人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2010年7月26日

【ツール・ド・フランス2010】第20ステージ(最終st.) レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

蒸し暑い曇り空の下、パリ・シャンゼリゼ大通りに、青空と太陽を思わせるアスタナの隊列が先頭で滑り込んできた。水色のトレインに大切に守られているのは、もちろん、マイヨ・ジョーヌ姿のアルベルト・コンタドール(アスタナ)。ちょうど1年前も同じ黄色いジャージを身にまとい、世界で一番美しいと評判の大通りへと凱旋を果たしているコンタドールだが、チームメイト8人の顔ぶれは全て変わっている。そして昨大会コンタドールとチームメイトながら壮絶な心理戦を繰り広げたランス・アームストロング(チーム レディオシャック)は、静かに人生最後のシャンゼリゼ周回コースを走り始めた。

ただし、スタート地のアームストロングは、あわや失格か!?という苦境に立たされていた。なにしろレディオシャックの選手たち全員が、通常のレッド&グレーではなく、黒いスペシャルジャージで姿を現したのだ。背中にはまるで背番号のように“28”という数字——世界中のがん闘病者2800万人を意味する——が記されていた。ジャージ変更には事前にUCI国際自転車競技連合の許可を得ておく必要があるのというのに、レディオシャックは何の申請もなく突然姿を現してしまった。……未登録ジャージを着てマリオ・チポッリーニが罰金をくらったのは有名な話だが、チーム全体となると話は別。UCIは本来のジャージ着用、さもなくばチーム丸ごとレース除外を勧告し、アームストロングは正式な0km地点でジャージの着替えを余儀なくされた。さすがにレーサーパンツまでは変えることが出来ず、レディオシャックには罰金4500スイスフラン(約37万5千円)+各選手に200スイスフラン(約1万7千円)が課された。「でもジャージの着替えが逆にカメラをひきつけたかもね」とアームストロングはメディア的なインパクトを与えたことに満足しているようだ。しかもチーム総合首位の表彰式では、この黒いジャージ姿でシャンゼリゼの高台に登っている。

ジャージ騒動が解決した後は、平和な最終日の風景が戻ってきた。全長3642kmの過酷な戦いの最後の102.5kmは、選手たちも少しだけリラックスして楽しんだ。3週間前にロッテルダムから長い旅を始めた197選手のうち、フランスの首都にたどり着くことができた170人だけに許される特権のような時間。おなじみのシャンパンタイムに写真撮影、2年連続でツール完走を果たした新城幸也もチームメイトと最後のひと時を楽しんだ。さらにわずか39秒差で総合2位につけるアンディ・シュレク(チーム サクソバンク)がコンタドールとふざけあってアタックごっこを見せたことさえ!最終日の本気の総合アタックだって決して禁じられてはいないのだが……、マイヨ・ジョーヌを巡る一騎打ちは、両者の中では前日の個人タイムトライアルゴール時に完全なる終わりを迎えていた。

一方でスプリンターたちによるマイヨ・ヴェール争いは、今年もシャンゼリゼまでもつれ込んでいた。第1中間スプリントポイント直前にアレクサンドル・クチンスキー(リクイガス・ドイモ)が加速したことがきっかけで飛び出し合戦が始まると、11人の集団が出来上がる。当初はのんびり走っていた後方集団から24秒差をつけたが、周回を増すごとにスプリントトレインの形が出来上がり、それにつれてプロトンはスピードを上げていく。トレインの主導権争いを奪い合ったのはポイント賞トップを走るアレッサンドロ・ペタッキ率いるランプレ・ファルネーゼヴィーニ、10p差の2位トル・フースホフトのサーベロテストチーム、16p差の3位マーク・カヴェンディッシュのチームHTC・コロンビア。さらにスカイ・プロフェッショナルサイクリングチームやガーミン・トランジションズも前に出た。

