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アムステルゴールドレースの最終峠カウベルフに似ている——。4ヶ月前にそのカウベルフを力強く制したフィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)は、午前中にわざわざステージ最後の激坂を下見に出かけたときに、こんな風に感じたという。そして夕暮れが迫る頃、ヒブラルファロ城へと向かう坂道でジルベールはパワフルなアタックを仕掛けると、見事な区間勝利を手に入れた。丘のてっぺんでは、人生初めてのグランツール総合リーダージャージにも袖を通した。
この日のアンダルシア地方も、灼熱の大気に包まれていた。さらにはスタート直後から熾烈な飛び出し合戦が始まったせいで、幾人かの選手は大いに苦しめられた。その代表格がマイヨ・ロハを着ていたマーク・カベンディッシュ(チームHTC・コロンビア)。スタート直後にプロトンから脱落すると、いきなり3分近い遅れを喫する。それでもチームメイトたちの必死の援助のおかげで、一旦はメイン集団へと追いついた。ただし、結局はステージ後半の1級峠で再び大きく遅れ、最終的には25分以上も失ってしまう。マリア・ローザを着用した2009年ジロと同様に、カヴのリーダージャージ生活はわずか2日間で幕を閉じた。
カベンディッシュの脚を痛めつけたアタック合戦は、スタートから1時間ほどでようやく収拾へと向かった。34km地点で21選手が飛び出し、その21人からさらに45km地点で7選手が抜け出した。エスケープ集団は67km地点で最大9分17秒のリードを奪う。以降はメイン集団が追走体勢に入ったが、今大会最初の1級山岳レオン峠への登坂口でも未だタイム差は5分近く開いていた。
レオン峠の上りは、全長約16kmと非常に長い。エスケープ集団内におけるヒルクライム能力の差は徐々に明らかになっていく。そして登りもいよいよ後半に差し掛かかると、セラフィン・マルティネス(シャコベオ・ガリシア)がアタック。逃げの仲間たちをあっという間に置き去りにすると、単独で山頂を目指し始めた。
2007年大会で初日から9日間に渡って山岳ジャージを着用したマルティネスの動きを、しかし黙って見過ごせない選手も存在した。現在2年連続でブエルタ山岳賞に輝いているダヴィ・モンクティエ(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)だ。前日アシストの1人を負傷リタイアで失ったモンクティエは、プロトンとマルティネスとのタイム差が2分程度に縮まったところで、メイン集団からひとり追走のために飛び出していく。ツールにはあえて出場せずフレッシュな体調でスペイン入りしたヒルクライマーは、いとも簡単に他の逃げ選手を追い越すと、マルティネスの背後へぐんぐん迫った。ただしほんのわずか及ばず。マルティネスがレオン峠山頂を先頭通過し、青玉ジャージの入手に成功。驚異的な脚を見せたモンクティエは2位通過で、ジャージ争いも2位に甘んじた。
またモンクティエや他の逃げ選手たちが長い下りの果てにプロトンに吸い込まれていったのに対して、マルティネスだけは最後の力を振り絞って、区間勝利の望みを追い求め続けた。ゴールまで5kmを残して、リードは1分08秒。もしもゴール前の地形がフラットだったら、逃げ切り可能な数字だったかもしれない。しかしメイン集団前方が猛加速を始め、急激にタイム差が縮まっていった上に、ラスト1.8kmは上り坂だった。前述したように、アムステルゴールドレースのカウベルフ並の激坂だ。ステージ前半から積極的に飛び出しをかけ、山では孤独にエネルギーを消費してきたマルティネスには、抵抗する脚はもはや残っていなかった。ラスト1kmを示すアーチが、長いエスケープの終わりを告げた。
メイン集団前方は爆発的な加速劇場の舞台となり、残り600m地点でジルベールの大きな一撃が振り下ろされた。やはりアルデンヌクラシックで激坂を得意とするホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)も後に続いたが、約3週間前に結婚式を上げ、11月にはパパになる幸せな男にはわずか3秒足りなかった。ジルベールにとってはブエルタ区間初勝利にして、今季4勝目。ジロとツールを自らの意思で欠場し、ベルギー代表の絶対的リーダーとして出場する世界選手権のために続けてきた地道な調整が、上手くいっていることを証明してみせた。いずれにせよジルベールは例年シーズン後半にめっぽう強い!今大会でも再び大暴れの機会が巡ってくることだろう。
ツールの激坂ゴールでアルベルト・コンタドール(アスタナ)を退けたロドリゲスは、この日は区間2位に終わった。ただし総合では首位から14秒差の2位に上がり、総合表彰台争いで非常に有利な位置に付けた。また春先のカスティーヤ・イ・レオンの山頂フィニッシュでコンタドールを倒したイゴール・アントン(エウスカルテル・エウスカディ)も、評判どおりの実力を見せて区間3位・総合7位(35秒遅れ)。今ジロ3位のヴィンツェンツォ・ニバリ(リクイガス・ドイモ)は28秒差の5位、フランク・シュレク(チーム・サクソバンク)は36秒差の9位と早くも総合トップ10圏内に飛び込んできた。
一方で表彰台が期待されたアンディ・シュレク(チーム・サクソバンク)とクリスティアン・ヴァンデヴェルデ(ガーミン・トランジションズ)は、いずれもこの日だけで14分10秒もの遅れを喰らった。ステージ前半の路上にオリーブオイルが流れ出しており、滑って落車したことが原因と見られている。それにしても2010年のヴァンデヴェルデにとって、グランツール第3ステージは鬼門なのか。ジロは落車骨折で第3ステージ途中リタイア、ツールは前日の落車肋骨骨折で第3ステージ不出場、リベンジを期したブエルタでも第3ステージで落車、表彰台の可能性を失ってしまった。
またスカイ・プロフェッショナルサイクリングチーム内では前夜から体調不良を訴える選手やスタッフが相次ぎ、第3ステージだけで2人が途中リタイアしている。
■フィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)
区間勝利、総合リーダー
今大会の目標は区間勝利だった。だからリーダージャージはボーナスのようなものだね。世界選手権に向けて調子を上げていくためには、まだ数週間残っているし、この数週間が必要なんだ。まだ今春のアムステルゴールドレースやリエージュ〜バストーニュ〜リエージュのときと同じような調子には達していない。あのときの調子まで持っていくには、このブエルタを最後まで走る必要がある。とにかくチームにとってもボクにとっても、この勝利は成功に値するね。
今日のコース設定を見て、何か挑戦できそうだと感じていた。今朝のステージ前にはチームメイトたちと最後の上りを下見に出かけた。ゴール前600mで加速したけれど、でも飛び出しが早すぎたんじゃないかと不安だったよ。だからロドリゲスが追いかけてきたのを見て、さらに加速した。こうして勝利を手に入れることができたんだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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