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2日連続の激坂フィニッシュで苦しめられたスプリンターたちに、ようやく活躍の場が戻ってきた。しかも第2ステージのゴールスプリントでまさかの逆転2位に終わったマーク・カベンディッシュ(チームHTC・コロンビア)が「第5ステージで再トライ」宣言を出しており、ゴール前のスピードバトルが期待された。ところが世界最速王カベンディッシュには、ひとつだけ不安材料があった。それはリードアウト役の不在。コロンビアトレインの最終ワゴンを本来任されていたベルンハルト・アイゼルは、体調不良を理由に第4ステージ半ばで自転車を降りていた。
ゼロkm地点であっさりと4選手の逃げが決まったせいで、198.8kmという非常に長い今ステージはゆっくりと進んでいった。時に遮るもののない荒野を先頭で切り開いたのは、アルノー・ラブ(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)とピエール・ローラン(Bbox ブイグ テレコム)のフランス人2人と、ホセビセンテ・トリビオ(アンダルシア・カハスール)とダヴィド・ヴィットリア(フートオン・セルヴェット)のスペイン人2人。スタートからの3時間は時速36.5km程度の比較的のんびりペースで進み、4人は最大6分30秒ほどのタイム差を奪った。
レースが活気を帯び始めたのは残り60kmを切ってから。リーダージャージを囲むオメガファルマ・ロットのタイム差コントロールに、ランプレ・ファルネーゼヴィーニが積極的に手を貸し始めたのだ。当然狙うはアレッサンドロ・ペタッキのブエルタ通算20勝目。おかげでタイム差は順調に縮んで行き、ローランの最後の抵抗もむなしく……、ゴール前13.7km地点でエスケープには完全に終止符が打たれた。185kmという長い逃げだった。
吸収が静かに終わると、いよいよプロトン全体がスプリント体勢へと移行し始めた。ランプレに続いて、ダニエーレ・ベンナーティ擁するリクイガス・ドイモやオスカル・フレイレのラボバンクも前方で隊列を組む。HTC・コロンビアもラスト9kmで得意のトレインを作り上げた。最後の1枚が足りないとはいえ、ギリギリまでリーダーを守り、好ポジションへ引き上げるために。
ところがゴール前5kmを切ったあと、コロンビアの隊列に乱れが生じだした。すでにトレインを離れていたアシストが慌てて前に戻る様子さえ見られた。原因はマシューハーレー・ゴスのパンク。しかもゴスは今ジロで区間勝利を上げるなどトップスピードには定評があり、アイゼルの代わりに最終牽引役を務めるはずだった。最終リードアウト不在なら、ツール・ド・フランス期間中のマーク・レンショウの失格処分で、カベンディッシュはすでに経験済み。しかしラスト1kmで力を発揮する2人のアシストをいっぺんに失ってしまったカベンディッシュは、文字通りたった1人の戦いを強いられることになった。
最終リード・アウト不在なら、タイラー・ファラー(ガーミン・トランジションズ)も条件は同じだ。初日チームタイムトライアルに向けたトレーニング中に最終アシストのジュリアン・ディーンが負傷し、未だディーンの傷は癒えていなかったからである。しかもファラー自身も、前日の第4ステージ中に幾度も吐き気と戦ったほど体調が悪かった。つまりこの日のガーミン・トランジションズが吸収に手を貸さず、派手にトレインを作らなかったのは、ファラーがスプリントできるかどうか不明だったから。ちなみにファラーがチームメイトに協力をお願いしたのは、ラスト20kmを切ってからのことだった。
2枚足りないカベンディッシュが、右端のフェンス際から真っ先に前線へと飛び出した。ラスト200mでの爆発力が売りの彼が、なんと500mというロングスプリントを打ったのだ!しかし「飛び出すのが早すぎた。あの長さでトップスピードを保ち続けるなんて厳しかった」と本人も認めるように、早すぎた飛び出しは失敗に終わった。しかもライバルに十分に反応する余地を与えてしまったため、ファラーに背後を取られ、そして追い抜かれた。コルド・フェルナンデス(エウスカルテル・エウスカディ)にも先を行かれた。
「自分でもびっくりさ!」とゴール直後に語ったファラーは、昨大会に続くブエルタ区間2勝目。今年はジロで区間2勝を上げた後、勇んで乗り込んだツールでは負傷リタイアを余儀なくされていた。しかし8月半ばのワッテンファル・サイクラシックスで2連覇をあげ、トップコンディションへの復活を証明している。来るオーストラリア開催の世界選手権では、米国代表リーダーを任される予定だ。
4賞ジャージと総合トップ10には変動がなく、ゴール後にはフィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)が3度目のマイヨ・ロハ表彰台へと臨んでいる。
●タイラー・ファラー(ガーミン・トランジションズ)
区間優勝
昨日は体調が悪かった。昨日はレース中に6度も吐いたんだ。だから今日はどんな走りが出来るのか全く予想もつかなかった。あまり自信もなかったから、集団内にじっとして、レースがどう進んでいくのか様子を見ることに決めたんだ。でも徐々に調子がよくなっていった。ゴール前20kmまできて、チームメイトにスプリントの意思を伝えた。ラスト10kmはウィルソンがファンタスティックな仕事を成し遂げてくれたよ。ラスト2kmで彼がボクをあるべきポジションまで引き上げてくれた後は、全てがボク次第だった。だってディーンが怪我をしているから、ボクにリードアウト役はいなかったからね。
追い風の中のクレイジーなスプリントだった。でも今日みたいなスピードの速いスプリントは好きなんだ。カベンディッシュが右から飛び出したあと、ボクは彼の後ろに回りこんだ。そして正しい道筋を見つけ出して、上手くやったんだ。少々ラッキーな勝利だったね。自分でも驚いているよ。もちろん、世界一のスプリンター相手に勝てたのはいつだって嬉しいこと。でもボクにとっては、ブエルタでの区間勝利を挙げられたことのほうが大切なことなんだ。
勝利はいつだって自信をもたらしてくれる。今のボクは正しいルートを歩んでいるね。ハンブルグでの勝利、プルエーでは2位、そしてここでも勝った。ちろん世界選は大きな目標だ。でもこのブエルタでの戦いが残っている。この先もスプリント機会がある。とにかく1つ勝てて嬉しいよ。さらに勝てたとしたら、そこから先はボーナスだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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