コンコルド広場から凱旋門に向かって、シャンゼリゼ大通りはわずかながら上り坂になっている。実際に自転車で走ってみると、荒れた石畳の衝撃とあいまって想像以上に厳しい。そしてこの難所を2006年に攻略しているフースホフトが、真っ先にスプリントに乗り出した。ジロ最終ミラノとブエルタ最終マドリードを制したことのあるペタッキも、まだ見ぬパリ勝利へと加速を切った。しかしゴール前200mから驚異的な伸びを見せ、圧倒的な大差をつけてフィニッシュラインに先頭で飛び込んだのは、昨年と同じ、カヴェンディッシュだった。昨大会よりは1つ勝利数は減ったものの、今大会5勝目。わずか4回目の出場で早くもツール通算15勝目を記録した。ちなみに初出場時の2007年は勝利のないまま第8ステージでリタイアしており、2008年は第14ステージまでしか走っていないことを考えると、ツールでのカヴェンディッシュは約4.27日に1回も勝っていることに。この勢いがあれば、エディ・メルクスのツール史上最多勝利記録(区間34勝)でさえ、あと4大会もあれば塗り替えてしまうのかもしれない。大会開始時は絶不調だったカヴェンディッシュは、こうして再び“現役最強スプリンター”のタイトルを背負って大会を去る。また区間2位のペタッキが11p差まで追い上げてきたカヴェンディッシュを退け、生まれて初めてマイヨ・ヴェールを獲得。36歳の大ベテランは3大ツール全てでキング・オブ・スプリンターに輝いたことになる。

3大ツール全てで総合優勝を果たした現役唯一の自転車選手、アルベルト・コンタドールが2年連続3回目のマイヨ・ジョーヌ表彰式に臨んだ。全97大会で56人のチャンピオンを生み出してきたツールにおいて、3度以上の優勝を成し遂げた大選手はコンタドール以前には8人しか存在しない。「3勝すれば偉大なる選手の仲間入り」と地元フランスで言われているように、“エル・ピストレロ”はまたひとつ階段を上がった。その先には“5勝クラブ”(アンクティル、メルクス、イノー、インドゥライン)、そしてツール史に燦然と輝くアームストロングの7勝への挑戦が待っている。

もちろん、1年後はアンディ・シュレクがさらに強くなって戻ってくるだろう。来年6月で26歳になるシュレクには、もはや新人賞マイヨ・ブランというオプションはない。ただマイヨ・ジョーヌのためだけに、コンタドールとのバトルを繰り広げることになる。「来年?遠い話だよ!まだ1年もある」とコンタドールは笑い飛ばしたが、アンディは「コンタドールは無敵ではない。ボクは彼を倒すために来年またやってくる」と力強く断言している。たくさんの強豪選手も、2人の間に割って入るために力を上げてくるだろう。2010年ツール・ド・フランスは幕を閉じたばかりだが、すでに来年の7月が待ちきれない。Vivement juillet prochain!


●マーク・カヴェンディッシュ(チームHTC・コロンビア)
区間勝利

大会序盤のスプリントを2回失敗した。まるで良い大会スタートが切れずに、どうやったら抜け出せるのかと心配していた。でもチームが信じられないほどボクのために力を尽くしてくれたし、ボクを信じ続けてくれた。だからボクは彼らの仕事に報いるために努力した。そして大会が進むにつれて調子がドンドン上がっていったんだ。ここパリでものすごい勝利を手に入れられたなんて、大会を締めくくるのには最高のやり方だったね!アイゼルがトンネルのところまで連れて行ってくれて、マルティンが望みどおりのところでボクを解き放ってくれた。ツール後はクリテリウムなどには出場せず、1週間ゆっくり休養を取るつもり。それから世界選手権への準備のためにブエルタに出場する。


●新城幸也(Bbox ブイグテレコム)

グランツール3回目、ツール2回目と言うこともあって、今年は余裕を持ってレースに挑むことが出来ました。レースの中でも外でも、去年のツールの経験を生かして上手に過ごすことができました。チームの活躍は嬉しいです。パリの表彰台とはわずかなチームしか上がることができないものなのに、その中でBboxが上がれたんです。しかもステージは去年と同様2勝。みんな「いいツールだった」と締めくくっています。逃げに乗れなかったのは残念です。でも逃げないなりにも山岳賞を守るための動きだとか、スプリントに去年よりも重点を置いたりとか、各ステージごとに目標があった。逃げに乗らずに単なるステージ完走で終わり、というわけではなく、常に役割や仕事があった。毎日が充実していた。

(今後の予定は)ブエルタですかね!?ボクの感覚では今現在そんなに疲れていないですし、ツールも気持ちよく終われたので、走れる気はしています。でもレース日数が多すぎると言われるかもしれないですね。監督と相談して決めます。個人的な目標は世界選手権。世界選はボク向きのコースなので、スプリントに絡んで10着以内を目指したいと思います。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