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ワウテル・ウェイラントはこの日、イタリアまで彼を迎えに来た家族や恋人と共に、故郷へ帰路についた。所属チームのレオパード・トレックと親友のタイラー・ファラーもまた、強い悲しみを抱えたままジロから立ち去った。ウェイラントの紹介でクイックステップへと入団したイイヨ・ケイスも、ピレネーでの合宿を切り上げて、ヘントへ飛んだという。来る13日には元チームメートのトム・ボーネンが、特別追悼ラジオ番組に出演し、ウェイラントの思い出を語る。ヘント市役所とツール・デ・フランドル博物館には、この火曜日からファンのための記帳所が設けられた。そしてスタート地の朝のサイン台では、自転車イタリア代表監督パオロ・ベッティーニが、永久欠番となった108の枠にこう書き入れた。「Sempre con noi!!」(always with us)
こうしてジロは日常を取り戻した。ひとまわり小さくなった197人のプロトンは、初夏の陽光に照らされて、本気の戦いへのスタートを切った。
この第5ステージの目玉はなんと言っても……、終盤に3ゾーン・計19kmに渡って通過するストラーデ・ビアンケだった!ちょうど1年前は大雨のせいで「泥の道」となり、選手たちはみな頭のてっぺんからつま先まで真っ黒になったものだ。泥で滑りやすくなった道では落車が多発し、やはり落車の犠牲となったヴィンチェンツォ・ニバリがマリア・ローザを失うという、ドラマチックな展開も繰り広げられた。幸いにも、2011年は好天に恵まれたおかげで、その名の通り美しき「白い道」が選手たちを招き入れた。もうもうと舞い上がる砂埃と共に。
未舗装路に先頭で突っ込んで行ったのは、スタート12km地点からたった1人で逃げていたマルティン・コーラーだった。一時は12分もの大差をつけたスイスの25歳は、昨ジロでグランツールデビューを果たしたものの、実は第2ステージで落車リタイアしている。つまり「泥の道」以前に帰宅していたのだが、今年はたっぷりと名物ルートを堪能することができたようだ。しかもクローチェ・ディ・フィギーネ峠の未舗装山頂では、鈴なりのファンの大きな歓声を——静かな拍手でプロトンを見守った前日とは対照的に——独り占めさえした。ただし後方ではプロトンが動き始めていた。リードは徐々に縮まっていく。
道幅の狭いストラーデ・ビアンケへ向けて熾烈なポジション争いを繰り広げていたプロトン内で、真っ先に白い道へ飛び込んだのは、総合本命の1人に上げられるニバリだった。さらに「こんな道でリスクを冒したくない」とアルベルト・コンタドールが後方に留まっているとの情報を得るや否や、プロトン屈指のダウンヒラーは、下りを利用してアタックにさえ打って出た!泥の坂道では下りで路肩に投げ出されたが、乾いた土の道ではぎりぎりのライン取りで攻めたてた。しかし3大ツール計5勝の王者は、「調子は良かったからね。だから問題なくニバリに追いつけたんだ」と、まるで何事も起こらなかったかのようにライバルの攻撃を中和したのだった。それ以外の総合有力候補たちもみな、自分の居るべき場所に留まった。
総合争いの緊張感はここで少し緩んだが、メイングループのスピードは衰えなかった。マリア・ローザ姿のデーヴィット・ミラーが、白い山道で遅れ始めていたからだ。とくに総合でわずか9秒差につけているコンスタンティン・シフトソフと初日マリア・ローザのマルコ・ピノッティが、集団の加速化に尽力した。ちなみに中間スプリントポイントでは、総合2位アンヘル・ビシオソの仕掛けたボーナスタイム獲得合戦を、ミラーは真正面から受けて立った。自らスプリントを争いに行き、そして両者が絡み合って……、「アホらしい落車」をしてしまう。ただし未舗装ゾーンでの遅れは落車の影響ではなく、むしろアレルギーに苦しめられたせいだという。
ステージも残り25kmを切ると、区間狙いのアタックも乱れ打ちのように巻き起こった。真っ先に前に出たのはブラム・タンキンクとダリオ・カタルド。ところが下りの未舗装ゾーンで、カタルドが1人で滑って転び、さらにタンキンクも勝手に1人で転んでチェーントラブルに。次に飛び出したのはジョン・ガドレ。何度目かの試みでついにメイン集団を抜け出すと、ピーター・ウェーニングを引き連れてコーラーを追った。そしてラスト10kmのアーチをくぐった直後に、2人はついにコーラーを捕らえた。しかしメイン集団とのタイム差わずか8秒。吸収への秒読みが始まっていると、誰もが信じた。
ラスト8.8km地点。ウェーニングが平地で力強くペダルを踏み込んだ。真っ直ぐ前だけを見て、決して振り返らずに。山岳巧者ガドレは隙を突かれ、コーラーにはもはや縋りつく力など残っていなかった。ほんの背後に迫っていたメイン集団さえも、完全に置き去りにされてしまった。ゴール直前の上り坂で、あわててミケーレ・スカルポーニが鋭い加速を見せたが、すでに遅すぎたのだ。
「ボクみたいな選手はなかなか勝てないよ。スプリント勝利は無理だから、単独逃げ切りを狙うしかないからね」とウェーニングは語る。その言葉通りに、たった1人でフィニッシュラインへと姿を現した。2005年ツール第8ステージに続く、人生2度目のグランツール区間制覇。また後続とのタイム差など全く気にせずに、ゴール前75mから歓喜のジェスチャーを繰り返した挙句に、わずか2秒差で総合首位の座さえも手に入れた。ピノッティやシフトソフ、またクリストフ・ルメヴェルなどがボーナスタイムを手に入れていれば、あっさりと逆転されるようなタイム差だった。……それにしてもゴール前100mからバンザイしていなくて本当に良かった、と、今頃はほっと胸をなでおろしているのかもしれない。おかげで「キャリアで2番目に素晴らしい勝利」だけでなく、マリア・ローザを手に入れて「生涯忘れられない日になった」のだから。
またウェーニングのチームメート、21歳のトムイェルト・スラフトールがゴール前15kmで激しい落車の犠牲に。頬骨を骨折し、数箇所の打撲を負ったが、幸いにも命には別状がなかった。
●ピーター・ウェーニング(ラボバンク) br>区間勝利、マリア・ローザ br>
パーフェクト。ツール・ド・ロマンディの開幕前から、ボクはすでに絶好調だったんだ。ツール・ド・フランス区間勝利に続いて、キャリアで2番目に素晴らしい勝利だね。この先はマリア・ローザをできる限り長く守れるように努力していく。でも、この先どんなことが起ころうとも、ボクのジロはすでに大成功なんだ。
今日のようなステージでは、攻撃が最大の防御となる。もしもダートロードで後方に残っていたら、何も見えなくなってしまう。だからアタックを打ったんだ。最終盤は後ろからすごい勢いで集団が追い上げてきていたから、ものすごく不安だった。でもゴール前の上り後半は勾配が緩やかになることが分かったから、なんとか持ちこたえるために全力を尽くした。ステージの危険性?ボクに文句は言えないよ。だってボクがステージを勝ったんだから!確かに難しいコースだったけれど、「ストラーデ・ビアンケ」の状態は良かった。自転車レースには常にリスクが付きまとうものさ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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