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大会1回目の休養日明け、マイヨ・ジョーヌ争いの構図が突然、はっきりと浮かび上がってきた。アルベルト・コンタドール(アスタナ) vs. アンディ・シュレク(チーム サクソバンク)。ディフェンディングチャンピオンと昨総合2位の2人は、アルプスの難関マドレーヌ峠で飛び出すと、ライバルたちに圧倒的な優位性を見せ付けた。両者は他の有力選手たちに総合で2分以上の差をつけ、もはや滑り込む余地があるのは総合3位争いだけになってしまったかのようだ。
蒸し暑い1日だった。高原での休養日で癒えた体に、再び湿気を含んだ空気がのしかかってくる。それでも重苦しさを吹き飛ばすように、10km地点で11人が元気良く飛び出した。彼らの狙いは大きく分けて、1)マイヨ・ヴェール保守、2)マイヨ・ア・ポア保守、3)ステージ優勝の3つ。1つ目に関してはポイント賞トップのトル・フースホフト(サーベロテストチーム)が第1中間スプリントで先頭通過し、6ポイントを取得。ポイント賞2位のペタッキとの差を10pに開くことに成功すると、1級コロンビエールへの登りで静かにエスケープ集団から千切れていった。
2つ目の目標を掲げていたのは、第2ステージ終了後から赤玉ジャージを着ているジェローム・ピノー(クイックステップ)。第7ステージでもジャージ保守作業を行ったように、この日も朝から勇んでポイント収集に乗り込んだ。第1峠1位3p、第2峠2位13p、第3峠1位10p、第4峠1位15pと順調に点を稼ぎ、通算では85ポイントにまで達する。ところがうっかり超級マドレーヌへの登りで先頭集団から滑り落ちてしまったと思ったら、その超級をトップ通過したアントニー・シャルトー(Bbox ブイグ テレコム)に同点85ポイントに並ばれてしまった!ちなみにステージの最後に位置する2・1・超級カテゴリーのポイントは2倍される。そして上位2名が同点で並んだ場合には、よりカテゴリーの高い峠での通過順が決め手となる。……つまり今ツール初めて登場した超級峠をトップ通過したシャルトーのもとへと、あっけなく山岳ジャージは移動した。「本来の目標はステージ優勝だったから、複雑な気分だ。でもとにかく、明日以降はボクとピノーの壮絶なポイント争いが繰り広げられることになるんだろうね」と、シャルトーは語っている。
最初に飛び出した11人、さらに途中で追いついてきた2選手の全員が間違いなく大いなる目標に掲げていたのは、3番目のステージ優勝だろう。後続プロトンに最大5分半ほどつけた大エスケープ集団も、マドレーヌ峠の下りではシャルトー、サンディ・カザール(フランセーズ・デ・ジュー)、ダミアーノ・クネゴ(ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)、そしてルイス・レオン・サンチェス(ケースデパーニュ)の4人に絞り込まれていた。ところが「リレーに協力しない輩がいた」とカザールがゴール後に語ったように、最終盤のクネゴとLLサンチェスはあからさまな体力温存戦法を取りだした。後方ではアンディ・シュレクとコンタドールが、ぐんぐんと前方との距離を縮めていたというのに。
超級マドレーヌの登坂口に差し掛かると、後方プロトン内ではアスタナが急激な加速に転じていた。第8ステージ同様に山岳アシストたちが厳しいテンポを刻むと、あっという間にプロトンはバラバラに砕け散る。そしてダニエル・ナバーロ(アスタナ)の強烈な一撃を合図に、アンディvsコンタドールの直接対決が始まった。この日も果敢に攻め立てたのは、区間優勝ですっかり自信をつけたアンディ・シュレク。「コンタドールの調子は果たして本当に悪いのか」という全自転車ファンの疑問を確認するかのように、ディフェンディングチャンピオンの脚を幾度となく試しにかかる。ところが全グランツールを勝ち取ってきた王者は、淡々と、軽々と、アタックを潰していくだけ。つまりアンディ出る→コンタ張り付く→出る→張り付く……という繰り返しだ。
頂上決戦が勃発する少し前に、実は、マイヨ・ジョーヌ姿のカデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)が遅れ始めていた。ゴール終了後に発表された情報によると、エヴァンスは左ヒジの骨折を隠してステージを戦っていたとのこと。休養日前日の第8ステージ、スタートから6km地点の落車事故の影響である。2日前のマイヨ・ジョーヌ記者会見では「落車したとき、2008年のことを思い出して怖くなったよ」とエヴァンスは語っていた。そう、2008年ツールでも休養日前日に落車し、その同じ日にマイヨ・ジョーヌを獲得している。2年前は肩の痛みが長引き、5日間でイエロージャージを手放した。そして2010年は、マドレーヌ峠での戦いにまるでしがみついて行くことができなかった。しかもアンディvsコンタの対立関係がいつしか「後方ライバルからタイムを奪うこと」という共闘関係へと変わり……、苦しむエヴァンスはわずか1日で首位陥落を余儀なくされた。2002年ジロ、2010年ジロ、2009年ブエルタに続く一日天下。しかも、最後には総合2位の座を勝ち取った2008年ツールとは違い、2010年は表彰台からも突き落とされてしまったようだ。総合では7分47秒差の18位。アシストと肩を抱き合いながら大粒の涙を流したエヴァンスは、第10ステージからは再び世界チャンピオンジャージで走る。アルカンシェルの呪い……「ボクはこれまで十分に不運だったから、これ以上呪いなんてないさ」と笑っていたのは、わずか2日前のことだった。
