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サイクル ロードレース コラム 2010年9月14日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2010】第16ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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悪天候に襲われた前日とは打って変わって、この日はブエルタ一行の頭上にさわやかな秋空が広がった。暑くも寒くもない心地よい空気と、瞳に優しいアストゥリアスの深い緑。しかも休養日前日ということでスタート地には選手やスタッフの家族や友人が大勢訪れ、あちこちで笑顔の会話が弾む。気持ちの良い1日の始まりだ。……ただし道は恐ろしくキツイ。多くの選手たちが、第16ステージこそ2010年ブエルタ・ア・エスパーニャの「最難関」ステージだと認めていた。

ステージ後半には3つの難関峠が立ちはだかる。ならば序盤から逃げ出してしまおうと、それこそ多くの選手が考えたようだ。ゼロkm地点から始まったアタック合戦には、前日タイムを大きく失ったシャビエル・トンド(サーヴェロ・テストチーム)や、すでに総合の望みは完全に断たれていたデニス・メンショフ(ラボバンク)さえも加わった。未だ山岳賞を諦めきれないセラフィン・マルティネス(シャコベオ・ガリシア)も飛び出しを試みる。しかしマイヨ・ロホのヴィンチェンツォ・ニバリ(リクイガス・ドイモ)や青玉ジャージのダヴィ・モンクティエ(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)が自らの脚で逃げを潰しに行き、危険因子を排除した。ようやくエスケープ集団が出来上がったのは61km地点。すでにステージも3分の1を終えていた。

ただし10人の逃げはあくまでも「仮」集団に過ぎなかった。なにしろ最初の1級峠サン・ロレンゾへの上りで、メイン集団からオレンジ色のジャージが矢のごとく飛び出したのだ!彼らはエウスカルテル・エウスカディの2人、ミケル・ニエベとアメッツ・チュルーカ。さらに前方集団に滑り込んでいたチームメイトのファンホセ・オロスもあえて減速し、後方の2人を待った。2日前にチームメイトのイゴール・アントンが“ラ・ロハ”を着たまま大会を去ってしまったが、残された選手たちは「士気を上げていこう、戦いを続けていこう」と心に誓った。そして3人は足並み揃えて一心不乱にペダルを漕ぐと、2つ目の1級峠コベルトリアの上りで、ついに前をとらえた。

先頭に立ったエウスカルテル3人衆は速度を緩めるどころか、ますます強烈な走りでエスケープ集団をちぎって行く。その後、猛烈に働いたオロスは仕事を終えて後ろに下がり、チュルーカが牽引役を受け継いだ。メイン集団に2分45秒のタイム差をつけて最終峠登坂口にたどり着いたときには、当初の逃げ集団から生き残ったのはルイスレオン・サンチェス(ケースデパーニュ)、ケヴィン・デウェールト(クイックステップ)、トーマス・ピーターソン(ガーミン・トランジションズ)の3人だけになっていた。その残党たちも、登坂口直後のニエベ渾身の一撃で全て置き去りにされてしまうのだが。

登坂距離10.1kmのコトベリョ峠はブエルタ初登場。しかしニエベはこの上りを知っていた。この一帯アストゥリアス地方出身のサムエル・サンチェス、そしてアントンと共に、下見に訪れていたという。「道を知っていたおかげで、自信を持って走れたよ」と語った26歳は、キャリア初めてのグランツールにおける初めての区間優勝のチャンスに決して怖気付くことなく、冷静に区間勝利を勝ち取った。アントンが落車リタイアした日、チーム内で一番にゴール地にたどり着き、強張った顔で悲しみの涙をこらえたニエベ。この日は嬉し涙がこぼれないように苦労したのだった。

総合表彰台候補がひしめくメイン集団は、大部分の時間帯はマイヨ・ロホ擁するリクイガス・ドイモに仕切られていた。ところが1級峠コベルトリアへの麓で突然、チーム・サクソバンクが前線で隊列を組み始める。しかもタイムトライアル世界王者ファビアン・カンチェッラーラが高速で集団を引き、そこからフランク・シュレクを前方へと押し出した!ただし、この試みは一旦失敗に終わる。

