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1日の大部分はいわゆる「移動ステージ」と呼ばれる類の平凡で平和なステージだったが……、最終盤に猛烈なアクションが待ち受けていた。横風の危険(とそれを利用した分断作戦?)と、スプリント時のひと悶着。ラストはむすっとしたマーク・カヴェンディッシュ(チームHTC・コロンビア)の記者会見で幕を閉じた。
ここまでの2010年ツールは不思議なことに、エスケープのためのアタック合戦はほとんど起こらず、スタートと同時に飛び出しが決まる場合が多い。この日も至極あっさりと3人の集団が出来上がった。何の苦もなく前に抜け出したのはステファヌ・オジェ(コフィディス・ル クレディ アン リーニュ)、アントニー・ジェラン(フランセーズ・デ・ジュー)、ホセ アルベルト・ベニテス(フートン・セルヴェット)の3人。しかし常に背後にスプリンターチームの存在を感じながら走ることになる。50km地点で一旦5分のタイム差をつけたものの、その後は延々と2分程度の差で遠隔操作され続けたのだった。
南仏の暑く乾いた大地を逃げ続けた3人は、ゴール前30kmほどで「予定通りに」吸収されていく。ベニテスだけが少し抵抗を見せたが、区間勝利とマイヨ・ヴェールの2大目標を掲げたスプリンターたちの加速には到底敵わなかった。
ところが、チームHTC・コロンビアを筆頭とするスプリンタートレインに、隊列を組んだチーム サクソバンクが突然割り込んできた。マイヨ・ジョーヌのアンディ・シュレクを擁する同チームは、ファビアン・カンチェッラーラやイェンス・フォイクトというプロトン屈指のルーラーを使って前方で強烈な牽きを開始する。「単に横風の犠牲になりたくなかったから」とアンディ・シュレクはさらりと語ったが、おかげでアルベルト・コンタドール(アスタナ)のアシストたちは何人も後方へと追いやられた。幸いにも横風ゾーンにめっぽう強いアレクサンドル・ヴィノクロフがコンタドールを上手く導き、そのうちに嵐も収まった。「結局何も起こらなかったけれど、緊張感が漂ったね」とコンタドール。ちなみにアスタナの「山岳向き」アシストは最終的に5人も千切れたが、強烈な引きを行ったサクソバンクからも力を使い果たしたアシスト6人が遅れてゴールしている。
ラストは再びスプリンターたちが実権を取り戻し、秩序あるゴールスプリントへと向かっていく。チームHTC・コロンビア、ランプレ・ファルネーゼヴィーニ、ガーミン・トランジションズ、そしてマイヨ・ヴェールのトル・フースホフトを抱えるサーベロテストチームが、それぞれのリーダーを好ポジションへ導こうとあらゆる努力を重ねた。しかし、この日は「やり過ぎた」選手も出てきてしまった。
ゴール前約400m、カヴェンディッシュの最終アシスト、マーク・レンショーが、タイラー・ファラー(ガーミン・トランジションズ)の最終アシスト、ジュリアン・ディーンに3発の頭突きを喰らわした。以前はフースホフトのために働いていた2人の間に果たして何が起こったのだろうか? レンショーの言い分は次の通り。「ディーンがボクのポジションにヒジを使って強引に入ってきた。だから頭を使ってバランスを保つ必要があった。さもなきゃ落車していた」。一方のディーンは「ボクがレンショーを追い越したことが面白くなかったんだろうね。ボクは何もしていない。ただ彼がボクのほうに近づいてきて、頭突きを食らわしたんだ」と語っている。
最終的にスプリント勝利をさらったのはレンショーがサポートするカヴェンディッシュだったが……レース後、レンショーに200スイスフラン(約1万7千円)の罰金とレース除外処分が審判団から言い渡された。ディーン側のリーダーは3位に終わり、ディーンには全くお咎めはなかった。
また区間2位に入ったアレッサンドロ・ペタッキ(ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)が、区間7位フースホフトから10日ぶりに緑ジャージを取りかえした。そしてフースホフトよりも1つ上の順位に滑り込んだのが、我らが新城幸也(Bbox ブイグ テレコム)だった!本来ならばセバスティアン・テュルゴーのためにスプリントを準備する役割をおおせつかっていた。「でもテュルゴーが一緒に来られなかったから、自分で行きました!」と新城本人が勝負に出た。「ペタッキの背後に入ろうと思ったけれど入れなかった。向かい風できつかった。体の大きい選手たちは向かい風なんて関係ないみたいでしたけど」と新城は続ける。チームメイトのテュルゴーも6位を3つ並べており、なんだか今ツールでのブイグのスプリントは6位と決まっているのだろうか!?
第12ステージにはマンドでの、短いが、とんでもない急坂が総合本命たちを待ち受けている。2010年パリ〜ニースでこの峠を制したコンタドールはこう語っていた。「この急坂は、2007年パリ〜ニースでも勝ち取った思い出の場所。ボクがチャンピオンにふさわしいと自転車界全体に認められた土地なんだ。そして同年のツールでマイヨ・ジョーヌを勝ち取った」。もちろん春先の小さなステージレースと、ツール・ド・フランスは違う。そのことはコンタドールも、ライバルのアンディ・シュレクも重々承知している。
●マーク・カヴェンディッシュ(チームHTC・コロンビア)
区間勝利
チームが素晴らしい仕事を成し遂げてくれた。勝利をつかむことは嬉しい。しかしレンショーのレース除外処分は非常に悲しい。レース審判の事実解釈と、我々の事実解釈は違う。決定に「反対」と言っているのではなくて、ボクらの考えは「違う」と言っているのだ。とにかくレース審判が決めたことには従わなくてはならない。たとえ我々の意に沿わなくともね。
●アンディ・シュレク(チーム サクソバンク)
マイヨ・ジョーヌ
今日は静かな1日だった。プロトン内の選手たちとゆっくり話す機会があったよ。普段はライバルの選手たちも、こんな日には友達みたいに色々と話す。コンタドールとも話したよ。ボクはコンタドールのことが好きなんだ。去年秋にはホリデーを一緒に過ごしたから、その時の思い出なんかを語り合った。アームストロングとも話をしたけれど、レース中にリヴストロングをくれたんだ!それも無料で!リヴストロングとマイヨ・ジョーヌはぴったり合うね。
ステージ最終盤にチームが前に行ったけれど、あれは単に横風の犠牲にならないよう、安全にステージを終えられるように、という目的のためだった。ゴール間際ではスチュワート・オグレイディのような経験豊かな選手が側にいてくれたから、ほんとうに安心して走ることができたよ。
明日のマンドへの上りが待ち構えている。厳しいステージになるだろう。暑さのせいで一段と厳しさが増すかもしれないね。最後の上りは再びセレクションの場となるはずだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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