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激しいマイヨ・ジョーヌ争いが繰り広げられたピレネー山脈ははるか後ろへと遠ざかり、山岳ジャージもすでに持ち主が確定した。新人賞はもはや争うまでもなく……。そして久しぶりの平地の到来に、キング・オブ・スプリンターの称号をめぐる熾烈な戦いが繰り広げられた。
それにしてもマイヨ・ヴェール争いは、終盤ギリギリまで接戦が続くことが多い。極端なときは最終日まで戦いがもつれ込むことも。近年最も激しかった戦いと言えば2003年大会のバーデン・クック(チーム サクソバンク)とロビー・マキュアン(チーム・カチューシャ)だろう。マキュアンの2ポイントリードで最終日を迎えた両者は、2つの中間スプリントをそれぞれ1つずつトップ通過して互いに譲らず。シャンゼリゼゴールではヒジをぶつけ合うような激しいスプリントを行った結果、区間2位クックが3位マキュアンをわずか2p差で逆転。緑色の栄光に輝いている。
もちろんグランツール終盤のフラットステージでは、疲弊しきったプロトンの隙を突いた大逃げ勝利を狙う者たちも存在する。スタートから11km地点でマッティ・ブレシェル(チーム サクソバンク)、ダニエル・オス(リクイガス・ドイモ)、ジェローム・ピノー(クイックステップ)、ブノワ・ヴォグルナール(フランセーズ・デ・ジュー)が飛び出すと、追い風に乗ってハイスピードな逃げを始めた。40km地点でつけたタイム差は3分半。
ところが、これ以上の勝手は後続プロトンが許さなかった。逃げの4人は80km地点過ぎまでは同じような距離感をなんとか保ち続けたものの、その後はじわり、じわりと追い詰められていく。背後からのプレッシャーに耐え切れずオスが再アタックを見せたものの、スピードの上がりきった170人の集団にたった1人で立ち向かうことなど不可能だった。ブレシェルら3選手は残り13kmで、そしてオスはラスト4kmでスプリンタートレインに飲み込まれていった。
ステージ中盤からメイン集団の前線で積極的な牽引を見せたのは、ランプレ・ファルネーゼヴィーニだった。チームのスプリントリーダー、アレッサンドロ・ペタッキは、すでに今大会5日間マイヨ・ヴェールを着用している。ただし第1ステージ後に1日、第11ステージ後に1日、第13ステージ後から3日……と獲っては奪われるの繰り返し。ご存知の通り、ジロとブエルタですでにポイント賞を獲得した経験を持つ大ベテランは、今までのところトル・フースホフト(サーベロテストチーム)と交互にジャージを回しあっている状態である。
またチームHTC・コロンビアも隊列で集団をコントロール。大逃げや中間ポイントでコツコツとポイントを貯めていくフースホフトのやり方とは正反対の、まさにステージ勝利至上主義者(そして、そこにジャージがついてくるべきだと考える)マーク・カヴェンディッシュのために、強烈なルーラー軍団がテンポを刻む。そう、カヴェンディッシュの周りには元TT世界チャンピオンのベアト・グラブシュとマイケル・ロジャース、今季だけでTT3勝のトニー・マルティン、さらに昨季TTナショナルチャンピオンのマキシム・モンフォールという、「ラスト1kmまで」は完璧な仕事を成し遂げられる顔ぶれが揃っている。ただしフラムルージュからラスト200mまで引っ張るリードアウト役を、今大会のカヴは2人すでに失っている。アダム・ハンセンとマーク・レンショー。特に第11ステージの頭突き3回でレース除外宣告を受けたレンショーの不在は大きいはずだ。「不在による穴が大きすぎる。だから逆に穴を埋めないことに決めた。カヴェンディッシュには自力で誰かの背後に入り込んでもらう」とアルダグ監督はレンショー除外後に語っていたが、この日のカヴェンディッシュは上手にペタッキの背後に滑り込んだ。
第4ステージのペタッキは「カヴェンディッシュは200mで飛び出す」と先読みして、自らは230mほどで加速。見事な勝利を手に入れている。続く翌第5ステージでは、逆にカヴェンディッシュがペタッキの裏をかいて250mからのスプリントを制した。そして今第18ステージは、もっと長い275m!