「途中で先に逃げていたイェンス・フォイクト(チーム サクソバンク)が力を貸してくれた。おかげでタイム差が思うように開けたんだ。マドレーヌ突入前にはサクソバンクが強烈な引きをしてくれたから、早めのプロトン分断を起こすことができた。今日は互いの利益が一致したんだね。なによりアンディはマイヨ・ジョーヌ獲りのためにタイム差が必要だったからね」とアスタナのチームマネージャー、サンケ氏は語る。何度目かのアタックを終えたシュレクとコンタドールは、いつしか協力し合って一緒に先を急いでいた。もちろん下り巧者サムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)が追いついてきても「特に問題なし」とアスタナ側は考えていたが、おそらくサクソバンク側はスペイン連合を恐れたのかもしれない。昨ツールの上位2選手は、後ろから追いつかれるよりもむしろ、前を走っていた逃げの残党クリストフ・モロー(ケースデパーニュ)を捕まえた。さらにはゴール前800mで、先頭集団の4人へと追いついた。
2人の登場にカザールは「びっくり」させられたそうだが、幸いにも、総合を争う彼らはステージ優勝争いの邪魔はしなかった。むしろカザールが最も警戒していたのは、マドレーヌからの下りを不気味なほど静かに過ごした下り巧者、LLサンチェスの方だった。なにしろ2009年ツール第8ステージでも逃げていたカザールは、やはり下った先の小人数スプリントをLLサンチェスに奪い取られているのだ。しかしゴール地図を頭に叩き込んできたカザールは、最終1kmの各カーブを正しく対処した。最後のカーブではLLサンチェスと先頭争いを繰り広げたが、スプリンターだった父に常々教えられてきた「ゴール前200mの世界」を極めて冷静に潜り抜けて……自身2度目のツール区間勝利へとたどり着いた。
フィニッシュラインを超えたアンディ・シュレクには、生まれて初めてのマイヨ・ジョーヌが待っていた。コンタドールは41秒差で総合2位につけている。
●サンディ・カザール(フランセーズ・デ・ジュー)
区間勝利
ステージ狙いに切り替えたのは、ほんの数日前からなんだ。休日前までは総合上位の夢も捨てていなかったから。でもラマズ峠(第8ステージ)でタイムを大きく失って、そこでステージ狙いに切り替えた。ステージ狙いという視点で考えたとき、今日の第9ステージはボクの理想にぴったりだと思った。ある程度難しく、しかも山頂フィニッシュではないステージがいいと思っていたから。だから今日は何かしてやろうと最初から意気込んで、前夜のうちにゴールの地形をロードブックでしっかり確認しておいた。もちろん紙の上での計算と実際のレースとは少し違う。実際のレースのほうがたいていは難しいものなんだ。なにしろ最後の5kmは逃げ集団の中でリレーをしない選手がいたし、シュレクグループが追いついてきたからね。しかもその集団に誰が含まれているのかはっきりとは知らなかったから、先頭集団はとにかく先を急ぐ必要があったんだ。
●アンディ・シュレク(チーム サクソバンク)
マイヨ・ジョーヌ
今日のステージを見て、状況は明らかになった。コンタドールとボクが、今後は戦いの成り行きを決めていくだろう。去年との違いは、ボクが彼をリードしていること。今年の2人はレベルがほぼ拮抗している。もしもコンタドールがボクよりも上に行きたいならば、アタックすべきは彼なんだ。確かに2日前のコンタドールは調子がよくなかったが、今日の彼は元気だった。つまり彼には調子が上下するということ。願わくば彼の調子が下の日に、もっとタイム差を広げたいね。ピレネーでそういう日があるといいけど。
チームはモチベーション高く、ボクのために働いてくれた。確かに開幕からチームはずっと力を尽くし続けている。序盤はファビアン・カンチェッラーラのために、そして今はボクのために。でも今日でレース状況は大きく変わった。コンタドール以外は、2分以上タイムが開いている。つまりジャージを守るためのレースコントロールは、非常に楽になったはずだ。ボクにとっても楽になった。たった1人、コンタドールだけを警戒すればよいのだから。ほかの選手たちがピレネーで突然上に来るとは思えないよ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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