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1995年の革命記念日にこの地を制したローラン・ジャラベールを記念して“モンテ・ジャラベール”と名づけられた激坂を、アルベルト・コンタドール(アスタナ)はすっかり飼いならしてしまったようだ。2007年・2010年パリ〜ニースでは爆発的な加速力で勝利を射止めたが、2010年ツールでは総合争いに大切な“10秒”を手に入れるとともに、改めて自らの優位性を見せ付けた。
短いが飛び切り急なこの峠道に自らの名前を刻もうと、スタートから数々のアタックが舞い起こった。実力派選手がイニシアチヴを取るミニエスケープが出来ては、すぐさま猛スピードのプロトンが潰しにかかる。ようやく本格的な逃げ集団が出来上がったのは、56km地点、1つ目の3級峠を過ぎた後だった。
ツール総合2位経験者アンドレアス・クレーデン(チーム レディオシャック)と元ブエルタ覇者アレクサンドル・ヴィノクロフ(アスタナ)が滑り込んだ18人のエスケープには、緑と赤玉、2つのジャージを巡る戦いも含まれていた。8日間守ったマイヨ・ヴェールを前日4p差で失ったトル・フースホフト(サーベロテストチーム)と、マイヨ・ア・ポア・ルージュの着用期間はわずか1日ながらわずか2p差で首位を追うアントニー・シャルトー(Bbox ブイグ テレコム)が、それぞれのジャージ奪還に燃えていたのだ。
「去年もこのやり方でマイヨ・ヴェールを取ったから、今年も繰り返したんだ」。昨ツールでも山岳ステージでの大逃げでポイント賞首位固めを行ったフースホフトは、この日もアップダウンに決してめげることはなかった。1つ目の中間ポイントで2位4p、2つ目で1位6pを獲得すると、この時点でマイヨ・ヴェールランキング首位に返り咲いた。この先の最大のライバルは「小さな峠なら上手く越えられるアレッサンドロ・ペタッキ(ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)」とのこと。フースホフトとペタッキとのポイント差はわずか6。
シャルトーは第9ステージの大逃げで山岳ジャージをジェローム・ピノー(クイックステップ)から横取りしたものの、第10ステージにすぐに奪い取られてしまっていた。だからこそ再びの大逃げでポイント収集に挑戦した。最終峠ではさすがにポイントを取ることはできなかったが、この日だけで計17pを懐に入れて、念願の赤玉ジャージを取り戻した。ちなみにライバルのピノーはステージ序盤で落車し、アタックに反応できなかったそうだが……。「ジェロームのことは残念だったね。でも幸いケガなどはなかったみたいだから、この先も2人の戦いは続きそうだよ!」とシャルトーは激戦を喜んで待ち受ける。
ジャージ向け作業がつつがなく終わった後は、いよいよ強豪たちの時間がやってきた。前方ではクレーデンとヴィノクロフ、ヴァシル・キリエンカ(ケースデパーニュ)、ライダー・へシュダル(ガーミン・トランジションズ)が残り50km地点でさらなる加速をしかける。後方ではマイヨ・ジョーヌのアンディ・シュレク(チーム サクソバンク)が強烈なテンポを刻み、前の4人との差を縮めにかかる。なにしろ前ステージ終了時点で総合12位ヘシュダル、14位ヴィノクロフ、20位クレーデンを逃しきってしまうと、後々厄介なライバルになるかもしれないのだ。そしてマンドの中心街から、文字通り突然始まるモンテ・ジャラベールの入り口で、4人のリードはわずか45秒ほどしか残っていなかった。
本来はクロワ・ヌーヴ(新十字架)峠と呼ばれる最終峠は、ジャラベールの山であり、コンタドールが得意とする山であるが、また、ヴィノクロフがかつて勝ち取った記憶を持つ山である。1999年のグランプリ・デュ・ミディ・リーブル(ランス・アームストロングが制したことがあり、現在は消滅したステージレース)の最終ステージで、当時25歳のヴィノクロフはこの激坂を制している。36歳の今年も一緒に逃げ続けたライバルたちを上りで1人ずつ切り捨てると、山頂へ単独で向かい始めた。もちろん自身のステージ優勝のために、さらには「本来の目標は、もしもの場合に備えて大人数の逃げに乗ることだった。つまり最終盤でコンタドールをアシストするために」。その、もしもの場合が実際に発生した。
激坂開始と共にメイン集団はあっという間に15人ほどに絞り込まれていた。そしてゴール前2.5kmでホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)がアタックを仕掛ける。するとコンタドールもメイン集団から弾けるように飛び出したのだ!しかもマイヨ・ジョーヌのアンディ・シュレクは一瞬追いかける姿勢を見せながらも、次第に昨ツール王者に距離を開けられていく。つまりコンタドールにとっては、アンディ・シュレクとの総合41秒差を少しでも縮める絶好のチャンス。ロドリゲスと共に走り始めたコンタドールは、すぐさまヴィノクロフの地点までたどり着いた。……ところが残念なことに、ヴィノクロフには、イェンス・フォイクト(チーム サクソバンク)が第9ステージに見せたような強烈な牽引をする体力は残っていなかったようだ。それどころかロドリゲスのリズムにあっさり置いていかれてしまい、区間勝利に向けて自らのカードを切ることさえできなかった。「3人でゴールまで行くことさえできていれば……。カウンターアタックを仕掛けたのにね」こう淡々と語るのはヴィノ。
