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サイクル ロードレース コラム 2010年9月19日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2010】第20ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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道幅の広いアスファルト舗装路が、突然、山頂まで3km地点でがらりと様相を変える。道幅はたったの2mほど。大ぶりな石が埋め込まれたコンクリートの道は究めて状態が悪く、ところどころひび割れている。山肌には濃い霧が風に任せてふわふわと行ったり来たり。しかもあとペダルを数十回漕ぎさえすれば標高2247mの山頂ゴールに到着……という時に、今ステージで最も厳しい勾配20%が待ち構えているのだ!幸いだったのは雨が降らなかったこと。それでも摂氏10度以下の冷たい空気の中で、今ブエルタ最後の戦いが繰り広げられた。

“ラ・ロハ”を巡る最終決戦ステージは、ただし暖かな秋の太陽の下で始まった。ジロ・デ・イタリアに続く2010年2度目のグランツール制覇に王手をかけるリクイガス・ドイモが、スタート直後から上手にプロトンをコントロール。17km地点で18選手のエスケープ集団を先に行かせた。

60km地点で約5分のリードを奪った前方集団だったが、以降、チーム・カチューシャやシャコベオ・ガリシアの加速でタイム差は次第に縮まっていく。ヴィンチェンツォ・ニバリ(リクイガス・ドイモ)との50秒差をひっくり返したいエセキエル・モスケーラ(シャコベオ・ガリシア)や、3分54秒もの大差にも関わらず総合優勝の夢を未だ諦めていないホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)は、どうしてもエスケープ集団に逃げ切り優勝を許したくなかったのだ。「ボクにとってはどんなわずかなタイムだって大切なんだ」とロドリゲスが常々口にしてきたように、区間上位3人に与えられるボーナスタイム(20秒、12秒、8秒)効果も考慮に入れていたに違いない。

その後もエウスカルテル・エウスカディの2選手が矢のように飛び出して行き、3年連続の山岳賞を早めに確定したいダヴィ・モンクティエ(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)がアタックを仕掛けても、両チームはメイン集団に速いテンポを強い続けた。いよいよ最終峠に突入してからは、ダビ・ガルシア(シャコベオ・ガリシア)が長期間に渡って牽引役を務めた。おかげでエスケープ集団内で幾度となく繰り広げられた離合集散などお構いなく、ラスト9kmで全ての逃げ選手がきっちりと回収された。また合流後にレミ・ディグレゴリオ(フランセーズ・デ・ジュー)やオスカル・プホル(サーヴェロ・テストチーム)、アメッツ・チュルーカ(エウスカルテル・エウスカディ)が賭けに出たが、すぐに努力は無に帰す。そして本当の戦いの火蓋が、総合5位につけていたフランク・シュレク(チーム・サクソバンク)のゴール前4.8kmの加速で、ついに切って落とされた。

真っ先に反応したのはモスケーラ。スペインが生んだ伝説のヒルクライマー、フェデリコ・バアモンテスから「山の入り口でアタックをかけろ。それが総合優勝への鍵だ」と助言を得ていたモスケーラは、ラスト3km=激坂の入り口へ向かって猛ダッシュ。シュレクやロドリゲス等を後方へ押しやり、今ステージで最も厳しいゾーンへ先頭で飛び込んで行った。直接的ライバルのニバリも、わずか5mほど遅れて細道へと突入した。2010ブエルタ最後にして最大の難関ステージは、総合トップ2の直接対決でクライマックスを迎えた。

熱狂的なファンで埋め尽くされた細い山道で、モスケーラはさらなるスピードアップを試みる。残り3kmを示すアーチの下では、完全にニバリを振り切った。一時は20秒近い差もつけた。地元TVの実況は興奮の声を張り上げ、気の早いスペイン人たちは抱き合って喜び合ったほど。もちろんモスケーラ区間1位、ニバリ区間2位が予想されるこの状況において、逆転総合優勝のためにはモスケーラはニバリを43秒以上突き放さなければならない。このタイム差を実現させるために、モスケーラはダンシングスタイルで幾度となく脚に力を込めた。

ところが後を追うニバリは、決して慌てたりしなかった。むしろサドルにしっかり腰を落とすと、極めて規則正しくペダルを回し続けた。「イタリアの激坂ならプラン・デ・コロネスに少し似ているね」とゴール後に語ったが、2010年ジロの同地山岳タイムトライアルでは4位という好成績を収めている。だからこの日もタイムトライアルのように規則正しく、冷静に走り、徐々にモスケーラとの距離を詰めて行った。そして最後の1kmで残された力を全て解放。ラスト1kmのアーチをくぐった時には未だ16秒あったタイム差も、残り500mで一気に9秒にまで短縮した。最後はスペイン人たちが悲痛な声を上げる中、モスケーラからたったの1秒差で、小さな山頂のフィニッシュラインへとたどり着いた。総合では41秒差で、大切なマイヨ・ロホを守りきった。

