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ほんの少し気温も下がり、ステージ距離も151kmと比較的短い。難所はゴール前約20km地点に聳える2級クレスタ・デル・ガッロ峠だけ。様々な好条件にモチベーションをかきたてられて、ゼロkm地点でフレディ・ビショ(Bbox ブイグ テレコム)が飛び出しを仕掛けた。この企てはあっけなく潰されてしまうのだが、4km地点でマークス・アイヒラー(チーム・ミルラム)が順調に抜け出すと、ビショは再びフアンハビエル・エストラダ(アンダルシア・カハスール)とアタックにトライ。25kmで3人は合流を果たし、35km地点では後続から9分半ものタイム差を手に入れた。
ただし大会6日目のこの日も、メイン集団は逃げ切りの許可を出してはくれなかった。通常ステージの5日間、1日も欠かさず逃げに乗っているアンダルシア・カハスールの努力は、またしても水の泡と消えた。ゴール前50kmでは未だ4分45秒あったタイム差は、ここから加速度的に縮まっていく。なにしろ道幅の極めて狭い最終峠へと好ポジションで突入しようと、後方では複数チームが「まるでスプリント準備のように」隊列を組んでスピードアップを続けていたのだ。登坂口でのタイム差は45秒。そして1年前は逃げ集団によるアタック合戦の舞台となったこの山で、今年はエスケープの終了が言い渡された。
峠に向けてあれほどポジション争いに必死になっていたメイン集団だが、上りではアレクサンドル・コロブネフとウラディミール・カルペツを筆頭とするチーム・カチューシャが先頭の定位置を譲らなかった。カチューシャは高速テンポを刻み、後方をどんどん千切って行く。しかも前方ではアタックを牽制し、誰ひとりとして飛び出すことは不可能だ。さらに山頂通過後の下りでは、相変わらず先頭につけていたカルペツがなんと……35km/hというのろのろダウンヒルを開始。細く曲がりくねった下り坂を利用して、集団に「蓋」をしてしまった!
蓋は、カルペツのチームメートであるフィリッポ・ポッツァート(チーム・カチューシャ)が飛び出したときだけ一瞬開くと、再び閉じた。そのまま再びスロー走行を始めたものだから、カルペツの背後は細い道で飛び出すタイミングがつかめず、おかげでポッツァートはグングン前に行くことができた。しかしマイヨ・ロホのフィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)が勇敢にも蓋をこじ開けてポッツァートを捕らえに行き、追いつかれた元イタリアチャンピオンは「ゴールまで遠すぎたしね」と加速を諦めた。こうしてメイン集団はひとつとなり、通常のダウンヒルスピードを取り戻した。
しかも後方には、100人以上の仲間たちと共に俊足スプリンターのマーク・カベンディッシュ(チームHTC・コロンビア)や前日勝者のタイラー・ファラー(ガーミン・トランジションズ)が取り残されていた。当然、前方メイン集団に滑り込むことに成功したスプリンターたちはいっそう加速の脚に力を込めたし、デミトリ・フォフォノフ(アスタナ)やカルロス・バレード(クイックステップ)の飛び出しを許すはずもなかった。ラスト数キロはサーヴェロ・テストチームが4人、オメガファルマ・ロットが3人で前方をきっちりとコントロールし続けた。
ラスト1kmのアーチを先頭でくぐり抜けたのはオメガファルマ・ロットトレインだった。ゴール前300mまで必死に先頭を引っ張り、それからジルベールをスプリントへと送り出した。ただしトル・フースホフト(サーヴェロ・テストチーム)にとっては「オメガファルマ・ロットの列車の動きが、ボクにはパーフェクトだった」ようだ。やはりチームメイトの仕事にしっかり助けられて、好ポジションにつけていたフースホフトは、ラスト100mで全てを追い抜くと、そのままパワフルにフィニッシュラインを先頭で駆け抜けた。
フースホフトはブエルタ区間通算3勝目。2006年には小魚が散りばめられたとんでもなく斬新なデザインのポイント賞ジャージも手にした。ただし今ブエルタでは最初からポイント賞は狙っておらず、区間勝利のみに専念している。また5月の鎖骨骨折の影響で、ツール・ド・フランス期間中は「集団スプリントがどうしても怖い」「スプリントに必要な何か大切なものをボクは失ってしまった」と少々悩んでいたようだが、今勝利をきっかけに強いスプリンター精神を取り戻せるかもしれない。
またスプリント勝利こそ手に入らなかったものの、区間6位に入ったジルベールが赤ジャージを余裕で守りきった。さらにゴールポイント10pを獲得したおかげで、ポイント賞ジャージと複合賞ジャージさえも手に入れた。もちろん第7ステージもジルベールは「ラ・ロハ」を身にまとうため、この日と変わらず緑はイゴール・アントン(エウスカルテル・エウスカディ)、白はヴィンチェンツォ・ニバリ(リクイガス・ドイモ)が着用する。
●トル・フースホフト(サーヴェロ・テストチーム)
区間勝利
決して簡単な勝利ではなかったよ。ハードな1日だった。でも調子が良かったんだ。今日の山はボクに向いていると分かっていたから、ステージ優勝に向けて高いモチベーションを抱いていた。ファラーやカベンディッシュのようなスプリンターは上手く越えられないだろうとあらかじめ考えていたんだ。だからボクに優勝のチャンスがあると思っていた。上りに突入した直後にはジルベールやポッツァートのすぐ後ろ、前から5番目くらいを走っていた。でも山頂まで残り1.5kmくらいのところでは、20番目から25番目くらいに下がってしまった。チームメイトが素晴らしい仕事をしてくれたおかげで、再び前線に戻ることが出来たんだ。
ブエルタでの最初の目標はレースリズムを取り戻すことだった。2番目の目標はステージ優勝をすること。これは達成された。次のチャンスを探しに行くつもりはあるけれど、でも、それがいつなのかは分からない。次の集団スプリントは争いに行かなよ。だって次は、テオ・ボスにチャンスを与える番だからだ。それにツールでマイヨ・ヴェールポイント収集のためにやったようなエスケープを打つつもりも特にないんだ。ここではネルギーを無為に使うつもりはない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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