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午前中には少しだけ雨が降り、スタート地点は肌寒いほどだった。レースが始まってからも1時間半ほどは快適な気温が続いた。ところがレースが南下するにつれて、徐々に気温は上がり、雲間から太陽の光が差し込み始め……。プロトンがゴール地に駆け込む頃には、じっとしているだけでも汗が噴き出してくるような、そんな蒸し暑い午後となった。開催委員会の発表によるとスタート地点の気温は20度、110km地点は30度、ゴール地点は33度。路面温度は48度まで上がっていた。
だから序盤のフレッシュな気温を利用して、スタート直後にセバスティアン・ラング(オメガファルマ・ロット)、マチュー・ペルジェ(ケースデパーニュ)、そしてルーベン・ペレス(エウスカルテル・エウスカディ)の3選手があっさりと飛び出した。山岳ジャージを脅かす選手がいないことからジェローム・ピノー擁するクイックステップは特に動かず。また、今ステージは全長227.5km(今ツール最長)もあるのだから慌てて追いかけてもしょうがない……、とばかりに後方集団は淡々としたリズムで走り続けた。前方の3人は50km地点で8分差をつける。
この頃から気温は徐々に上がり、空気が重たく肌にまとわりつきはじめた。とたんにエスケープ選手たちの走行時速は40kmを下回り始め、後方とのタイム差がじわりじわりと縮んでいく。前ステージでマーク・カヴェンディッシュをついに勝利へと導いたチームHTC・コロンビアがプロトンの先頭で隊列を組み、2日連続の勝利を目指して集団制御に取り掛かり始める。全てが、3日連続の大集団スプリントへ向かいはじめた。ゴール前50kmでのタイム差は2分。そして残り25kmでついに残された時間は1分を切った。
集団スプリントの単純なシナリオを書き換えようと、ここで、ディミトリー・シャンピオン(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)が飛び出した。さらにアントニー・シャルトー(Bbox ブイグ テレコム)も続く。すでに200km近い逃げで足取りが重くなっていた先頭集団は、新たな協力者の登場で活気付いたが、それも長くは続かなかった。ラスト10kmでスプリンタートレインが猛威を振るうプロトンに飲み込まれていく。
トレインを組んだのはなにもスプリンターチームだけではない。総合優勝の最右翼アルベルト・コンタドールをリーダーに抱えるアスタナが、突如として隊列を組んで集団前方に出始めたのだ。「風が少しあったし、スピードも上がっていた。無為な落車を避けるために、できるだけ前に出るように指示したんだ。なにしろ明日から、いよいよ山が始まるからね」とイヴォン・サンケ監督。そしてこの突然の闖入者と入れ替わるように、ガーミン・トランジションズとランプレ・ファルネーゼヴィーニも突撃体制に入った。
特にフラム・ルージュ通過直後からガーミンが3人の俊足——リーダースプリンターのタイラー・ファラー、グランツール区間3勝のロバート・ハンター、そして以前はトル・フースホフト(サーベロテストチーム)のアシストを務めていたジュリアン・ディーン——がカーブを利用した特攻に出た。これが他チームの攻撃を完全に封じ込めたかに思われたが……、何者かが切り裂くように前線に現れた。同じくフースホフトのトレイン構成員だったチームHTC・コロンビアのマーク・レンショーだった。もちろん、レンショーの背後にはカヴェンディッシュが潜んでいた。2日前は200m、前日は250mで飛び出したカヴェンディッシュは、この日は150mで爆発的な力を解き放つと、プレッシャーや緊張感に縛られない「本来の力」を100%発揮して2日連続の集団スプリントを制した。この日はもはや感激の涙はなく、代わりに天使のような笑みが顔中に広がっていた。