幸いにもコンタドール本人が冷静に仕事を成し遂げた。ハイスピードで走り続けてくれた(=コンタドールにとっては後続とのタイム差を開くのに好都合だった)ロドリゲスに区間勝利の華を持たせると——もちろん両者共に「勝ちを譲った?譲られた?」という質問にはノーと答えている——、自身はアンディ・シュレクよりも10秒先んじてフィニッシュラインへと飛び込んだ。「最小限のタイム差しかとれなかったけどね。でも、非常に大切なタイム差でもある」。しかも総合では31秒差に迫ったため、この先はタイムトライアルのことを見据えて「守備的」な走りをしていくことも可能だ、と語っている。総合首位に立って以来、アンディ・シュレクは「攻撃を仕掛けるべきは遅れを喫しているコンタドール」と繰り返しアピールしてきたが、今のコンタドールにしてみれば「攻撃を仕掛けるべきはTTに弱いシュレク」と言うことか。わずか10秒の違いが、コンタドールに精神的な余裕を与えている。
31歳でツールデビューを果たしたロドリゲスにとっては、当然、初めてのツール区間勝利。ティレノ〜アドリアティコの名物モンテルポーネを2度制し、今年はユイの壁でおなじみラ・フレーシュ・ワロンヌでは2位に入った激坂キラーに、またひとつ激坂タイトルが増えたことになる。また総合でも9位から4分58秒差の8位へと、ひとつステップを上がった。代わりにルイス・レオン・サンチェス(ケースデパーニュ)が総合8位→9位へと落ちた。またリクイガス・ドイモのリーダー2人が総合10位と11位の座を仲良く入れ替えた以外は、総合トップ10圏の顔ぶれに変動は見られなかった。
激坂に残る熱を冷ますように、表彰式直後には激しい通り雨が降り注いだ。おかげで気温は急激に下がり、酷暑続きで疲れた選手たちの体も、ほんの少しだけ癒されるかもしれない。ヒートアップした2010年ツールの総合争いは、ピレネー突入を目の前に1日お休みとなりそうだ。
●ホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)
区間優勝
今ツールの目標は区間勝利と総合上位入賞だった。これで区間勝利を達成できたし、総合でもタイムを稼ぐことができた。これからも総合上位を目指して走っていきたい。コンタドールとは仲が良いんだ。キャリア序盤にはオンセで一緒に走っていたから、当然だね。今日のコンタドールはすごくいい走りを見せた。一方でアンディ・シュレクはここまでのステージでかなり力を費やしてしまったから、この先はコンタドールが優勝争いで有利に立ち回れると思う。でもボクにとってはこれが初めてのツール出場で、ツールの経験というものがないから、この先どうなっていくのか実のところは良く分からない。とにかく暑さが総合争いに大きな影響力を持つだろう。エヴァンス、サストレ、ウィギンスなどの大選手たちも侮ってはならない。
●アンディ・シュレク(チーム サクソバンク)
マイヨ・ジョーヌ
今日は難しい1日だった。苦しかった。実は調子が悪かったんだ。それにマンドの上りは好きじゃないし……。短くて急坂。ボク向きの上りではないんだよね。でもチームがすごくいい仕事をしてくれて、最終的にはたった10秒しか失わずにすんだ。それにタイムはピレネーで取り戻せると思ったから、自分のリズムで上った。コンタドールについていけなかったことは、ボクにとっては特に驚きではなかった。今朝リース監督から言われていた。「彼はアタックをかけてくるだろう。パンチ力のある選手だからな。でも心配するな」と。だから調子が悪かったのに10秒しか失わずに済んだなんて、逆に良いニュースというわけなんだ。
調子のピークはピレネーにあわせたい。ピレネーは今日とはまるで違った展開になるだろう。マンドではたくさんの選手が上りに残っていたけれど、ピレネーではボクとコンタドール、2人の一騎打ちになるだろう。彼は非常にナーバスになっているはずだし、ボクもナーバスだ。だって2人ともタイム差をつけたいと望んでいるからだ。ピレネー4ステージの中では、1番最初、土曜日のステージが一番厳しい。でもボクには戦いを迎える準備はできている。
今朝はプレッシャーを感じていた。でもチームはすごくよい仕事をしてくれた。脱帽だね。今日もマイヨ・ジョーヌの表彰式に臨むことができて、すごく誇らしいよ。そして今日がマイヨを着る最後の日じゃないんだ、こう確信しているよ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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