「ペタッキがあの距離で仕掛けてきたのは驚いた」とカヴェンディッシュはゴール後に語ったが、どん底からしっかりと這い上がってきた人間は強かった。いや、強すぎた。あっという間に後方の塊を置き去りにすると、フィニッシュラインではゆっくりと後ろを振り向いてライバルたちの位置取りを確認する余裕さえあった。「だってボクはスプリント中はラインしか見ていないから、後ろがどうなっているか分からなかったんだもの!」。調子の上がらないまま突入したツールで、嬉し涙を流したと思ったら、あっという間に大会4勝目。もちろんスプリンター向けステージはあと1日しか残っていないため、どうがんばっても昨季の6勝には追いつかない。ただし大会5勝目、ツール通算15勝目を最終日シャンゼリゼでさらい取る可能性は十分にある。
ならばカヴェンディッシュがマイヨ・ヴェールを獲得する可能性もあるのだろうか?計算上ではもちろんYes。この日は区間3位で26ポイントを懐に入れたペタッキが、総計213ポイントで再びポイント賞ジャージを取り戻した。「もはや前のようにスプリントが出来なくなった」と数日前から漏らしているフースホフトは、10ポイント差で2位に陥落。「ジャージ争いはこれで終わり」と戦いの終結宣言をした(チーム上層部は「日曜日も最後まであきらめない」と正反対のコメントを出しているが)。カヴェンディッシュは16ポイント差で3位につける。たとえば上位3名がタイムトライアルでポイントを一切獲得せず、さらに最終日にカヴが中間ポイントを2つ(6p×2)制し、一方でライバル2人がが中間Pを一切取れなかった場合、カヴェンディッシュのステージ優勝(35p)=マイヨ・ヴェールとなる。また上記3人が中間スプリントで一切のポイントを取らなかったとき、カヴがシャンゼリゼを制してもフースホフトが2位に入らない限りは、ペタッキが8位以上で生まれて初めてのツールポイント賞を得る。幾通りもの条件が考えられるが、1つ中間スプリントを終えるたびに情勢はクリアになっていくはずだ。ちなみにペタッキ以外の2人は、シャンゼリゼでの区間勝利を味わった経験あり。
マイヨ・ジョーヌのアルベルト・コンタドール(アスタナ)と8秒差でライバルを追うアンディ・シュレク(チーム サクソバンク)は集団内で静かな1日を終えた。翌日には52kmの全力疾走が2人を待ち受ける。地球上の全ての自転車ファンが、かつてないほどの接戦の行方を見守っている。
●マーク・カヴェンディッシュ(チームHTC・コロンビア)
区間勝利
最初はペタッキの背後に入った。するとゴールまで275mでペタッキが加速を切ったから、すごく驚かされたよ。でも彼は左側へと前進した。左側から風が吹いてきていたのにね。対するボクは右側へ行ったから、つまり彼の進路取りのおかげでボクの仕事はよりイージーなものとなったんだ。
バイク1台分の差で勝ったとか、もしくは半台差だとか僅差だとか、そんなものよりもスプリントにおいては勝つことが一番大切なんだ。ツールと言うのは本当にハイレベルな大会だから、大切なのは勝つこと。スプリントでどれだけ差をつけたかということは重要なことではない。ただし今日は体力を出来る限り使いたくなかったから、イージーに勝てたのはありがたかったね。だって明日は厳しい1日となるだろうからね。たった1人で50kmを走らなければならないんだ。簡単なことではないからね。
レンショーのいないスプリントは難しいよ。彼はチーム内において最も重要な仕事をしてくれる。最終200mまでボクを導いて、ボクはただ飛び出せばいいといったお膳立てをしてくれる。でも他のチームメイトも最終1kmでボクをよりよいポジションまで引き上げるようにいい仕事をしてくれるんだ。確かにレンショーはホテルのルームメイトでもあるから、互いに笑いあったり励ましあったりできる大切な存在だ。今日の勝利は彼のための勝利でもあるよ。
ジャージ争いには関係なく、シャンゼリゼではスプリントを勝ちたい。その結果によって、自然とジャージ争いにも決着がつくだろう。でもシャンゼリゼでは全ての選手がトライしてくる。簡単ではないだろうね。
●アルベルト・コンタドール(アスタナ)
マイヨ・ジョーヌ
もちろんタイムトライアルではアンディ(・シュレク)よりも速いタイムでゴールしたいと考えている。ボクらは前後して走るから、天候などのコンディションはほぼ同じはず。つまり普通に考えれば、ボクにとって有利となるはずだ。
おそらく明日は信じられないほど難しい1日となるだろう。明日のTTは普通のTTとは状況が違う。3週間も激しい戦いを繰り広げてきた後の、最後の戦いなんだ。だから肉体的なパワーがどれだけ残っているかが鍵となる。そして現時点のアンディはすごく強さを見せているから、簡単に倒せるとは思っていない。それに国内選手権でタイムトライアルチャンピオンに輝いているから、自信もあるだろう。ボクは汗をかいて、全力を尽くさなければならない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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