てはまるで嵐の前の静けさのようだった。今ステージを終えると、優勝本命たちは最後の山岳2連戦へと乗り込んでいく。リクイガス・ドイモのザナッタ監督は「これまでの山岳ステージ同様に、チーム全員で戦術的に攻めて行く」と宣言し、アローヨは「バッソとニバリ、エヴァンスをしっかり監視して行きたい」と意気込みを見せている。

ところで……「モルティローロの空模様も心配ですが、なにより気がかりなのはチーマ・コッピのガヴィア峠です!」と、地元のテレビ局が選手や関係者の不安を大いに煽っている。なんでも標高2618mの山頂には雪がところどころ残り、木曜日から金曜日にかけて気温は氷点下まで下がる。プロトンが通過する土曜日は、雷雨の予報(もしかしたら雪も?)。2010年ジロの戦いは、最後の最後まで、恐ろしい天候に左右されることになりそうだ。


■アンドレ・グライペル(チームHTC・コロンビア)
ステージ優勝

ようやく勝てたね。今日がスプリント勝利を手に入れられる最後のチャンスだった。ステージの最初から最後までチーム全体でレースをコントロールし続けた。追走の責任も負った。そしてチームがしっかりサポートしてくれたおかげで、いいスプリントを切ることができた。

ボクは機械ではないから、全てのレースで勝つことなんて不可能なんだ。確かに大会前はボクのスプリント圧勝を予想する声が多かった。でも胃腸不良で食べることができず、大会最初の3日間で3kgも体重を失ってしまった。おのずとスプリントに必要なパンチがなくなってしまった。また展開によって逃げ集団を捕まえられなかったり、ゴール前にカーブや危険が多かったりもした。それでもチーム全員が、ボクをサポートし続けてくれた。チームメイトも監督も、メカニックも、あらゆるスタッフがボクがレースを続けられるように努力し続けてくれた。そのおかげで勝てたんだ。チームみんなのために、この勝利を嬉しく感じている。

チームがボクのツール出場を望むのであれば、ボクはツールに出る。(たとえカベンディッシュのアシストだとしても)ツールには出たい。ツール出場はあらゆる自転車選手にとっての目標だから。でも今年がダメなら、来年があるさ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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