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マイヨ・ロホ争いは一旦お休み。前日に46kmの全力疾走を行ったプロトンは、この日はのんびりと朝寝坊を楽しんで、お昼過ぎの14時にスタートを切った。ルート上ではときどきにわか雨に襲われたものの、気温も25度前後と快適。しかも山岳や難所が存在しない上に走行距離は148.9kmと飛び切り短い。極めてオーソドックスなスプリンターステージとして、ステージの幕は開いた。
執拗な飛び出し合戦もないまま、スタートから2kmであっさり8選手が飛び出していった。フアンハビエル・エストラダとホセビセンテ・トリビオのアンダルシア・カハスール組と、アレクサンドル・ピショ(Bbox ブイグ テレコム)、パブロ・ウルタスン(エウスカルテル・エウスカディ)、アルベルト・ベニテス(フートオン・セルヴェット)、ダニエーレ・ピエトロポッリ(ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)、オリヴィエ・カイセン(オメガファルマ・ロット)、そしてドミニック・ローエルス(チーム・ミルラム)のエスケープ集団は、しかし、すぐさま後方スプリンターチームからの遠隔操作を受け始める。ガーミン・トランジションズやチームHTC・コロンビアがプロトン前方を陣取り、上手にタイム差コントロールを続けたため、約100kmに渡って2分差程度のリードを保ち続けた。
ガーミン・トランジションズがうっかり加速しすぎて差が1分近くまで縮まったこともあった。ただしゴールまで未だ70km以上も残っていたため、後方集団はもう一度スピードを落とした。なにしろエスケープを早く吸収してしまったところで、また別のアタックを心配する必要があるし、スプリンターチームには何の特にもならない。また風が強くなってきたゴール前45kmでは、ケースデパーニュ勢が分断を意識した猛攻を見せたことも。ここでは総合争いの主役を演じるリクイガス・ドイモやシャコベオ・ガリシア、チーム・カチューシャがすぐさま反応したため、危険な試みはすぐに潰された。その後は再びスプリンターチームが上手に加速を行い、ラスト12km付近で、ついにはエスケープの8人もメインプロトンに飲み込まれていった。
少々退屈だった今ステージで上記以外に特筆すべきは、ラスト9kmからのフィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)の飛び出しだろう。すでに今ブエルタで区間1勝&マイヨ・ロホ5日間という好成績を上げたジルベールは、「もはや今大会は特別な野心はない」と語っていた。ところが前日のタイムトライアルでは区間9位という好成績を出し、この日はプロトン屈指のアタッカーとして自らの脚を試しにかかるなど、相変わらず積極的な走りを見せている。結局ラスト5kmでジルベールは吸収されてしまうのだが、ブエルタ閉幕2週間後に行われる世界選手権での走りは要注目だ。ちなみにこの日の朝にスペイン代表メンバーが最終発表され、オスカル・フレイレ(ラボバンク)がリーダーに指名された。イタリア代表には現在ブエルタを走っているフィリッポ・ポッツァート(チーム・カチューシャ)とヴィンチェンツォ・ニバリ(リクイガス・ドイモ)がそれぞれリーダーとアタッカー役に選ばれている。もちろん、ベルギー代表のエースはジルベールが務める。
全ての吸収が終了したあとは、本格派スプリンターたちの時間がやってきた。特にマーク・カベンディッシュ(チームHTC・コロンビア)の集団スプリント3連覇を阻もうと、多くのチームが先頭ポジションへと詰め掛けた。ラスト1km地点に位置する最終カーブでは、クイックステップの2選手が特攻さえしかけた。
ここまでカベンディッシュが勝った第12・13ステージでは、それぞれゴール前310mと500m地点に厳しい曲がり角が存在し、いずれもマシューハーレー・ゴスとカベンディッシュのチームHTC・コロンビア組が先頭で突入。そのまま後続の追随を許すことなく、カベンディッシュが容易く勝利を手に入れてきた。つまり他チームが勝利を引き寄せるためには、チームHTC・コロンビア得意のパターンを打ち破るのが最高の手段だったはずだ。……しかしラスト400mの緩やかなロータリーを抜ける頃には、またしてもゴスが全ての先頭に立っていた。背後に小さく身をかがめた緑色のジャージを引き連れて。
オーストラリア代表の一員として地元開催の世界選を走るゴスの後ろから、イギリス代表リーダーとしてオーストラリアに乗り込むカベンディッシュが飛び出した。大会開幕時にはコンビネーションが合わず苦しんだ両者も、2週間半で完璧な協力体制を作り上げることに成功した。3週間後にはライバルとして対峙する2人だが、この日はチームメイトとして喜びを分かち合った。カベンディッシュは大会3勝目。ポイント賞争いでは2位タイラー・ファラー(ガーミン・トランジションズ)との差を32pに開き、人生初のポイントジャージ獲得へとさらに一歩近づいた。
ニバリ、エセキエル・モスケーラ(シャコベオ・ガリシア)、ペーター・ヴェリトス(チームHTC・コロンビア)、フランク・シュレク(チーム・サクソバンク)の総合トップ4は、全員カベンディッシュから5秒遅れの集団でフィニッシュラインを超えた。ただ前日のタイムトライアルで総合首位から5位へと陥落したホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)だけは9秒遅れの集団でゴール。すなわちライバルたちから4秒を失っている。
●マーク・カベンディッシュ(チームHTC・コロンビア)
区間勝利
ボクにとっては区間3勝目。でもチームにとっては今ブエルタ5勝目なんだ。みんな大喜びさ。ボクらチームには7人残っていて、そのうち1人は総合表彰台を争っている選手だ。だから3人が追走の仕事を引き受けてくれた。マールティン・ヴェリトスはジルベールを捕まえるためにすごい仕事をしてくれた。そこから先は非常にテクニカルなコースだった。ロータリーも多かった。ゴール前4kmでは前方からチームが弾き飛ばされてしまって、少し心配していたんだ。でもペーター・ヴェリトスがラスト3kmでボクらを前に引っ張って行ってくれた。彼は来るべきステージのためにエネルギーを取っておかなきゃならないというのに!彼の人間性の表れさ。
クイックステップがすごい走りを見せていた。彼らはラストコーナーに猛スピードで突っ込んでいった。でもゴスが風の中に切り込んで、ボクを好ポジションまで連れて行ってくれた。とにかくスピードがとんでもなく速かった。どのギアを使ったらいいのか判断が難しかったよ。何回もギアをチェンジして、5回目にようやく望みどおりの加速ができるギアを見つけられたんだ。そしてラスト180mで飛び出した。フィニッシュラインを最初に越えたのはボクだけれど、ボクをラインへと押しやってくれたのはチームメイトなんだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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