人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2010年9月6日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2010】第9ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

前日5つの厳しいアップダウンを乗り越えたばかりだというのに、今ステージでは7つの峠がプロトンの脚に襲い掛かった。幸いにも翌日に大会1回目の休養日が控えている。暑さと1週間のレースで疲れた体に鞭打って、思い切り飛び出しを仕掛ける選手が続出した。特に前日第8ステージに140km以上のエスケープの果ての勝利をつかんだダヴィ・モンクティエ(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)が、2日連続の大逃げへと乗り出した。確かに念願の山岳ジャージが未だ手に入っていなかったし、山岳ポイント獲得の機会が7回もある今ステージはまたとない好チャンスだったに違いない。27km地点でモンクティエが飛び出すと、その後に多くの実力選手たちが従い、最終的に15人の大きな逃げ集団が出来上がった。

ゼロ秒差の総合首位に立つイゴール・アントンと、彼の周りを固めるエウスカルテル・エウスカディのチームメイトたちは、すぐには追走を開始しなかった。総合でわずか3分30秒遅れのカルロス・バレード(クイックステップ)が、前方集団からさらに飛び出しを仕掛けたときだけは、さすがにタイム差コントロールに務めた。ただしバレードが全てを諦めたと同時に、プロトンも追走の手をあっさり緩める。その後は徐々にタイム差が広がって、ゴール前25kmでは最大の9分35秒差に達した。アントンにとっては、無理に逃げを吸収して、軽い上りゴールでホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)とボーナスタイム争いを繰り広げるより、2日連続のエスケープ逃げ切りを許したほうが安全策だったに違いない。

おかげでステージ最終盤の逃げ集団は、後ろからの追い上げを心配することなく、思う存分に区間争いを繰り広げることが出来た。4つ目の峠の下りでゴンサロ・ラブニャル(シャコベオ・ガリシア)が前方集団から飛び出し、5つ目の峠の上りでは残る選手たちの間で加速合戦が始まった。

ちなみにラブニャルのアタックは区間勝利のためと、もうひとつ、山岳ポイント収集のためだった。すでに6日間山岳ジャージを着ているチームメイト、セラフィン・マルティネス(シャコベオ・ガリシア)を助けようと、序盤5つの峠で自らが山頂先頭通過=モンクティエの最大ポイント獲得を阻止。もちろんモンクティエは5つ目の峠を3位通過した時点でマルティネスと同点に並び、さらに6つ目の峠を先頭通過したことで、ステージ後の山岳ジャージを確実なものとした。ただし念願の青玉ジャージは手に入れたものの、希望していたほどのポイントは収集できなかったはずだ。総計41ポイントで山岳賞トップに立つモンクティエにとって、36ポイントで2位につけるマルティネス、25ポイントで3位につけるラブニャルのシャコベオ・ガリシアコンビには今後も油断ならない。

この日最後の山、7つ目の峠へと向かう頃には先頭集団は8人になっていた。ラブニャルは6つ目の上りで追いつかれ、すでに下りで置き去りにされていた。その7つ目の登坂口で、鋭い加速を試みたのがダビ・ロペスガルシア(ケースデパーニュ)。上りではまずモンクティエに、続いてエゴイ・マルチネスデエステバン(エウスカルテル・エウスカディ)とロマン・クロイツィゲル(リクイガス・ドイモ)、ジャンパオロ・カルーゾ(チーム・カチューシャ)に一旦追いつかれてしまう。ただしロペスガルシアは決して諦めなかった。今度は下りを利用して、残り5km地点で飛び出した。

2度目の飛び出しは、幸運をつれてきた。ラスト1kmの決して激坂ではないものの、標高60m差を1000mかけてじわじわと上っていく坂道では、背後からクロイツィゲルの影も近づいてきた。それでも決してペダルを漕ぐ脚を緩めずに、後続を6秒差でかわしきると、ロペスガルシアが人生初めてのグランツール区間勝利を手に入れた。「言葉で表現できないほどの」感情に襲われたゴールラインでは、両手で何度もガッツポーズを繰り返した。

区間勝利の決着がついた後も、総合争いのサスペンスは終わらなかった。なにしろエスケープ集団内では総合トップから6分59秒差につけていたジャンクリストフ・ペロー(オメガファルマ・ロット)が、ロペスガルシアから55秒遅れの区間7位に入り、状況次第ではマイヨ・ロホを手にする可能性もあったのだ……。2008年北京五輪マウンテンバイク銀メダリストにして、今季ロード転向を果たしたばかりの33歳新人(!)は、「本当にジャージが取れるかもしれない」とドキドキしながらアントンの到着を待った。しかし最終盤にエウスカルテルが必死の加速を見せたため、アントンはペローから6分07秒遅れでゴールラインを越え、ペローの初グランツール初リーダージャージの夢ははかなく消えた。総合では52秒差の5位につけた。

アントンは対ペローだけでなく、対ロドリゲスでも非常に上手く立ち回った。前日同様ゴール前で猛烈にスプリントをしかけてきたロドリゲスの背後にぴったり張り付いて、決して1秒以上のスペースも作らせないどころか、自分とライバルの間に邪魔者が滑り込む余地も与えなかった。非常に巧妙にタイム差ゼロの総合首位を守りきり、大会初の休日を総合リーダージャージで過ごす権利を手に入れた。連日の奮闘むなしく、あとわずかのところでどうしても赤ジャージに手が届かないロドリゲスは、「ジャージを着て、火曜日に地元カタルーニャを通過したかったのに……」と肩を落とした。


●ダビ・ロペスガルシア(ケースデパーニュ)
区間勝利

最終盤ではアタックが多発したし、クロイツィゲルやカルーゾといった実力選手を恐れていた。でも絶好のタイミングで1人抜け出すことができたんだ。フィニッシュラインまで追いつかれないように、もがき苦しんだ。でも苦しむだけの価値はあった。すごく苦しかったけれど、勝利のあとに沸きあがってきた感情は言葉で表現できないほどのものなんだ。これほどまでに激しい感情に襲われるとは、想像さえしていなかった。

ボクには成績以上の実力があるとよく言われる。でも素晴らしいリーダーたちのために仕事が出来るなんて、ボクはすごく幸運なんだ。ボクにとってダントツの勝利は、2009年ブエルタでのアレハンドロ・バルベルデの総合優勝。ボクも大いに貢献したからね。もちろん今日の勝利はボクにとって非常に大切なものだよ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