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2010年最初の「山岳ステージ」は、しかし「難関」山岳では決してなかった。だからこそ総合本命を抱えるビッグチームは揃って「様子見の日」「本番に向けての試運転の日」と考え、大げさなアクションを起こさなかった。一方、スタート前から、そして数日前から勝負を打つことを決めていた選手がいる。前者は山岳ポイント収集のために飛び出したジェローム・ピノー(クイックステップ)、そして後者は「リベンジ」を心に決めていたシルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)だ。すでにこの2人は第2ステージに一緒に飛び出し、ご褒美を分け合っている。あの日のシャヴァネルは区間勝利とマイヨ・ジョーヌを、ピノーは山岳ジャージを手に入れた。ただし翌日の石畳での落車とメカトラブル連発でイエロージャージは他人の手に渡り、山岳賞争いもわずか1ポイント差まで詰め寄られトップの座がぐらついてきた……。「攻撃は最大の防御なり。後方で逃げコントロールに励むよりも、どうせなら自分で飛び出してポイントを取りに行ったほうがずっと楽だと思ったんだ」と、ピノーはあっさりゼロkm地点で飛び出した。
ピノーの長旅には、クリスティアン・クネース(チーム・ミルラム)、サミュエル・デュムーラン(コフィディス・ル クレディ アン リーニュ)、ルーベン・ペレス(エウスカルテル・エウスカディ)、ダニロ・ホンド(ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)がついてきた。ピノーにとっては前日も逃げて山岳ポイントを4p保持していたペレスの存在は想定外だったかもしれないが、この問題も自分が山頂をトップ通過することで解決した。つまり今ステージで6つ登場した峠のうち、最後を除く5つの峠で先頭通過。可能な限り最大限の31ポイントを懐に入れ、赤玉ジャージの権利もきっちりと守りきった。また5つ目の登りで逃げライバルたちを振り切り、最終峠ではチームメイトのシャヴァネルと先を続けようと努力したが……残念ながらピノーには区間を狙う体力は残っていなかったようだ。代わりにシャヴァネルが、第2ステージ同様に区間勝利へと向かって単独で先を続けることになる。
「シャヴァネルは勝ちに値する素晴らしい走りを見せた。ボクらチームの仕事をうまく利用してね」とトマ・ヴォクレール(Bbox ブイグ テレコム)はゴール後に語った。まるでアタック合戦のないまま単純なスプリントゴールで終わったこの3日間に、Bbox ブイグ テレコムはフラストレーションを抱えていたようだ。エスケープ集団が50km地点で8分35秒差をつけたと知るや、プロトンの先頭に全員で集結。追走の指揮を取り始めた。しかも先頭牽引係に指名されたのは我らが新城幸也!「逃げに比べたら、これは体力的に辛い仕事ではない。でも今日は2人で先頭を任されたが、相棒とテンポが合わずに苦労した」とのちに語った、丸々2つの峠に渡って力強く引き続けた。おかげでタイム差も順調に縮まって行き、最後から2番目の峠に突入する頃には、前を走る5人を3分30分差にまで追い詰めていた。そして登りで満を持して、Bbox ブイグ テレコムはヴォクレールとシリル・ゴチエを前方へと送り出した。
2人のアタックに、次々と反応が起こった。まずはマチュー・ペルジェ(ケースデパーニュ)、続いて今ジロ山岳賞マシュー・ロイド(オメガファルマ・ロット)、そしてジロ元王者ダミアーノ・クネゴ(ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)。さらに遅れてシャヴァネルも追いついてきた。このシャヴァネルが下りで単独アタックをかけ、ピノーに追いつき、そして追い越していったのだった。
5日前の優勝記者会見で「第7ステージまでジャージを守りたい」と語っていたシャヴァネルは、ジャージを失った直後に「第7ステージで奪い返したい」と発言内容を訂正していた。まさしく有言実行。しかも、またしても単独ゴールだったため、もちろん、大会前から夢見ていたという「カンチェッラーラ風アピール」=家族からもらったメダルにキスする時間もたっぷりあった。フランス人選手が1大会で2勝するのは、2001年ローラン・ジャラベール以来9年ぶりの快挙。またファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)が今ステージだけで14分近いタイムを失ったため、再びシャヴァネルの元にマイヨ・ジョーヌが帰ってきた。
フランスチャンピオンジャージのヴォクレールは、結局シャヴァネルから1分40秒遅れの4位でゴール。また総合本命と呼ばれる選手たちは揃って1分47秒差でフィニッシュラインへとたどり着いた。難関山岳突入を前に、優勝候補の中ではカデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)が1分25秒差の総合2位でトップにつける。アンディ・シュレク(チーム サクソバンク)は1分55秒差の総合4位。ここ2年連続で独占してきた新人賞マイヨ・ブランも手に入れた。アスタナからはアレクサンドル・ヴィノクロフが2分17秒差、アルベルト・コンタドールが2分26秒差でそれぞれ6位と7位につける。ランス・アームストロング(チーム レディオシャック)は3分16秒差の14位。
きっちりチームのために働いた新城幸也を乗せた最終グルペットは、シャヴァネルから22分17秒後にスイス国境間際のクロスカントリースキー場へとたどり着いた。最後に1人遅れて走ってきたスタイン・ファンデンベルフ(チーム・カチューシャ)だけは制限タイムアウトとなり、1度目の休養日を待たずにツールを離れることとなった。ほうき車が山頂に到着してから約30分ほどすぎたころ、あたり一帯に雷鳴がとどろき渡った。すると土砂降りの雨、さらにはバケツの底をひっくり返したような大量の雹が空から落ちてきた。山の天気は変わりやすい。アルプスの空模様も少し心配だ。
●シルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)
区間勝利&マイヨ・ジョーヌ
マイヨ・ジョーヌをメカトラブルのせいでたった1日で失ったから、今日のアタックは少しリベンジみたいなものだったんだ。でも正直に言って、2勝目がこんなに早く訪れるとは思わなかった。スタート前にはたくさんの人に「マイヨ取り返しに行くんだろう?」と聞かれたけれど、本当に取り戻せるなんてね!信じられないような上昇気流に乗っている気がするよ。
フィニッシュラインではものすごい喜びを感じた。だからゴールラインでのジェスチャーは自然に出てきたんだよ。TVカメラには関係なく、まったくナチュラルな感情の表れだったんだ。特にあのメダルは、家族から贈られた本当に大切なもの。ボクは家族という伝統的な価値観に非常に愛着を感じている。ボクはいたってシンプルな人間なんだ。
この先何を狙えるか、正直まだ分からない。1日1日見ていくよ。とにかく今ツールはすごくフレッシュな体調で始めることができたから、自分をすごく強く感じているんだ。でもこの先、ボクが何を狙えるのかはまだ分からない。果たしてそれが山岳ジャージなのか、マイヨ・ジョーヌ保守なのか、最終的な総合順位なのか、それとも3度目の区間勝利なのか。でもとにかく、今の自分を強いと感じているよ。これがボクにとって10回目のツール出場なんだけど、10回目にして初めて、余計なことを考えずに自分の走りだけに集中できている。ノープレッシャーで走ることができている。
明日のステージは今日とはまるで違う。本物の山岳ステージだ。でも、もしもボクが良いコンディションを保っていられたら、前方でゴールすることも不可能ではない。すでにこれまで、何度も難関山岳で上位ゴールした経験があるからね。とにかく何も考えずに、全力を尽くすだけ。特に休養日前日のステージだから、全力を尽くすのは簡単なんだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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