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涼しい高台を離れ、風の強い谷間をいくつもすり抜けると、ブエルタ一行は強い日差しの照りつける下界へと舞い戻ってきた。前日に山の上で厳しい戦いを繰り広げた総合有力選手たちは、今ステージはスプリンターチームに集団前方の座を譲った。エウスカルテル・エウスカディのオレンジジャージ集団は、赤いリーダージャージを身にまとうイゴール・アントンをしっかりと取り囲み、冷静に状況制御に努めるだけでよかった。
ピレネーの小国アンドラの国境ゲートをくぐり抜け、スペインへの再入国と同時に、第12ステージの本スタートが切られた。軽い下り坂をハイスピードで駆け下りるプロトンの中から、12km地点でまずは6選手が飛び出していく。マークス・アイヒラー(チーム・ミルラム)、ペーリ・ケムヌール(Bbox ブイグ テレコム)、グスターボ・セサル(シャコベオ・ガリシア)、ラルスイティング・バク(チームHTC・コロンビア)、アントニオ・ピエドラ(アンダルシア・カハスール)、そしてすっかり逃げでおなじみとなったブレル・カドリ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)で構成されたエスケープ集団に、50km地点を過ぎた頃、さらに3人が合流した。顔ぶれはマルコ・マルツァーノ(ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)と、シャコベオ・ガリシアからダビ・ガルシアとグスタボ・ロドリゲス。つまりにシャコベオ・ガリシアは前方集団に3人も送り込み、中でもダビ・ガルシアは総合でもわずか5分14秒遅れと非常に好位置に付けていた。このガルシアは2つの中間ポイントでボーナスタイムを計10秒稼ぐことも忘れなかった。
ガルシアという小さな危険因子が潜り込んでも、エウスカルテル・エウスカディが先頭に立って追走を企てたりはしなかった。そもそもスプリンターチームたち、とりわけクイックステップやガーミン・トランジションズがプロトン先頭でスピードを上げ、3分半以上のタイム差を許さなかったのだ。彼らが前方9人をきっちりと追い上げて、ゴール前22.5km地点で全てを飲み込んだ。唯一オレンジトレインが前に上がってくる姿が見られたのは、ラスト10kmのアーチを越えるときだけ。大集団ゴールに向けてスピードが上がり、同時に接触の危険性が高まっていく中、落車や分断を避けるための予防手段だったようだ。
ラスト1kmのアーチをくぐる頃には、あらゆるスプリンターチームがそれぞれのリーダーを好ポジションへと引き上げていた。ただし直後に待ち受けていた90度カーブで、集団前方に小さな亀裂が走る。さらにフィニッシュラインまで残りわずか310mの地点でまたしても90度カーブ。この最後の直角に、先頭で突っ込んでいった2人組がいた。チームHTC・コロンビアのマシューハーレー・ゴスと、マーク・カベンディッシュだ!
エスケープ集団にチームメイトのバクが滑り込んでいたおかげで、この日のチームHTC・コロンビアは追走に力を費やす必要がなかった。だからチーム全員がフレッシュな体力のまま、ステージ最終盤を迎えることが出来ていた。しかも今ブエルタで初めてコンビを組んだ発射台とリーダースプリンターは、大会序盤こそ少々歯車がかみ合わなかったが、スペインでの共同生活も12日目を迎えて……ついに2人はパーフェクトな協力関係を作り上げた。最終カーブで他のスプリンターチームを完璧に出し抜いたゴスは、そのまま背後のスペースに余裕を持ったまま、カベンディッシュをゴールラインへと送り出すことに成功した。「本当にボクは何にもしなくてよかった。全てゴスがお膳立てしてくれたから」とゴール後に語ったカベンディッシュは、数度軽く振り返って後ろの様子を確認した後、大きなガッツポーズでブエルタ初勝利を手に入れた。素晴らしい仕事を終えたゴスも、両手でバンザイしながら自らも3位に入った。
ジロ(6勝)、ツール(15勝)とあわせて3つのグランツール全てで区間勝利を手に入れたカベンディッシュだが、未だポイント賞ジャージを持ち帰ったことはない。前日アントンに奪われたマイヨ・ヴェールならぬマイヨ・ベルデを再び取り返し、区間2位タイラー・ファラー(ガーミン・トランジションズ)を現時点では9p差で突き放している。世界選手権への調整を兼ねてブエルタ入りした英国代表リーダーは、「マドリードまで走る。ジャージが欲しい」とこの日はっきりと宣言した。
総合上位選手たちは何の問題もなくトップ集団でフィニッシュラインへとたどり着いた。ゴール後にはアントンが4回目のマイヨ・ロホ表彰台に臨んでいる。
●マーク・カベンディッシュ(チームHTC・コロンビア)
区間優勝
ゴスとボクとは共にピュアスプリンターであり、一方でレンショーはリードアウトとしてトレインを作るんだ。だから走り方、ポジションの取り方など、合わせるのに少々時間がかかった。ゴスよりレンショーのほうが強いとか、今日までゴスの力が足りなかったとか、そんな問題では全くなかったんだ。単にボクら2人が上手くかみ合う必要があっただけ。今日のゴスは信じられないほど素晴らしい仕事をしてくれたね。最終コーナーにトップで突っ込んで、ボクを強烈に引っ張って行ってくれた。そしてボクを前に送り出してくれた。ボクは本当に何もする必要がなかったんだ。チームが全てを組み立ててくれた。ゴスが全てお膳立てしてくれたんだ。
グランツールでの勝利というのは本当にスペシャルだ。3大ツール全てに勝てたなんてステキだよね。ボクは本当に恵まれた立場にいるね。だってチームメイトがボクのために働いてくれて、ボクを表彰台へと引き上げてくれるんだから。スプリンターというのは、チームメイトの協力なしには勝てないものだからね。チームはこれまでも本当に良く働いてくれた。ボクはどんどん調子を上げている。マドリードまでにはさらに調子を上げていたいね。ブエルタは最後まで走りたい。グリーンジャージが欲しいんだ。
世界選手権は全く別のレースだ。コースも非常に長いし、全てが特別なんだ。だからこの勝利でほっと安心してしまったりはしない。世界選手権に向けてさらに調子を上げていきたいんだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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