作戦失敗のファラーは「まだ手首の状態が完全じゃないから、前線で勝負を争えただけでも満足なんだ」とのこと。マイヨ・ヴェールは区間10位と少々苦戦したが、区間3位のアレッサンドロ・ペタッキ(ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)と4ポイント差でジャージを守りきった。翌日からツールはいよいよ山岳地帯へと突入するため、山も上れるフースホフトにとってそれほど心配する必要はないのかもしれない。ゴール後にはカルロス・バレド(クイックステップ)とルイアルベルト・ファリアダコスタ(ケースデパーニュ)が文字通り殴り合いのけんかを繰り広げる場面も。2人にはそれぞれ400スイスフランの罰金が課された。同じ頃ロビー・マキュワンがTVカメラマンと衝突し、地面にノックアウト状態で倒れこんだ。幸いにも怪我はなかった。
またこの日3番目の中間スプリント地点直前(195.5km)で小さな集団落車が発生。新城幸也(Bbox ブイグ テレコム)も後ろから突っ込まれる形でバランスを崩し、一時プロトンから遅れたが、「特に問題なかったですよ」とのこと。またゴール前では第4・5ステージと連続で6位に入ったセバスティアン・テュルゴーの牽引役を命じられて……、3日連続の6位に導くことに成功した!「せっかくユキヤがいい仕事をしてくれたのに、また6位で申し訳ない。1つでも順位を上げたかった」とテュルゴーはゴール後に語った。新城自身は「今年は毎ステージ、あっさり序盤のアタックが決まってしまっている。でも明日からのアップダウンコースでは、もう少し動きが出てくるんじゃないかな。調子は悪くない」と、ツール第2週目に向けて意気込みを見せている。
●ファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)
マイヨ・ジョーヌ
明日でマイヨ・ジョーヌ通算21日目だよね。ツール全日程と同じ21日。でもボクはツールを勝ってないから、そこが違いだ。でも明日もまたマイヨ・ジョーヌで過ごせるんだから、誇らしい気分だよ。明日の夜もマイヨ・ジョーヌで過ごせたらもっとステキな気分なんだろう。でも、たとえそうじゃなくても悲しくなんかないだろうね。明日は最初の山岳ステージだから、コースがどう動くのか、何が起こるのか見ていこう。ボクらチームの戦術もあるし、他のチームがどう動くのかも警戒する必要がある。
●マーク・カヴェンディッシュ(チームHTC・コロンビア)
区間勝利
昨日の勝利でほっと安堵させられた。ゴール後にはおそらくそのせいで、押さえ切れない感情が湧き上がってきてしまったのだと思う。頭の中では色々な感情が渦巻いていた。安堵だとか喜び……色々な気持ちが混ざっていた。それにここはツール・ド・フランス。世界最大の自転車レースなんだ。信じられないような大会だからね。それに一番底まで下がりきった後の勝利というのは、本当に感動ひとしおなんだよ。
昨日のステージ前、絶対に勝利が欲しかった。だってツール開幕以来チームはボクのために完璧な仕事をし続けてきてくれたのに、ボクは彼らの仕事を完成させることができなかったんだから。確かにチームメイトはボクのために走ってくれているけれど、それはひとえにチームに勝利をもたらすためなんだ。ボクはチームの一部に過ぎない。それなのに序盤の数日はまったくボクがうまくやれなかった。勝てなかったのはボク自身がミスをしたり、脚がなかったりしただけなんだ……。だってチームメイトは完璧な仕事をし続けてくれたんだから。第4ステージで勝てなかった日の夜は本当に気分が滅入ってしまった。でも昨日勝つことができたし、今日も勝てた。これでチームメイトたちの尽力が、全て報われたね。
これからは難しい1週間が待っている。だからこれらの日々を耐えていかなければならない。だってスプリントの機会はないだろうからね。でもチームは問題なく走りきるために最善を尽くす。今まで7日が終わっただけで、あと14日間残っている。まだまだたくさんのステージが残っている。まだまだステージ勝利ができることを願っている。
最後にどうしても皆さんに言いたいんだけれど、チームメイトのマキシム・モンフォールに初めての子供が誕生したんだよ。おめでとうと言いたいね!本当にステキなニュースだよ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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