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ようやくツールの第1週目にふさわしい、典型的なフラットステージが訪れた。コース設定はそれほど難解ではないし、お天気も良いし、選手たちは早めにチームバスから出てヴィラージュで日向ぼっこかな……?と思ったら、意外にもスタート直前までバスに閉じこもっている選手が多かった。どうやら痛めた体を、できるだけギリギリまで休めたいと願ったようだ。スタート直前にテーピングを巻きなおし、切り傷を消毒しなおす選手も。さらには関係者たちに傷跡を見せたり、「左ヒジが痛くて、立ちこぎに力が入れられない」(タイラー・ファラー、ガーミン・トランジションズ)などと体調をメディアに説明する選手も。厳しかったクラシック風3日間は、確実にプロトンに大きな爪あとを残している。
そんな満身創痍の集団から、ディミトリー・シャンピオン(アージェードゥーゼール・ラ・モンディアル)がスタート直後に飛び出した。「スプリンターステージだというのは分かっていた。でもトライしなきゃ!今日だって後ろで何が起こるか分からなかったんだから」との積極策。。そこにフランシス・デグレーフ(オメガファルマ・ロット)、イニャキ・イサーシ(エウスカルテル・エウスカディ)、イバン・マヨス(フートン・セルヴェット)、ニコラス・ヴォゴンディ(Bboxブイグ テレコム)の4人が加わり、エスケープ集団が出来上がった。
ただしこの日のスプリンターたちは、あらゆる面で慎重だった。逃げ集団には決して3分40秒以上のタイム差を与えなかった。かといってあっさり吸収するわけでもなく——吸収後のアタック合戦を恐れたのか——、適度な距離を保ちながら適度なスピードで延々と5人の後をついていく。ゆっくり、しかし確実に前方との差を縮めていったのだ。さらにマイヨ・ジョーヌのファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)が語ったように、「プロトンは普段よりも注意深く集中していた」とのこと。ゴール前10kmで最後の抵抗を試みる逃げ集団を飲み込んだあと、ラスト5.5kmで9回登場したロータリーも慌てずこなし切った(落車なし!)。そしてマーク・カヴェンディッシュ擁するチームHTC・コロンビアとファラー擁するガーミン・トランジションズがそれぞれにトレインを組んでフィニッシュラインへと突き進むと、HTCの最終ワゴン、マーク・レンショーがゴール前数百メートルでリーダーを解き放った。
しかし「普段なら勝てるポジションで飛び出したんだけれど……、数メートル足りなかったね」とレンショーが語ったように、昨ツールで6勝という大量勝利を上げたカヴェンディッシュは失速し12位に終わった。同じくレンショーによれば、勝てなかった原因は3日間の疲れ。また昨年と違ってアシスト要員の顔ぶれが2人代わり、トレインの威力が弱まっていることも認めた。一方でカヴェンディッシュのスプリントコーチを務める元名スプリンターのエリック・ツァベルは、「去年6勝も上げて一気にトップへと上りつめてしまったせいで、今年はとてつもないストレスとプレッシャーを感じているだけなんだ」と語る。こんなツァベルがカヴェンディッシュに言い続けているアドバイスは2つだけ。「落ち着け」と「自分の仕事をしろ」。
ツァベルの教え子を破ったのは、そのツァベルが引退直前にスプリントコンビを組んでいたアレッサンドロ・ペタッキ(ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)だった。かつては華麗なるスプリントトレインを用いたロングスプリントで大量勝利を上げてきたものだが(グランツール通算46勝)、この日は数人のアシストに助けられつつ、自力で絶好のポジション=カヴェンディッシュの後輪を取った。最終的には36歳の大ベテランが、25歳「現役最強」の背後から飛び出す形で勝負がついた。ペタッキにとっては、第1ステージの生き残り5人スプリント勝利に続いて早くも今大会2勝目。ちなみに2009年ジロでも、新進気鋭カヴェンディッシュの出鼻をくじく2連勝を上げている(1勝目はやはりカヴェンディッシュの背後から先手を打っての勝利)。
もちろんカヴェンディッシュ以外にも、メルクス以来の大物と噂の23歳エドヴァルド・ボアッソン・ハーゲン(スカイ・プロフェッショナルサイクリングチーム)も退けている。一方で35歳ジュリアン・ディーン(ガーミン・トランジションズ)や37歳ロビー・マキュアン(チーム・カチューシャ)がそれぞれ区間2位、4位に入るなど、ベテラン勢の奮闘が非常に目立つ1日でもあった。
●アレッサンドロ・ペタッキ(ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)
区間勝利
ハイレベルな戦いで勝つことができた。まだまだボクは年寄りなんかじゃないのさ。開幕から今日までにボクが成し遂げたことを考えれば、もう明日家に帰っても許されるような結果を出したよね。そう、ボクはこのツールでやるべきことを全てやった。ボクにとってはすでにツールは終わったようなものさ。この先もいい成績が出せたら、あとはご褒美だと思わなくちゃ。
確かに以前はボクのための強力なスプリントトレインを持っていたけれど、いまは違う。だから自分自身でうまくやらなきゃならない。そこでボクは、ゴール前にどのポジションに入ったらいいのか、どの選手の背後に滑り込むべきなのかを覚えた。たとえば今日はカヴェンディッシュの背後を取った。でもチームメイトの仕事を過小評価してはならないよ。チームは1日中ボクのために働いてくれた。最後の200mまでうまくボクを連れて行ってくれたんだから。
カヴェンディッシュがボクから学ぶべきことなんて何もないよ。去年のツールで6勝もしているんだから、すでに偉大なスプリンターなんだ。もはやほかの選手から学ぶ必要なんてないと思う。スプリントというのは毎回状況が違う。だから今日ボクが勝ったからといってボクが彼より強いという意味にはならないし、彼が弱いという意味にもならない。毎回、状況が違うものなんだ。たとえば今日は、彼が最後の200mでの加速を待っていることが分かった。だからボクは彼に先んじてスプリントを切ったんだ。
●ファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)
マイヨ・ジョーヌ
今日もゴール前はいつもどおり危険な箇所があった。しかもスプリントステージでは高速になるから、決して簡単ではないんだ。でもこの3日間と今日の違いは、今日は100%スプリンター向けステージだったこと。しかも風が少なく、プロトン内にピリピリした雰囲気はなかった。使ったエネルギーも少なかった。だからいつもよりも集中できたんだろうね。今日だって最終盤のカーブで1人ブレーキを掛け間違えば、みんなが巻き込まれる可能性もあったけれど、誰もがより集中していたんだと思う。
フランク・シュレクの落車リタイアはアンディにとっては辛いことだったはずだ。なにしろ兄を失ったんだからね。チーム全体にとっても難しいことだった。フランクは大切な選手の1人だったから。でも起こってしまったことは変えられない。リース監督が今朝のミーティングで『状況は変わったのだ。この状況でやり遂げなければならない。我々に選択肢はない』と告げた。確かにフランクの離脱で、チームの戦術は変わっていくだろう。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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