「まだ実感がわかない。でも間違いなくこれまでのキャリアでは最高の勝利だ。ボクはビッグレーサーの仲間入りを果たせたね」。今年のジロで総合3位に入り、グランツールレーサーとしての自信を強めていたニバリは、生まれて初めてのグランツール総合優勝を(ほぼ)手中にした。イタリアにとっては1990年マルコ・ジョヴァネッティ以来、20年ぶりのブエルタ制覇。これまでブエルタ総合5位を2回、4位を1回経験してきたモスケーラは、初めての優勝争い、そして初めての総合2位。もちろん人生初めての区間勝利も忘れてはならない!「この3日間、ファンやメディアからたくさんの応援をもらった。トップに立つことがいかに大切なことなのか、ようやく実感したよ」と語る34歳は、来季オランダのヴァカン・ソレイユへの移籍が噂されている。総合3位の座を守りきったペーター・ヴェリトス(チームHTC・コロンビア)にとってもまた、初めてづくし。グランツール表彰台は本人にとっても祖国スロバキアにとっても初体験。なんともフレッシュな顔ぶれの総合表彰台となったものだ。

また、落車リタイアしたイゴール・アントン(エウスカルテル・エウスカディ)と共に今大会前・中盤を大いににぎわしてくれたロドリゲスは、今ステージ3位と健闘したものの表彰台には1分18秒及ばなかった。大会前の優勝大本命フランク・シュレク(チーム・サクソバンク)は総合5位止まり。2008・2009年ツールでも総合5位に入っており、自己最高記録を更新することさえ出来なかった。

赤ジャージの行方と共に、青玉ジャージの持ち主もついに確定。3年連続でフランスのモンクティエがスペイン山岳王に輝いた。白いジャージの複合賞も、おそらくニバリで確定だろう。すると未だ定まらないのはポイント賞ジャージ持ち主だけ。2位以下に12p差をつけるマーク・カベンディッシュ(チームHTC・コロンビア)が、待望の緑色の栄光をつかめるのか。マドリード中心地の大集団スプリントゴールを待つとしよう。


●エセキエル・モスケーラ(シャコベオ・ガリシア)
区間勝利

総合優勝は出来なかったけれど、失望なんかしていない。もちろん今日は区間勝利だけではなく、ブエルタの総合を狙いに行ったんだ。ボラ・デル・ムンドの登坂口ではニバリは苦しんでいたようだったけれど、その後は規則的な走りを見せて徐々にリズムを取り戻したね。今日のニバリは本当にすごく強かった。でもボクは区間勝利を手にすることが出来て本当に嬉しいんだ。いくつかの区間で無駄に数秒を失ってしまったことがあった。こういった区間でタイムをきちんと押さえておけば、もしかしたら優勝争いにもっと食い込めたのかもしれないね。でもボクは出来る限りのことをやった。もうこれ以上できないくらい力を尽くしたんだ。

シーズン中には何度か引退も考えた。春先にいい成績が出せなかったからね。いくらトレーニングしても思ったとおりの走りが出来ないときは、気持ちが落ち込むものなんだ。でもこうしてシーズン末に、人生最高とも言えるレベルまで達することが出来た。34歳のボクにとっては、レースを続けるためにはこういった気持ちの部分が大切なんだ。まだまだハイレベルの走りが出来るんだ、という自信が必要なんだ。だからこうして素晴らしい成績が出せたことで、さらにやる気をかきたてられる。


●ヴィンチェンツォ・ニバリ(リクイガス・ドイモ)
総合リーダー

まだブエルタ総合優勝の実感はわかない。でもボクにとってはキャリア最大の勝利だ。グランツール勝者という選ばれた者たちの仲間入りをすることが出来た。子供のころの夢が叶ったよ。イタリアにとっては20年ぶりのブエルタリーダージャージ。でもスペイン選手たちはそれこそ大会序盤から最後まで非常に強かった。ものすごく難しい戦いだったよ。

今日はラスト3kmが最難関ゾーンだと分かっていた。だからゾーン手前まではモスケーラに出来る限り張り付いていくよう気をつけた。彼がアタックしたあとは、ボクは出来る限り規則正しいリズムで走るよう努力した。十数秒程度のタイム差は気にしないようにした。またラスト1kmに向けて体力を温存して、そこで一気に距離を縮めたんだ。ボクは決してパニックに陥ることはなかったし、状況を上手くコントロールして、そしてマイヨ・ロホを守りきったんだ。

確かにイタリア選手にとってジロが最も大切な大会なんだ。さらに全ての自転車選手にとって、ツール・ド・フランスが最高の大会だ。でも今日はボクにとって、自転車選手としてのキャリアにおける最も美しい1日となった。この素晴らしい瞬間を十分に満喫したい。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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