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この日の午前中には、世界選手権に向けたスペイン代表プレセレクション21名が発表された。アルカンシェルジャージを巡る戦いが急激に近づいていることを感じずにはいられない。オーストラリアの世界選コースは例年に比べると起伏が少ないため、「ある程度の上りもこなせるスプリンター」向きと言われている。自ずと実力派スプリンターたちは、ブエルタのスプリントにかなりの重きを置いているはずだ。最終調整、監督へのアピール、代表チームメイトたちとの連携、ライバルの観察、牽制……。だからこそ12もの峠が待ち構える大会2回目の週末へ突入する前に、スプリンターたちはどうしても自らの実力の証明をしておきたかった。特にスプリント勝利を未だ得られずにいたランプレ・ファルネーゼヴィーニとチームHTC・コロンビアの意気込みと、最終盤の追い込みは凄まじかった。
気温は40度を越え、ジリジリと照りつける太陽の下で、しかもスプリンター向けのステージと知りながらも4選手が逃げを打った。飛び出しのきっかけを作ったのはマルティン・ペデルセン(フートオン・セルヴェット)。そこにホルヘマルティン・モンテネグロ(アンダルシア・カハスール)、ドミニック・ローエルス(チーム・ミルラム)、ウラジーミル・イサイチェフ(シャコベオ・ガリシア)が合流する。ちなみにモンテネグロはスペイン代表プレセレクション入りは果たせず、ペデルセンも8月27日に発表された世界選デンマーク代表にやはり選ばれていない。ドイツのローエルスとロシア出身のイサイチェフも大会後に南半球へ飛ぶ予定は今のところなさそうだ。つまりブエルタだけに最大限集中する4人は、スタートから25km地点で早くも後続から10分半もの大量リードを奪った。
その後タイム差は少しずつ縮まっていくのだが、それでも残り40km地点では4分差を保っていた。ただし以降は後方でスプリンターチームたちが交替で仕事を始め、何もない荒野に吹き付ける強風にも関わらずスピードを増していった。そして残り5km。約180kmに渡って共に逃げ続けた4人は軽く握手を交し合うと、大集団の中に静かに飲み込まれていった。
前日同様、マイヨ・ロホのフィリップ・ジルベール擁するオメガファルマ・ロットも「落車を避け、ポイントを手に入れるために」隊列を組んだ。もちろんランプレとHTC・コロンビアはステージを勝ちとるためにトレインを走らせた。ランプレはブエルタ通算20勝目を目指すアレッサンドロ・ペタッキのために、HTC・コロンビアは個人初優勝が欲しいマーク・カベンディッシュのために。先頭列車の場所取り合戦は熾烈を極め、ラスト1kmのアーチはランプレトレインが先頭で潜り抜けたが、800m付近ではカベンディッシュを引っ張るアシスト2人が怒涛の勢いで上がってきた。そして36歳のペタッキが、真っ先にスプリントを切った。
ロングスプリントを得意とするペタッキは、結局フィニッシュラインまでの250mを誰にも抜かれることはなかった。ペタッキの加速直後、カベンディッシュはすぐに後輪に入ることが出来なかった。さらに右側をフェンス、左側をアンドレアス・スタウフ(クイックステップ)に阻まれ、抜け道さえ見つけられなかった。それでもペタッキのゴールライン通過直後に小さなオープンスペースに滑り込んで、区間2位に入ったのはさすが。念願のブエルタ初区間勝利はお預けとなってしまったが、オーストラリア行きに向けて調子は悪くないことを証明して見せた。また第1・2ステージ後に首位として表彰こそされたものの、初日TTTのポイントの扱いがイマイチ不透明なままジャージを失っていたポイント賞で、ようやく正真正銘の首位に立った。
3大ツール全てでポイント賞に輝いた経験を持つ大ベテラン・ペタッキにとっては、2007年大会以来となるブエルタ区間勝利。ジロ区間21勝+ツール6勝+ブエルタ20勝=3大ツール区間47勝と、現役選手としては当然のように最多勝利数を誇る(実際には52勝しているが、ドーピング問題で5勝が取り消されている)。気になる2010年世界選手権への出場は……?第8ステージから3日間、イタリア代表監督パオロ・ベッティーニがブエルタに視察に訪れるため、直接選手たちとの話し合いが持たれるとのこと。ご存知の通り赤ジャージをきっちり守ったジルベールは、ベルギー代表の絶対的リーダーに内定している。
ゴール後に悲しいニュースが飛び込んできた。スカイ・プロフェッショナルサイクリングチームのマッサーとして大会入りし、5日前からセビーリャの病院に緊急入院していたゴンサレス氏が息を引き取った。死因はウイルス性の敗血症。スカイは第2ステージに2選手、また今ステージ中にフアンアントニオ・フレチャが途中リタイア。フレチャは昨夜3時まで病院で治療を受けていたとのことで、チーム内に不調を訴える人間が多い。チーム側はゴンサレスの死と選手の症状に関連性はないと発表している。
●アレッサンドロ・ペタッキ(ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)
区間優勝
なんて素晴らしい勝利なんだろう。とてつもない満足感を味わっている。だってチームメイトたちの働きのおかげで勝ち取ることが出来たんだから。ラスト2kmがどんな風に進んだのか完璧に覚えている。まずボレが集団先頭についてスピードを上げ、700m地点で努力を打ち切った。次はフルランが仕事をする番で、ファンタスティックなやり方でカーブまで先頭を引っ張ってくれた。カーブにはホンドがフルスピードで突っ込んだ。ボクはホンドの後ろに張り付いて、そして彼を追い越してからは、ライバルたちよりもずっと速いスピードで駆け抜けたんだ。序盤ステージは区間勝利を心に誓ってペダルを漕ぎ続けてきた。ただ成功することだけに集中し続けてきた。だからこの勝利をつかむことが出来て本当に嬉しい。
グランツール大会で20勝というのは決して簡単な仕事ではない。36歳にして3大ツールで52勝目を上げたというのは、若い選手たちに、長く成功するキャリアを築くことができることを見せてあげられたね。でもたくさんの犠牲を払う必要もあるんだよ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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