ブエルタ開幕前は優勝候補筆頭に上げられていながら、ここまでの序盤2週間、シュレクはまるで存在感を示せていなかった。目立った話題といえば、弟アンディ・シュレクがチームから大会除外処分を受けたことだけ。それでも「調子は徐々に上がっている。まだ総合成績を諦めていない」とコバドンガの山頂で語っていたシュレクの、今大会初めての大きな試みだった。しかも1度失敗しても諦めない。ニエベが飛び出しを成功させたのとほぼ同じ場所、最終峠の上り開始直後に、2度目の飛び出しを企てた。今度はトム・ダニエルソン(ガーミン・トランジションズ)やカルロス・サストレ(サーヴェロ・テストチーム)がしばらく周囲に付きまとったが、ラスト4kmで総合ライバルたちを全て振り切った。ニエベから1分06秒遅れの区間2位でフィニッシュラインを越え、総合ライバルから軒並みタイムを奪い取ることには成功した。ボーナスタイムも12秒手に入れた。しかもシュレクのアタックがきっかけでトンドが遅れ始め、トンドは総合4位から8位へと一気に脱落。その空いた4位の座に、シュレクは6位からジャンプアップしてみせた。

シュレクの飛び出した背後では、ロマン・クロイツィゲル(リクイガス・ドイモ)が背中にニバリを従えて、厳しいリズムを刻み続けた。ダニエルソンやサストレを回収しつつ、より直接的なライバル——4秒差のホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)や39秒差のエセキエル・モスケーラ(シャコベオ・ガリシア)——のアタックを封じ込め続けた。ところがラスト1kmのアーチをくぐった直後から、7人にまで小さくなったメイン集団内が急激に騒がしくなった。アタックの続発。クロイツィゲルは1人で対応しきれず、ステージ前半から体力を使ってきたニバリにも追う脚が残っていなかった。

マイヨ・ロホの隙を見つけ出したライバルたちは我先にとゴールへ急ぎ、ロドリゲスは1分22秒差の区間4位、モスケーラは1分40秒差の区間6位へと滑り込んだ。一方のニバリは1分59秒差……つまりはロドリゲスからは37秒、モスケーラから19秒遅れてフィニッシュ。総合ではロドリゲスに33秒差で逆転を許してしまい、わずか2日間でマイヨ・ロホを失った。モスケーラは53秒差で総合3位につける。4位シュレク以下は2分16秒以上離れているため、表彰台争いにこれ以上食い込むことは難しいだろうか。もちろん、2010年ブエルタには、49kmの個人タイムトライアルとマドリード到着前夜の激坂山頂フィニッシュ、恐ろしく重要な2ステージが未だに残されている。


●ミケル・ニエベ(エウスカルテル・エウスカディ)
区間勝利

アントンの落車リタイアで、チーム全体がひどく落ち込んだ。だからチーム監督からは昨日のレースは少し力を落として、気持ちを入れ替えるように言われていた。その後は「また士気をあげていこう、戦い続けよう」と言われていた。今日はその絶好のチャンスだった。難しい峠が3つも続いたおかげで、再びモチベーションを上げることができた。遠くからアタックを仕掛ける必要があることは分かっていたんだ。チーム全員がパーフェクトな仕事をした。素晴らしい結果となった。

この山のことは知っていたんだ。アントンやサンチェスと一緒に8月に下見に来ていた。それがボクにとっては有利に働いたね。特に1人になってからの最後の数キロでは、道を知っていたことが心の大きな支えだった。もちろん沿道のファンからの歓声にも背中を後押しされた。チームカーから監督が大声でに励ましてくれたことで、苦しみも忘れられたんだ。


●ホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)
総合リーダー

ニバリに対するタイム差は十分につけられた。個人タイムトライアルではニバリのほうが上だ。だから今日は出来るだけタイムを奪う必要があった。今からは個人タイムトライアルでなるべくタイムを失わないように最大限の努力をするだけさ。最終日前日の山岳ステージで総合優勝争いを演じられるよう、出来る限り被害を最小に抑えたい。人生最高のタイムトライアルを見せるつもりだ。タイムトライアルコースはまだ見ていない。明日の休養日で下見に出かけるよ。

タイムトライアル後に遅れが1分半から2分差程度なら、まだまだ射程圏内だ。第20ステージの最終峠は非常に厳しいから、それくらいの差ならひっくり返すことが出来るかもしれない。ブエルタの序盤に「今のような調子を最後まで保つことが出来たら、ブエルタ総合優勝できるかもしれない」と思っていたんだ。今現在はこう思う。「今のような調子を最後まで保つことが出来たら、総合優勝できるだろう」と。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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