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スタート時の気温は15度。開幕時には灼熱の太陽に照り付けられていたスペインにも、すっかり秋の気配が漂う。3週間の長旅は終わりに近づき、選手たちの疲労もピークに達しつつある。……そんな中での今大会最長の231.2kmステージ!しかもスタート地点からいきなり2級峠への上りが始まる上に、ステージ全体に小さなアップダウンが散りばめられていた。この起伏が、思わぬタイム差を生み出すことになる。
ゼロkm地点から突入した細く曲がりくねった上り坂では、ただしプロトンは集団のまま淡々と走った。今ステージ唯一の山頂間際で、ほんの小さな山岳ジャージ争いが起こっただけ。山岳賞2位のセラフィン・マルティネス(シャコベオ・ガリシア)が1位通過。青玉ジャージ保持者のダヴィ・モンクティエ(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)がそれに続き、2人のポイント差は10から8へと縮まった。大会8日目から始まった1対1の山岳賞バトルも、翌日の最終山岳ステージでようやく決着がつく。3級1つ、1級2つ、そして今大会最難関ボラ・デル・ムンドが登場する第20ステージで獲得できる最大ポイントは43。もちろんモンクティエが、3年連続のキング・オブ・マウンテンを虎視眈々と狙っている。
この日のエスケープは峠からの下りで出来上がった。まずジョゼップ・ジュフレ(アスタナ)とドミニック・ローエルス(チーム・ミルラム)が飛び出し、そこにハビエル・フロレンシオ(サーヴェロ・テストチーム)とマヌエル・オルテガ(アンダルシア・カハスール)が合流。その後も延々と続く小さなアップダウンを利用して、4人は後方から最大10分45秒もの大量リードを奪った。ただし今大会は難関山岳ステージ以外、どうやらエスケープ逃げ切りは決まらない定めのようだ。プロトンは長距離をかけてじわじわと追い上げると、ラスト13km地点で4人同時に回収した。
集団合流直後から、戦いはアタッカーたちの競演へと一気に移行する。スプリンターチームの制御を振り切って、第15ステージに大逃げ勝利を決めたカルロス・バレード(クイックステップ)や第3ステージ勝者フィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)が前方で飛び出しを試みた。ルイスレオン・サンチェス(ケースデパーニュ)が特攻を仕掛け、マシューハーレー・ゴス(チームHTC・コロンビア)と共にがむしゃらにペダルを漕いだことも。最終的にラスト1kmで2人の挑戦は終わりを告げるが、この2人のせいで、プロトンはズタズタに切り裂かれてしまうのだ。
上り基調のラスト800mでライバルたちを引きちぎり、ラスト200mの45度カーブを先頭で抜け出したのは、世界選へ向けて急速に調子を上げているジルベールだった。前日はラスト9kmの飛び出しを実らせることは出来なかったが、この日は冷静にポジション取りに努め、「ゴール前の小スプリントに向けて集中」した。目論みは見事に成功。ピュアスプリンターのタイラー・ファラー(ガーミン・トランジションズ)さえも振り切って、今大会2つめの勝利を手に入れた。元々2010年世界選手権優勝候補に上げられてきたジルベールだが、この勝利のおかげで、大本命としての立場はさらに強まったはずだ。ちなみにここトレドで最後にスプリントを制したのは、2008年のパオロ・ベッティーニ(2009年はタイムトライアル)。世界チャンピオンジャージ“アルカンシェル”を身にまとっての勝利だった。
世界選本命ではなく、ブエルタ優勝本命たちは、この長距離ステージを静かに終えたかったに違いない。なにしろ翌日には「激坂」ボラ・デル・ムンド決戦が控えているのだから……。ただし集団が小さく細切れとなった速い展開を上手く読み取り、問題なくフィニッシュラインを越えられたのはマイヨ・ロホを着るヴィンチェンツォ・ニバリ(リクイガス・ドイモ)と総合3位ペーター・ヴェリトス(チームHTC・コロンビア)だけ。ニバリは最終盤のアタック合戦に自らきっちりと反応し、前線から決して離されなかった。ヴェリトスはゴールスプリントさえする意欲を見せたほど。両者はジルベールから1秒差の小集団でゴールした。
一方で総合2位のエセキエル・モスケーラ(シャコベオ・ガリシア)は分断に引っかかってしまい……2人から12秒「も」失ってしまった!つまりニバリとの差は38秒から50秒へと開いたことになる。今大会ここまでモスケーラがニバリに先んじてゴールした難関山岳ステージは3つ。第11ステージは20秒(+ボーナスタイム12秒)、第15ステージは11秒、第16ステージは19秒をそれぞれニバリからもぎ取ってきた。つまり逆転優勝を目指すならば、これまで以上の努力が必要になるのだ。「とにかく明日は全力を尽くす。登坂口からアタックする。それしか選択肢がない」とモスケーラは語る。対するニバリは「ボクらチームは非常に強い。それにジロのゾンコラン、プラン・デ・コロネス、モルティローロで激坂なら慣れている。心配はしていない」と自信を強めている。
またヴェリトスを蹴落として表彰台3番目の場所に滑り込みたいフランク・シュレク(チーム・サクソバンク)、ホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)、シャビエル・トンド(サーヴェロ・テストチーム)も、三者三様の理由で状況が悪化。シュレクは危険な下りでパンクの犠牲になってしまった。幸いにもケガはなく、ラスト3km以内のメカトラブル・落車だったためタイム救済措置に救われ、首位から15秒差(ニバリ、ヴェリトスから14秒差、モスケーラから2秒差)のタイムが与えられた。3位どころか総合優勝さえも未だ諦めていないロドリゲスは首位から7秒遅れの小集団(ニバリから6秒差)でゴール。それでも被害を最低限に食い止めたか。トンドはシュレクと同じく15秒差。総合4位ロドリゲス、5位シュレク、6位トンドの表彰台までのタイム差は、それぞれ1分49秒→1分55秒、1分44秒→1分58秒、1分49秒→2分03秒と開いてしまった。
●フィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)
区間優勝
チームが素晴らしい仕事をしてくれた。山でアタックせず集団に残って、最後までコントロールするほうを選んだ。ルイスレオン・サンチェスが危険な動きをしたけれど、向かい風が吹いていたし、デーヴィット・ミラーが追走してくれたおかげで冷静でいられたんだ。彼がボクのアシストをしてくれたようなものだったよ!だからボクはゴール前のスプリントだけに集中していった。ゴールの地形はボクの脚質にぴったり合っていたね。タイラー・ファラーという世界で2番目に速いスプリンターを倒すことが出来て誇りに思う。
ポイント賞ジャージに関しては後悔していない。取れないと分かった時点ですぐに諦めたんだ。だってボクの目標は世界選手権への調整であり、ポイント賞ではなかった。だから緑ジャージが不可能だと分かった後は、平坦フィニッシュでの大集団スプリントにはあえて加わらなかった。落車してケガしてしまったら元も子もないからね。でも区間2勝も上げられて、ボクにとっては十分な成績だ。今シーズンは世界選手権だけに集中してきた。順調に調整が出来ているし、体調はものすごくいい。オーストラリアではいい成績が出せることを願っている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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